花王のホラーゲーム『しずかなおそうじ』から見えた、新しい広告の可能性

Vol.256
ゲーム『しずかなおそうじ』プロジェクトメンバー
Whatever Co./JUN MUSIC/花王株式会社
飯田 依里子氏/宗 佳広氏/片倉 惇氏/杉本 健氏
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写真右から
Whatever Co. プランナー/プロデューサー
飯田 依里子 (Yoriko Iida)
Whatever Co. デザイナー /クリエイティブディレクター 
宗 佳広 (Yoshihiro So)
JUN MUSIC 作曲家 /サウンドプロデューサー
片倉 惇 (Jun Katakura)
花王株式会社 作成センター クリエイティブディレクター 
杉本 健 (Ken Sugimoto)

「マジックリン」や「クイックル」などを展開する花王が、ホームケア事業部初となる3D探索型ホラーアクション/清掃シミュレーションゲームを公開しました。
ゲーム実況配信を経由して、瞬く間に世間の話題を集めたSteam版ゲーム『しずかなおそうじ』は、実際の花王の商品を使用し、迫りくる“ヤツ”を回避しながら家中を掃除するホラーゲームです。「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2026」において「Entertainment Lions for Gaming」部門ブロンズライオン受賞など、国内外で権威あるアワードも獲得しています。広告だけではなくゲームとしてもクオリティが高いコンテンツである『しずかなおそうじ』。本作はどのように生み出されたのか、プロジェクトを支えた関係者の皆様にお話を伺いました。

皆様の所属先と、現在の主な業務や活動について、ご紹介いただけますでしょうか。

飯田さん:Whateverでプロデューサーとプランナーをしていますが、案件によってはクリエイティブディレクションもします。『しずかなおそうじ』では企画の初期段階から関わり、全体の進行管理やPR設計を担当しました。

宗さん:Whateverでデザイナーとクリエイティブディレクターをしております。
アプリやゲームイベントなどで体験版のディレクションをすることが多く、ホラーゲームを制作することが決まった段階で『しずかなおそうじ』に参画し、デザインとクリエイティブディレクションを担当させていただいております。

片倉さん:JUN MUSICという音楽制作チームの代表をしています。『しずかなおそうじ』ではサウンドを中心としたゲームシステムを担当しました。

杉本さん:花王株式会社の作成センター第一ブランドクリエイティブ部に所属し、ホームケア商品やファブリックケア商品を中心に、広告のクリエイティブディレクションやアートディレクションを担当しています。『しずかなおそうじ』では花王側のクリエイティブディレクションを担当しています。

『しずかなおそうじ』は、カンヌライオンズ2026の「Entertainment Lions for Gaming」部門でブロンズライオンを受賞するなど、国内外でアワードを受賞しています。反響はいかがでしたか?

杉本さん:自分たちが作ったものが誰かに評価されたというのはやはりすごく嬉しいです。周りの反響も、もちろん嬉しいのですが、広告業界にちゃんとこの『しずかなおそうじ』を残すことができたというのが良かったと思っています。広告って時間が経つとどんどん忘れ去られてしまうのですが、後から検索しても賞を取ったという事実が残る。受賞をきっかけに、社内でも『しずかなおそうじ』を知ってもらえる機会が増えました。「花王でもこんなことができるんだ!」と喜んでもらえたのは、本当に嬉しかったですね。

 Whatever Co. 飯田 依里子さん

『しずかなおそうじ』がここまで話題を広げることができた要因はどこにあったと思われますか。

飯田さん:第一段階はやはり、あの花王が?!という意外性ですね。多くの方が「花王さんのホラーゲーム」というギャップにまず食いついてくれた。第二段階が、ゲーム実況配信者のガッチマンさんが実況してくださったことです。「この人がプレイしたゲームなら面白い」と思ってもらえて信頼できる方を選んだのですが、それがもう本当に良かった。そこから数百万人にバッと拡散されました。
第三段階は、掛け算のクリエイティブ。無料のゲームなのにプレイしてみたらすごく本格的!と思っていただけたことですね。
第一、第二段階だけだと多分一瞬で終わっていたと思います。ちゃんとゲームとして面白いとユーザーさんに評価していただけたことは大きかったです。
大企業によくあるような、ネットカルチャーの表面だけをなぞった取り組みだと思われることは避けたかったんです。ゲーム実況配信者は、新規ファン獲得や既存ファンをどう引き止めるかを毎日考えて活動しているプロフェッショナルですから、その方たちが「このゲームをプレイして実況配信したら視聴者さんも喜んでくれるのではないか?」と思ってくださった。そんなふうに花王さんと配信者がWIN-WINになるものを作りたかったのです。

