アウェリ(Awely) の祈り 前編 @Tate Modern

Ntang (seed) Dreaming 1989 Emily Kame Kngwarreye
暗くどんよりした冬のロンドン。数度気温が下がれば雪になるであろうと思われる霧雨の中、この日向かったのはテート・モダン。そこで出会ったのは黄、黒、赤、白のドットで描かれた鮮やかな絵画。抽象画のように見えますが、実はalyatywerengと呼ばれる食用の植物の種子を描いたのだとエミリー・カーメ・ウングワレー(Emily Kame Kngwarreye)は語ります。ウングワレーの一族はこの種子を粉状に磨り潰し、パン生地のようにこねてから焼き上げます。
今回から2回に分け、テート・モダンより、オーストラリアのアボリジナル・トレス海峡諸島民の画家、Emily Kame Kngwarreye(1910 – 1996)展をお伝えします。
会場にはまた、言語表示についての説明がありました。
「テート美術館はウングワレーの家族と地域コミュニティの支援を得て、2010年に出版された『セントラル·アンド·イースタン·アンマティエル語·英語辞典』で使用されているウングワレー族の言語であるアンマティエル語を採用しています。可能な限り、英語の地名と並んでアボリジニの地名も使用しています。また、ウングワレーにとって重要な植物、動物、概念を表すアンマティエル語も掲載しています。」

Ankerr (Emu) 1989 Emily Kame Kngwarreye
矢印のように見えるのは何の足跡?それらはオーストラリアの国鳥エミュー。アフリカのダチョウとオーストラリアのエミューって何が違うの?と疑問に思われるかもしれませんが、その大きな違いは趾(あしゆび)の数。ダチョウの趾は2本、エミューは3本。鳥類は基本的に4本趾ですが、翼を放棄し、高速で走るということに特化したこの2種類の鳥はそれぞれの地で同じような進化を遂げました。体の大きさとスピードでダチョウに劣ると言われているエミューですが、実は鳥類のなかで唯一ふくらはぎに筋肉を持つ鳥。機関銃で武装したオーストラリア軍に対し、翼も兵器も持たないエミューがゲリラ戦で迎えたエミュー戦争では、車も走れない荒野を時速90キロで駆け抜け、圧勝したことで知られています。
ウングワレーは、この作品の中で、エミューが浸透池と呼ばれる地下水源の間を縫うように、国中を歩いた軌跡を描いています。エミューの足跡は砂漠地に点在する地下水源の在りかを知らせてくれるのです。さらにエミューは移動の際、その力強い足で食用の根菜や塊茎を掘り起こしてくれます。(面倒な芋掘りもしてくれるのですね!)灰色がかった白っぽい色は、これらのエミューがより知識の豊富なapweerwerlker(老齢期のエミュー)であることを示唆しています。

Alhalker – Old Man Emu with Babies 1989 Emily Kame Kngwarreye
こちらもエミューをテーマにした作品。作品のタイトルはおじいさんエミューと赤ちゃん?なんだかピンときませんが、エミューは一妻多夫制で子育てはオスの仕事。卵を温めるオスは、孵化するまでの2ヶ月間何も口にせず、蓄えた脂肪だけを消費して過ごし、ガリガリになるそうです。孵化後も2 – 3ヶ月間はオスが雛を外敵から守ります。その産卵数は意外に多く、期間中に10 – 30個程度で、なんと40個以上産卵するメスもいるとか。なるほど、おじいさんも育児に駆り出されるわけですね。

Untitled, 1981 Emily Kame Kngwarreye
こちらはウングワレーの初期のろうけつ染、バティック作品のひとつ。
絹にarlewatyerr(サンドゴアナ=砂オオトカゲ、ankerr(エミュー)とその足跡、そしていくつかの小さな昆虫が描かれています。

バティック作品のインスタレーション Emily Kame Kngwarreye

Anwerlarr – My Story1991(一部分) Emily Kame Kngwarreye
ウングワレーは、オーストラリア北部から中央部の砂漠地帯に位置する、ノーザンテリトリー州(北部準州)サンドオーバー地域にあるアルハルクラに生まれています。アルハルクラはウングワレー族が古代から住んできた土地。種族にとって「土地」とは、その数え切れない世代にわたって深く結びついてきた土、空、そして海を包含する概念です。土地は、精神的、社会的、そして地理的な起源を共有する場所であるといいます。

Untitled 1990 Emily Kame Kngwarreye
ワングワレー作品の多くは、周囲の砂漠地帯の生態系を形成する植物、動物、そして地質学的特徴を表すモチーフを重ね合わせています。Anwerlarr(鉛筆ヤムイモ)の塊茎やエミューの足跡などの独特のイメージは、キャンバスの表面を横切って拡大したり縮小したりする点の領域の中にほぼ完全に埋もれています。そしてそれは、低地の尾根、岩の露頭、森林地帯、起伏のある砂原、そして恒久的な水場と曲がりくねった水路が点在する祖国アルハルクラの鳥瞰図のような、印象派的な描写を生み出しています。







