職人と向き合い、日本文化を次世代へ。都心を離れ、新潟で工芸品ECとマーケティングを手がける理由
東京から新潟に移り住み、マーケティング支援やEC事業などを展開する株式会社中庸を設立した仁井田 紀之(にいた のりゆき)さん。日本の文化を感じさせる工芸品を中心に職人の技や思いを感じ取れるインスタメディア「Yesterday (イエスタデイ)」も開設し、日本各地の長く使えるいいものを紹介しています。仁井田さんはなぜ、職人の工芸品に着目するようになったのか?仁井田さんのこれまでの道のりやこれからについて伺いました。
都心から新潟に移り住んだ、地方創生の旗手
会社の設立はいつですか?
2024年2月です。出身地の宮城県から岩手大学、東北大学院に進学し卒業後は出版社に就職しました。
その後、東京のベンチャー企業に就職。そこではいろいろな人たちと会社の垣根を越えて仕事をすることが多く、さまざまな人と関わりながら一つのものを作り上げる楽しさを知りました。同時に地方のマーケット支援をしている人たちが多かったこともあり、徐々に地方への興味を持つようになりました。
新潟のこの場所に会社を構えたのは、妻の実家が近かったことが最大の理由ですね。
現在の事業内容を教えてください。
マーケティングの支援と、工芸職人を取材して作品を販売するEC事業の二つです。
特に今はECの方に力を入れています。世の中には、良いものであっても魅力が知られていないことから売れていないケースが数多くあります。「職人が手間暇をかけて作ったものの魅力を広く伝え、職人にお金が循環する仕組みが作りたい」という思いから、ブランドと売上の両立を目指しています。

「適正価格とは何か?」地方で知った職人の思いと質の高い製品
なぜ、ローカルという側面に着目するようになったのでしょうか?
都内で私が事業を行う必要性が薄れたと感じたからです。代わりになる人はたくさんいますからね。加えて、事業を進める中で地方のお客さまが増えてきたことも理由です。
実際に新潟に移り住んでからは、少子高齢化による人口減少や空き家の増加などの社会課題を目の当たりにしました。
起業からの2年間で、そのように痛感されましたか?
そうですね。特に職人さんの商品を販売していると痛感することが多いです。
通常、ものの価格は需要と供給のバランス、希少性によって決定します。でも、職人さんの商品は違う。手間をかけて製作されたものであっても価格が非常に低く設定されていることが多いんですね。製作現場を直接目にすることで、適正価格とは異なる価格設定がされていると強く感じます。
彼らはみんな「使ってもらいたいから値段を上げたくない」と語ります。こうした実情は、職人と直接話す機会がなければ理解できません。

文化や街を紡ぐ、時間の価値とは?
地方で起業したことでの学びはありますか?
非常に多くあります。特に「長い目で物事を見る」という感覚はこの場所に来ていなかったら養えなかったことだと思っています。東京で働いていた時は、長期的な視点よりも短期的な売上目標を優先することがほとんどでした。
こちらに住む人たちと話をしていると、彼らは短期的な視点にとらわれず「この街を残していくために」「この文化を残していくために」と、時間軸を大切にしています。長期的な視点を持つことの重要性を実感しています。
御社の強みはどこにあると思いますか?
業務委託も含めた県内外の20人ほどのスタッフと仕事をしていますが、実務能力やコミュニケーション能力、美的センスなどのバランスが取れているところだと思います。特にスタッフ一人ひとりが実務能力を持っていることは、強みです。
伝統工芸をインスタメディアで発信。「昨日よりも豊かであれたら」という思いを込め
マーケティング支援事業と工芸品のEC事業は、起業当時から存在していたのですか?
いえ、違います。以前、とある地方企業の支援を行っていた時期がありました。その中に職人さんの会社もあったんですね。規模から考えれば、採算が取れない案件でした。しかし、現場でその製品の良さや職人さんの熱意を感じ、なんとかサポートしたいと強く思いました。何か方策はないかと熟考し、メディアであればより多くの職人を支援できるのではないかと考えました。そこで2025年2月にインスタグラムのアカウント「yesterday_japan」を開設しました。

「yesterday_japan」というアカウント名に込めた思いは?
「未来は来る」「昨日よりも豊かであってほしい」という思いを込めました。
私はあまり目標を立てて動くタイプではありません。ゴールを決めて物事を進めていくようなタイプではないというか。でも、必死に目の前のことに向き合う中で、新潟にたどりつき、豊かに暮らしています。“今”を生きれば、昨日よりも人は成長するーーそうした思いからアカウント名を考えました。
共感を呼ぶ、「思想」を伝える動画制作
アカウントを拝見すると全国津々浦々の職人さんに取材しているのですね。どのように選定しているのですか?
歴史や文化も重要ですが、最も重視しているのは「思想」があることです。「これを残すためにやっている」「これを復活させたい」という未来への強い思いを大事にしています。
取材する職人さんは、マーケット支援を通じて知り合った全国の方に紹介してもらうことが多いです。例えば、知り合いの欄間屋の息子さんから「父が欄間屋を辞めたら、欄間用のノコギリ屋とカンナ屋も廃業に追い込まれる」という話を聞き、取材を決めました。
伝統的な文化や技術は一つなくなると、それを支えてきた人や道具、仕事も連鎖的に失われてしまいます。そうして日本ならではの文化が失われるのは惜しいことです。それは日本のためだけでなく、世界のためにも残すべき価値のあるものだと感じています。実際に足を運んでみると、強い思想を持ち、その文化を残そうと活動している方々に出会います。その繰り返しですね。

インスタグラムでの動画作りの際に大事にしていることは?
背景の情報をしっかりと伝えることです。再生回数を増やすには、テンポを良くし、感覚的に視聴できる動画がいいのかもしれません。しかし、それでは思想は伝わりません。Webマーケティングやデジタルマーケティングに携わる中で、ショート動画の味気なさに人々が気づき始め、徐々にロング動画へ移行していくのではないかと感じています。ものの本質を重視する考え方が、今後より一層強まるでしょう。
日本文化の継承と社会貢献を目指し続ける
今後の目標はありますか?
EC事業では、日本の文化を守るお手伝いをし、若い世代にきちんと伝えていくことです。もちろん、売上という数字にはこだわりますが、時間をかけてでも日本の良さを伝えていきたいと考えています。
マーケティング支援はこれまでと同様に、企業さまへしっかりと寄り添いながら行っていきたいです。
どんなスキルや価値観を持っているクリエイターと一緒に仕事をしてみたいですか?
まず、「社会にとっていいことをしたい」と考えている人です。加えて、実行力、謙虚さ、そして長期的な視点で物事を考えられる人だとうれしいですね。
取材日:2026年1月13日 ライター:コジマ タケヒロ
株式会社中庸
- 代表者名:仁井田 紀之
- 設立年月:2024年2月
- 資本金:500万円
- 事業内容:マーケティング支援事業、メディア事業
- 所在地:〒959-3423 新潟県村上市九日市180-12
- URL:https://chuyo.jp/
- お問い合わせ先(インスタグラム):https://www.instagram.com/yesterday_japan/