花王株式会社 杉本 健さん

花王さんがお掃除商品のプロモーションにゲームを選定した理由は何だったのでしょうか。

杉本さん:もともとゲームを作るつもりはなかったんです。マジックリンやクイックルは、花王ではホームケアカテゴリーに属する商品なのですが、これまでの広告のやり方では、20代~30代の若年層との接点がつくりにくくなっているという課題がありました。
これから、従来の広告では届きにくい人たちが増えていく中で、そうした人たちにも商品の価値をちゃんと伝えられる方法を、今のうちに見つけておかなければならないと思っていたんです。ホームケア商品はCMなどのマス広告を中心にやっているのですが、デジタル広告はそれと比較して弱かったんです。
このままでは僕らと若年層のお客様との接点がどんどんなくなってしまう。そこで、どうしたら若年層に商品価値を伝えられるのかを考える社内プロジェクトが発足しました。
プロジェクトの前提条件は「デジタル施策」であること。もう一つは、「花王が今まで組んだことのない新規の企業様と新しい”何か”をすること」でした。
いくつかの企業の中で、Whateverさんが候補に挙がりまして。打ち合わせの際に、現状の課題や花王らしさとは何か、というようなことをお話ししました。他のメンバーの方々と家の中にどんな花王商品があるかを調べて、皆さんがこういう掃除の仕方をしているとか、こんな家事をしているなどをマップに書き出したりして。そこからワークショップの形で課題を出しつつ、それに答える施策を挙げていった中で、「ホラーゲームで実況してもらう」というアイデアが出てきまして。花王ではもちろん、他社の広告でも見たことがない。しかも、ただ面白いだけではなく、課題にもちゃんと効きそうだと思い、「これなんじゃないか」と思いました。

宗さん:Whateverは、企業様からいただいた課題に対して数多くのアイデアを出させていただいています。今回はホラーゲームが一番刺さったのですね。

杉本さん:そうですね。ただ、「花王らしさ」を意識しすぎると、どうしても「花王ならこういうことを求めているだろう」と、無意識にアイデアの幅を狭めてしまうことがあると思うんです。今回はそこをなるべく取っ払って、今までにない可能性を一緒に探したいと思っていました。

片倉さん:Whateverさんは体験者をトッププライオリティにするんです。他社さんは見栄えや数値などクライアントにとって評価しやすいポイントが優先になりがちなのに対して、最終的にどういう体験ができるかという話が必ず初回ミーティングで出る。そこが花王さんと噛み合ったのではないのかなと感じています。

アイテムとして実際の商品が取り入れられていますが、ゲームシステムとして組み込む際に苦労された点はありますか。

杉本さん:花王が出す広告としてのルールはきちんと守らなければいけない。テストプレイの時には、法務やブランド担当のマーケターにも確認してもらいました。すごく石橋を叩いて、普段の広告以上に慎重になっていましたね。

宗さん:ゲームの初期段階ではゴム手袋ではなく、素手の設定だったんです。しかし実は、キッチンマジックリンを安全に使うためには、手袋を着用する必要がある。手袋を持っていないのにキッチンマジックリンは吹きかけられないぞ、という話になって。最初から初期装備としてゴム手袋をつけることになりました。

杉本さん:例えば、トイレ掃除用の商品だと、トイレマジックリン・トイレクイックル・トイレハイターなど色々な商品があったりします。その中で、トイレクイックルが出ちゃうとトイレマジックリンは出られないなとか。パズルのような工程はたくさんあったと思います。

飯田さん:途中までこの洗剤で掃除していたのに、ここで別の洗剤に変えて掃除できてしまったら、ゲームシステム的に破綻してしまうんじゃないかとか。ユーザーさんが、ゲーム中でたくさんのアイテムを切り替えるのは難しいかも?とか。花王さんの基準をどうゲームに入れ込むか悩みましたが、最終的にはバランスよくアイテムを取り入れられたと思います。

JUN MUSIC 片倉 惇さん

ゲーム内で視覚的、聴覚的に工夫したところはありますか。

片倉さん:僕は、コンセプトが「音を頼りに“ヤツ 何か”から逃げるゲーム」で、それは目が見えないけれど音に反応してやってくる…と聞いた時から、これは音が重要なゲームになるぞと思っていました。プレイヤーに一番聞かせたいのは花王さんの洗剤の音。その上で”ヤツ”が近づいてくる音や、さまざまな演出音が耳に入ってくるシステムを提案させていただきました。
結果、制作データの量は、最初に言われていた時の4倍くらいになってしまって。それでもやらせてくれたWhateverさん、ありがたかったです(笑)。

宗さん:ホラー作品の中には、怖いシーンにあえて面白い効果音や映像を入れて苦手な人向けに対応している作品があるのですが、Switch版の「こわさひかえめモード」でも、それを取り入れられないかと考えたんです。画面を明るくしたり、怖い音を全部コミカルにしたりしたら、怖くなくなるのではないかなと。本当は“ヤツ”のビジュアルをもっと変えたかったのですが、全員で話し合って今の形になりました。

片倉さん:僕はいかに実況者が楽しそうにできるかということも考えていました。 ある夜、宗さんに「エンディングをメタルにしたい。」と相談したんです。実況者ってゲーム後のエンディングを見ているところが語りの本番だから、楽しい気持ちで話せるようにしたいと思いました。そうしたら宗さんが「僕、メタルバンドをやっているので、ギター弾きます!」って言っていただいて。

