職種その他2020.02.26

運転代行のプラットフォームサービスで、業界と沖縄の問題を解決する

沖縄
株式会社Alpaca.Lab 代表取締役
Ikuma Tanahara
棚原 生磨

「運転代行」を利用したことはありますか? 都心部に住んでいる方にはなじみがないかもしれませんが、公共交通機関が少ない地方では必須のサービスです。こと沖縄に関していえば、代行業者の数は全国1位。しかしそこには、数多くの問題点が潜んでいると、株式会社Alpaca.Lab代表取締役の棚原生磨(たなはら いくま)さんは言います。運転代行の問題点を解決すべく、1年以上の歳月をかけ作り上げたのが「AIRCLE(エアクル)」というプラットフォームサービス。1月にリリースしたばかりのこのサービスの可能性は、自社に利益をもたらすだけにとどまらないようです。

棚原さんが会社を起こした理由とは?

「株式会社Alpaca.Lab」を創業されるまでのキャリアを教えてください。

沖縄出身ですが、中学生ぐらいから本土や海外へ行っていたので、しばらく沖縄を離れていました。東京で学生時代を過ごし、全国の大学院を転々とした後、北陸先端科学技術大学院大学で人工知能系の研究室に在席していました。卒業後は教育系のコンサルタント会社に勤め、学校の情報教育などに関わっていたのですが、コンサルの仕事が嫌になってしまって(笑)。特に満員電車が嫌になってしまい、沖縄に戻ることにしたんです。ITの力を借りず、自分の身一つでどこまでできるか試したくなって、自転車で沖縄まで帰ってきました。

自転車とはすごいですね! それから沖縄でどのように過ごしたのですか?

縁あって公益財団法人の沖縄科学技術振興センターという組織に拾っていただきまして、産学連携の事業に携わるようになりました。ここでは主に、大学の先生が持つ技術を県内外の会社とマッチングさせて、新しい事業を起こすための支援をしていました。その活動の中で、私自身が特に興味を持つ分野があり、さらにそれが利益につながりそうだと感じたので、自分で会社を設立して事業化することにしたのです。

研究する側に長年、身を置かれていたようですが、なぜ会社を運営する側になろうと決意したのですか?

もともと、私が関わることで、誰かが創発的になれる空間を作り出したいという願望がありました。幸いにもかつて所属していた組織での産学連携事業なら、それが実現できそうだと感じられました。しかし、沖縄には力のある先生はたくさんいるにもかかわらず、産学連携は事業化までのスピードが遅い。会社を作れば、よりスピーディーに事業化を進められ、創発的な空間を生み出せると考えたのです。

具体的には、どのような事業を展開されているのでしょう?

「AIRCLE (エアクル)」という運転代行のマッチングアプリを展開中です。一昨年7月に沖縄県産業振興公社による「ベンチャー企業スタートアップ支援事業」に採択され、会社を作り、その年の12月に資金を調達しました。そして昨年の1月から開発を始め、今年の1月、ようやくそのサービスをリリースすることができました。

完成したばかりなのですね! どのようなサービスか、詳しく教えていただけますか?

現状では、飲食店や個人で運転代行業者を探すには、片っ端から電話するという、面倒で非効率な方法しかありません。しかも、自分の望む業者、例えば左ハンドルの車に乗っていればそれを運転できるドライバーを、女性しか乗らないから安全のため女性ドライバーを、というように、自分の要望に合う業者を選ぶことさえできません。しかしAIRCLEなら、必要な運転スキルや行き先などを入力して検索すれば、効率的なアルゴリズムにより、最適な運転代行業者を探せます。ユーザー側は自分にぴったりの代行業者を簡単に探せますし、業者側は、誰からの注文で行き先はどこか、あらかじめわかるので、効率的な配車が可能になります。もちろんリリースしたばかりですので、今後仕様はどんどん改善して、AIを含めた様々な技術を積み重ね、より多くのスペックを付随させていく予定です。

運転代行業界の悪しき習慣を改善したい

そもそも、なぜこのサービスを作ろうと思われたのですか?

運転代行の社会的課題を解決したいと思ったからです。現在、沖縄には754もの代行業者があって、その数は全国1位です。コンビニよりも多いほどで、へき地にさえある。しかし、料金設定が不透明だったり、呼ぶのに手間がかかったり、呼んでもなかなか来なかったりと、代行会社に対する一般のイメージがとても悪いんです。さらにこの業界には「4/5の課題」という言葉があります。どういうことかというと、5台中4台は「適切に運行することが困難な業者」なんです。

そんなに多いのですか?

適切な表示を怠ったり、保険に入っていなかったりするケースが非常に多いんです。でも、好き好んで保険に入らないわけではなく、金銭的に入る余裕がないのです。つまり、そもそも運転代行業には儲(もう)かる仕組みがなく、ビジネスモデルが破綻している業種といえます。

行政は違法業者を取り締まらないのですか?

