ラビリンスで出会ったのは?! @Whitechapel Gallery

Vol.161
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

ハロウィン間近の10月の半ば、向かったのはこのコラムでも何度か訪れている 東ロンドンのWhitechapel Gallery。いくつかあるギャラリーの中の2階にあるギャラリーに足を踏み入れると、そこはダンボールで作られた森の迷宮—ラビリンス。今回はここから、Candice Linの「g/hosti」をお届けします。このタイトルは幽霊を意味するだけでなく「guest(客)」「host(主)」「hostile(敵対的な)」、そして古英語で「見知らぬ人」を意味する「gæst(ゲスト)」の語源も含みます。

黄色のハンカチ落としを楽しんでいるのは猫?その先には狼。

先ほどの猫も、この狼も筆のタッチの残るアクリル画を切り抜いたものがダンボールに貼り付けられています。まるで絵画の中に入り込むかのような筆致と質感が織りなす視覚的な風景の中を進んでいきます。猫の手元のスマートフォン、気になります。

そこには狼または悪魔が人を食らっているアニメーション。

その先には擬人化された等身大の猫。両手を縛られて釣り上げられていますが、リラックスした様子。

死者を掘りだして犯す女狐?

次のアニメーションは、ウクライナの旗を掲げる人々。ロシアのウクライナ侵略に反対するデモのようです。スマートフォンから、戦争、飢餓、猫のダンス、警察の暴力、グルメなど、絶え間ない映像の集中砲火を浴び続ける現代。手書きのアニメーションをスマートフォンサイズの画面で表現するのは、スマートフォンを目撃行為の媒介物として捉えているからだとLinはいいます。

酒場でビールを飲む3匹の猫たち。何やら議論で盛り上がっている様子。

焚き火というより、全てを燃やしてしまいそうな狂気に満ちた炎を囲む猫達。よく見れば椅子などの家具も燃やされています。2025年1月にLinは自身の住むAltadenaで壊滅的な山火事を経験しています。

その隣には錬金術を行う悪魔のような人影の映像。

道化師のような等身大の猫。その姿は十字架に磔にされたキリストの姿と重なります。また左右に大きく広げられ串刺しになった腕からは新たな生き物が這い出ています。

さらに進むと、雄鹿を襲う狼達。裂けた雄鹿の腹から人の遺体が飛び出しています。

森の中の土砂崩れに大量に埋まる人骨。大量虐殺?周辺で何事もなかったかのように戯れる猫達。

飛び立つ鳩。

壁に目あり。青い瞳が不安そうに様子をうかがっています。

ヒキガエルの影!

その影は吊るされた半分ヒキガエルの魔女。カラフルなカンガルーの育児囊のようなポケットから仔ウサギが顔を覗かせています。

やがてお堂の中のような朱色に塗られた行き止まりの小さな空間に出ます。「死者に酸素はいらない」と書かれた、チークダンスを踊る骸骨の絵やまじないの道具のようなものが壁に掛けられています。

ここからは死者達のパレード。

やがて出口へ。

 

子供時代や無邪気な遊びを想起させる、鮮やかな色彩、動物、自然、そして段ボール素材。一方で、その細部には、不気味で時に衝撃的なイメージが潜んでおり、鑑賞者を呑み込むような環境を作り出しています。

 

Linは語ります。「ラビリンスでもある絵画の中に迷い込むというアイデアは、この1年半の様々な経験から生まれた。ガザでの大量虐殺がスマートフォンでライブ配信されたのを目撃したこと、嘆き、衝撃、アメリカ人として加担したことへの罪悪感。そして圧倒的で非人道的な恐怖を目の前にした、自分の小ささと無力感といった、相反する感情。それは、私が勤務する大学が構内抗議キャンプや学生抗議運動に対し、警察の暴力や「言論の自由区域」の実施など、非現実的で不条理な政策を用い、官僚的で規律的、そして陰険な方法で対処したことからも生じている。これは、トランプによるファシスト的な弾圧、資金削減、国外追放、適正手続きの否定といった形で、社会全体に反映されているものだ。それは私に、入れ子になった円、つまりマクロコスモスの中にあるミクロコスモスが果てしなく展開していく様子を考えさせられた。他者を破滅させること、そして他者のために声を上げる勇気を持つ者たちを処罰し、排除することに固執する国家。そこに閉じ込められた自らの重圧を目の当たりにし、感じながら、日常生活を淡々とこなしていくのは、どこか深く非現実的で、方向感覚を失わせるような感覚を覚える。」

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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