 Whatever Co. 宗 佳広さん

宗さん:僕と片倉さんの意見が一致したんですよ。エンディングはもっと盛り上げたかった。
映画『マトリックス』のエンディングでロックバンドの「Rage Against the Machine」がかなり激しい曲を演っていて、それがかっこよくてとても記憶に残っていました。それを花王さんに1回提案してみましょうかと。

杉本さん:とても面白い提案でした。花王としてそれが有りなのか無しなのかはジャッジしましたが、その頃にはもうだいぶ信頼関係も築けていたので特に問題はありませんでした。

片倉さん:『しずかなおそうじ』のエンディング曲って「ウォッシュ!」って叫ぶじゃないですか。あれはVTuberが一緒に叫びやすいような音の構造を作っているんです。「ウォッシュ!」でみんな盛り上がった後は曲調を抑えて、実況者が話しやすい時間を作りました。

杉本さん:聞かせていただいた時に、社内のチームチャットでみんなが「ウォッシュ!」「ウォッシュ!」って叫んでいましたね(笑)やりたいという熱意があふれて伝わってきて、すごくいいなと思いました。私の役割は、そういう面白い提案を花王の中でちゃんと実現できるようにすることだと思っていたので、なんとか採用できるように動きました。

飯田さん:メタルの話が来た時、どうやって通そう……と悩みましたが、その心配は要らなかったですね(笑)。

本作はゲームを広告に活用した取り組みの成功例だと思いますが、今回の事例を今後どのように活かしていきたいとお考えですか。

杉本さん:メーカーの中で広告に携わっている身として、今回すごく感じたのは、広告にはまだ新しい可能性があるということでした。
長い歴史がある広告づくりの中で、もう新しいやり方を生み出すのは難しいのかなと思うこともあったのですが、今回、ゲーム実況という文化や、ゲームをつくる技術、Whateverさんのようなチームが揃ったことで、今までにない広告の形を実現できた。それはすごく嬉しかったです。
今回のやり方をそのまま別の商品に横展開するのではなく、その時代の文化や技術、その商品が抱えている課題に合わせて、新しい伝え方をこれからも考えていきたいと思っています。

最後に、ゲーム業界や広告業界でクリエイターを目指す方にメッセージをいただけますでしょうか。

杉本さん:花王というメーカーにいても、自分はクリエイターであるという意識は常に持っています。やっぱりものづくりって楽しいよねとか、新しいものを作る時のパワーが生まれる時の喜びは、かけがえのないものです。
ものづくりをしていく中では、大変なことや辛いこともあります。でも、自分が何にときめいたのか、そしてなぜときめいたのかを覚えておく。それが自分の資産になって、また次に面白いものをつくる力になる。そういうことが、クリエイターにとって大事なんじゃないかと思っています。

片倉さん:顔の見えないお客様や体験者のことをどれだけ思いやれるかということが、とにかく一番大事だと思っています。
そこを無しにしてクリエイティブは成立しない。そして、いま目の前にいる誰かとそして自分を大事にすること。そういう仕事の仕方をしてほしいと思います。

飯田さん:面白いことや好きなことを形にするのには、健康が大切です。若い子たちがずっと寝ないで没頭している姿をよく見るのですけど、あとになって必ずガタが来ます。自分の中にあるこれ絶対面白い!とか、この分野絶対好き!という想いを持ち続けていると、それ面白いね、一緒にやろうって言ってくれる人にいつか必ず出会えるんですよ。いつか来るそのチャンスを活かすためには、まずは健康第一ですね。

宗さん:インプットがないとアウトプットはないです。ゲームクリエイターになりたいんだったら、ゲームだけじゃなくいろいろな分野をやってみる。
それで自分に合ったものを広く浅くじゃなく、広く深くやってほしい。僕は掃除が好きな方なのですが、そういったことも今回の案件に役立っていますし、バンドを組んでいることが本作のエンディングの楽曲に役立ったりしました。アンテナを張ることもそうですが、ちゃんと自分のフィルターを通して、自分に合うものを見つけてください。

取材日:2026年8月27日 ライター:こくほうどう / スチール:natsUki

『しずかなおそうじ』

「気配を消して、掃除せよ。」花王のおそうじ道具を使った、3D探索型ホラーアクション+清掃シミュレーションゲーム。宅内を清掃し、かつ謎を解きながら脱出せよ。清掃率や脱出時間により、家の査定価格が変わる異色のホラーゲーム。

プラットフォーム:Steam
https://store.steampowered.com/app/3833930/
リリース日:2025年8月7日
開発元:Kao Home Care Business
パブリッシャー:Kao Corporation

プラットフォーム:Nintendo Switch/Nintendo Switch 2
https://www.kao.co.jp/osouji/shizukana-osouji/
リリース日:2026年7月23日
パブリッシャー:エスカドラ
価格:200円(税込)

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