放置しているというより、そこまで手が回っていないのが現状です。そのため法律も定められませんし、価格が規制できていないので、驚くほど安い値段で営業している業者が出てきてしまうのです。他の業界であれば、待遇や状況改善のために協会などが動いて行政に働きかけますが、沖縄の運転代行協会に加入している業者はわずか4業者程度。これでは行政は動きませんし、協会に力がないので、業者は加入したいと思いません。このような悪循環の中で非効率なビジネスを続けるしかない業界を、私たちのサービスを通して、改善し適正化したいのです。4/5の業者を切り捨てるのではなく、救い上げたいと考えています。

しかし、行政も手をこまねいている業界を、一企業が改善するのは容易ではない気がしますが?

赤字覚悟でリスクを恐れない、小回りが利くといった、若手のベンチャー企業としての強みが生かせると思っています。運転代行業者へ自ら赴き、「AIRCLEというサービスを使えば、もっと効率的に業務が進められるし利益を上げられますよ!」と地道に説いて回っています。それと並行して行政へは、「運転代行業界のデータを集めてくるので、まずは話を聞いてください!」と働きかけています。運転代行業には、従来の業務以外でもビジネスとして成立できる可能性がまだまだあるとも思っています。

どのような可能性ですか?

深夜にこれだけ人やものを運べるサービスというのは、実は運転代行だけです。だからこそ、その時間帯に何かを運びたい別の業界との連携ができると思っています。そのアイデアに真っ先に興味を持ってくださったのが、酒店などの酒の業者です。また、例えば交通インフラが整っていないへき地でも業者が必ず存在するという特性を使って、お年寄りのために夜に荷物を運搬することなども可能です。このように、運転代行の車をもっと有効に活用できるようになれば、酔客に依存しないビジネスモデルを築けるはずです。そしてこれらが実際に運用されるようになれば、運転代行料金の適正化、効率化が進み、一般のユーザーが利用しやすくなり、飲酒運転の減少にもつながるはずです。

確かに! 沖縄の飲酒運転検挙率は高いですからね。

飲酒運転を具体的に減らせたサービスは今のところありませんが、AIRCLEなら可能だと思っています。このような社会的問題を、特に問題の多い沖縄から解決できれば、他の県にも適用できるはずです。沖縄から全国へ広まるスタンダードビジネスを確立していきたいですね。

産学連携事業へのビジョン

現状は「AIRCLE」に集中されていると思いますが、他に、将来やっていきたいことはありますか?

もともと携わっていた「産学連携」のコーディネートをやっていきたいです。社名に「ラボ」とつけたのはそのためで、大学の先生方が持っている技術を使って新しいサービスを研究、開発したり、他社とマッチングしたりしてビジネスにつなげたいですね。

研究者の課題として、技術開発を進めるには「自分で地道に進める」か「企業に買い取ってもらう」という2つの方法しかありません。しかし、後者は非常に時間がかかるので、弊社でお手伝いすることでスピードアップさせたいと思っています。ベンチャー企業にとって、大学の先生方の持つ素晴らしい技術を活用した方が、圧倒的に有利に成功できるはずです。まずは自ら「AIRCLE」のシステムでそれを実証して成功させて、資金に余裕ができたら本格的に産学連携のコーディネートに力を入れていきたいと思っています。

会社や社長は、社員成長のためのツールに過ぎない

スタッフをマネジメントするうえで心がけていることはありますか?

給与は、社員一人一人の成長のために支払うものだと思っています。弊社はあくまで成長するための一つの手段に過ぎないという考え方なので、チームワークよりも、プロフェッショナルから生じるチームワークを身につけてほしいと、常々伝えています。それができるなら、働き方も体制も自由でいいと思います。実際スタッフの働き方は、フレックスや業務委託などさまざまです。

その方法だと管理が大変であはりませんか?

実は設立当初はオフィスさえなく、全てリモートワークでやりとりしていたのですが、さすがに意思疎通が難しくなってしまいました。今はもう少しコントロールが利くようにオフィスを構えましたが、スタッフには自身の行動を管理して、創発的になってほしいという気持ちは変わりません。自ら成長を続けるという学習活動は人間の根本的な行動で、それができる人は、より幸せを感じられるという研究結果があります。社長である私でさえも道具として使って、どんどん成長してほしいですね。

取材日:2019年1月16日 ライター:仲濱 淳

株式会社Alpaca.Lab

  • 代表者名:代表取締役 棚原 生磨
  • 設立年月:2018年8月
  • 資本金:700万円
  • 事業内容:Webサービス開発事業・産学連携事業
  • 所在地:〒902-0067 沖縄県那覇市安里1-8-4 ZORKS崇元寺
  • URL:https://alpacalab.jp/
  • お問い合わせ先:050-1744-7002

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