魔会へいらっしゃい
わたしはたぶん、一人の世界に浸って遊ぶのが得意なほうだ。
これまで編み出してきた数々の遊びのなかでも、特にお気に入りなのは「魔会(まかい)」。
しかしこれを読んだだけでは頭の中がハテナだらけの人も多いだろうから、説明しよう。
「魔会」とは、誰の目も気にせずに自宅で一人、イカスミ料理を食べる遊びである。
それだけかよ、という声も聞こえてきそうだが、ほんとうにそれだけのことなので、ガッカリさせてしまったら申し訳ない。
しかし魔会を編み出した背景には、わたしなりの重大な悩みがあるのだ。
わたしは飲食店のメニューに「イカスミ」という文字があれば脳内がとてもハッピーになるほど、イカスミ料理が大好き。
ただその一方で、自意識もかなり高い。
大好きならば盲目的に堪能すればいいのに、わたしは「口の周りは黒くなっていないだろうか」「歯が黒くなっているのではないだろうか」といったことばかり考えてしまって、一口食べてはナプキンで口の周りを拭うのを繰り返すので、まったく味わうことに集中できない。
たぶん、周りの人はわたしがイカスミ料理を食べることに対して、それほど気にしていない。
でも「わたしはイカスミ料理が大好きです!」と気持ちを強くもってイカスミ料理を注文したことがあるのだが、やはり自分がイカスミ料理を食べたあとの周りの目を気にしてしまい、あまりいい時間を過ごせなかった。
だったらもう自分の家で、一人で食べたいイカスミ料理をつくって食べればいいじゃん、ということで、思いついたのが魔会。
以前はイカスミ料理が好きな仲間をつくって一緒に自宅で食べようかと目論んでいたのだが、「人がいる」というだけでちょっとプレッシャーに感じてしまうので、まずは一人で魔会を開いてみたら、ものすごく楽しくて、それ以来一人でイカスミ料理を食べることにハマってしまった。
さらに楽しいのは、スーパーや食品販売店でイカスミ料理の素を買って、自分が食べたいイカスミ料理をつくって、食卓のすべてを真っ黒にすること。
言葉にはしづらいような達成感と幸福感を味わえるのも、好きなのだ。
魔会を「遊び」とくくるのだから、ルールはある。
開催する時間帯は、夜。
ドレスコードは、当たり前だけれど全身黒。
合わせるお酒は黒ビールか、赤ワイン(最近は自分が白ワインにハマっているので、例外として白ワインも可になった)。
口の周りが黒くなっても、拭かない。
イカスミ料理を食べている最中は、鏡を見に行かない。
以上である。
先日、久しぶりに魔会を開いたのだが、楽しくて、おいしくて仕方がなかった。
いつかおいしいイカスミ料理を何も気にせずお店で味わってみたいのだけれど、まだしばらくはわたしは魔会で楽しもうかとおもう。
もしくは、イカスミ料理だけテイクアウトで対応してくれるお店が増えないだろうか。
そうしたらもっと魔会を楽しめるのに。
魔会という遊びが日本、いや世界のスタンダードになればいいのか。
しかしよく考えると、自分の一人遊びに世界中の人たちを巻き込むのはあまりよくない。
一人遊びだから楽しいのかもしれないし、あまり高望みはしないようにしよう。
ゆえにわたしはこれからもひっそり、魔会を開くとする。







