家を歩く? Do Ho Suh 後編 @Tate Modern

Perfect Home: London, Horsham, New York, Berlin, Providence, Seoul 2024 Do Ho Suh
シースルーの白い布でできた壁にキャンディカラーのオブジェが散りばめられた建物。早速中に入ってみます。

作品名:同上

作品名:同上
縫い合わされていたのは布製のドアノブ、照明のスイッチ、コンセント、インターホンなどの備品。それにしても数が多いし、設置の高さが微妙に違う?実はこの建物は現在のSuhのロンドンの住まいを1/1スケールで再現したもの。そしてカラフルな備品はロンドン、ホーシャム、ニューヨーク、ベルリン、プロビデンス、ソウルといった、彼と家族が暮らしてきた場所にあったものの再現で、元々あった場所と同じ位置と高さに配置されています。これらの備品は家に属するものですが、住んでいくにつれて身体の一部のように馴染んで意識しなくてもそこにある事が認識できるようになります。一方、Suhは新しい家や、地理的な違いに適応する際に生じる方向感覚の喪失を、時差ぼけによる身体的体験に例えています。

Rubbing/Loving Project: Unit 2, 348 West 22nd Street, New York, NY 10011, USA 2014 – 2023 Do Ho Suh
整然と陳列された黄色のオブジェ。こちらはSuhのニューヨークの住まいの備品に紙を擦り付けて型取りしたもの。作品は元の梱包のまま展示されていて、自然史博物館の展示ケースを彷彿させます。Suhはこれらを「標本」と呼んでいます。空間とその記憶を「保存」する行為において、Suhは記憶と幻覚の両方に圧倒されたといいます。「擦り付けるという瞑想的なプロセスを通して、まるで幻覚を見ているかのようでした。」

Bridge Project 1999 – ongoing Do Ho Suh (画面に収まっていませんが、右上がソウル)
最後はSuhの1999年から現在進行中の「ブリッジ・プロジェクト」。彼の人生における3つの主要な都市を結ぶ橋の中心に、彼自身の「理想の家」を建てるという構想。当初の案、フェーズ1では、Suhは北太平洋に架かる、ソウルとニューヨークを結ぶ4つの思索的な橋のデザインを提案します。そして、フェーズ2には、彼が現在居住するロンドンが含まれます。これら3つの都市間の距離を測った結果、Suhはその中心点がなんと北極海!にあることを発見します。

作品名:同上
この橋はNY、ロンドン、ソウルに繋がっている?

作品名:同上
自給自足は可能?

作品名:同上
救命スーツも用意。こちらの実物も展示されていました。

作品名:同上
たまには外食もしたい!

作品名:同上

作品名:同上
そんな時はこちらの観覧車式のレストランへ。観覧車は飲食店のみならず、Suhが各国から選んだショップが並びます。ロンドンの画材店Cass Artも入っていました。Suhは建築、工学、工業デザイン、服飾デザイン、哲学、人類学、生物学などの専門家と協力し「理想の家」を検証しています。Suhは、たとえ実現されることがなくても、芸術がいかに新しい世界を想像できるかを問いかけます。

作品名:同上
彼はまた、現実世界の社会、政治、そして環境問題にもふれています。「理想の家」はいったいどこの国に属するのでしょうか?「理想の家」は、最も近い北極海の海岸線から700キロメートル以上離れた場所に位置し、その場所はどの国の管轄下にも属していません。しかし、ノルウェー、カナダ、デンマーク、ロシア、そしてアメリカ合衆国が領有権を主張しています。

作品名:同上
実は、最も近い土地に住んでいるのは、チュクチ半島の先住民チュクチ族とアラスカのイヌピアット族。どちらも16世紀からロシアの侵略に耐えてきた先住民で、近年原油や天然ガスが発見されると、その利権をめぐってロシアとアメリカの軍事的圧力がかかるようになります。

作品名:同上
インタビューのなかで、イヌピアット族の女性は語ります。「1995年頃だったかしら、海氷(永久凍土)が真っ二つに割れ、溶け出したの。誰も関心を示さなかった。私たちは家を追われた。おじが言っていた。それでも私たちは冷たい北極で生きるんだって。」
「理想の家とは?」このプロジェクトから様々な疑問が浮かび上がってきます。







