梅雨時の太陽に燦燦と照らされて紫陽花が咲きます

東京
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

郷愁芝居
「亜米利加伊勢海老之行進」

30年近く前は演劇鑑賞にはまっていた。
首都圏各地の学生劇団の公演会に日参していた。

ネットも無い時代
SNSなど夢にも見ない時代。
文章だの画だの歌だのを発信できるのが「狭き門」を潜り抜けたものにしか許されなかった時代…

自身の同年代の人間のふとした内面。
テストの点や運動神経や普段の言動からはうかがい知れない内面を知る
それが学生芝居だった。

集団の群像劇、一人芝居、青春劇、不条理劇…
ジャンルは数々ある。大学ごとに、個々の劇団ごとに、演出家ごとに作風は微妙に異なる。それらの差異を、才を見出すのも学生演劇鑑賞の楽しみだった。

 

さてそんな学生演劇日参の中で一番感動した舞台
亜米利加伊勢海老之行進
國學院大學演劇研究会 平成10年6月公演。

 

 

いわば不条理劇のたぐいである。
渋谷駅の雑踏。
雑誌売りの老婆やギター弾き、流しのバイオリン弾き、ティッシュ配りのコギャル(死語)がモバイル売りの詐欺師の口車に乗せられワチャワチャしているうちに暗い過去を持つ青年が現れる。その彼は過去のトラウマをつつかれ「亜米利加伊勢海老」に変身して行方不明になってしまった…

当時の國學院大學演劇研究会の作風
「主人公が長台詞を一気呵成に連ねる」
「劇の終盤、登場人物全員が客席を見据えつつ、一句同音にセリフを斉唱する」

昭和中期風のステージ美術
郷愁を誘うハーモニカ風の音楽。
夕日を意図した暖色の照明が役者全員を照らす。規則的に動く口元が、瞳が照らされ輝く。

感動した。
2回観にいって、2回とも泣いた。

劇の主題は
「トラウマと紫陽花」

主人公・暗い過去を持つ青年
彼のトラウマは「紫陽花の花」だった。

早生まれでもないのに体が小さく不器用。
保育園で折り紙で紫陽花の花を折る。
普通よりサイズが小さい折り紙は角と角を合わせてもズレてしまう。

糊で紫陽花はガビガビです。焦れば焦るほど珍しく晴れた梅雨時の太陽は遠く…周りの子は一人、また一人と減っていきます。どうしようと焦れば焦るほど紫陽花の花は崩れていきます…

ついにカンシャクを起こした彼は外へ飛び出した。群青色のアスファルトが広がる駐車場を駆けあがって転んでケガをした

小さな手を、小さな背を、大きすぎる靴を憎んだ。

ぼくってかわいそうでしょう?

青年の長セリフで暗い過去を知らされた一同はホロリともらい泣き。

 

さて、一同がホロリと泣いたところで、
雑誌売りの老婆は「数字合わせゲーム」を配る。
そして「亜米利加伊勢海老」の逸話を語る。
西大西洋はバハマ近郊の海底に生息する「亜米利加伊勢海老」。
いつもは別々に生息しているが冬を告げる嵐の到来と共に、隊列を組んで群青色の海溝へと落ち込んでいく。3匹が5匹、5匹が10匹。最終的には数万匹が数キロの隊列を組んで一列になって行進していく。行列を離れたものはほかの生物に食われていく。最初に足を。動けなくなったところで目を。出発は10月、12月には海溝に入る。

一同が老婆の語りに飲み込まれたところにトラウマ青年が現れ、老婆から「数字合わせゲーム」を施された。だが何たる嫌がらせか、そのゲームはコマがすべて「紫陽花の花」のデザインだった…

トラウマ青年のトラウマが爆発、老婆が重々しく叫ぶ中でコギャル、ギター弾き、バイオリン弾き、そして青年、一列になって「亜米利加伊勢海老之行進」の開始。一同、亜米利加伊勢海老に変身して群青色の海溝へと一列になって行進していく。

ここに先ほどのモバイル売りの詐欺師が現れ、そろばん占いでトランス状態を解く。

暗い青年のトラウマは解かれた。
紫陽花の花の折り紙もキレイに折れるようになりました。背丈も人並みの大きさになりました。それでもパンの耳をかじりながら考えます。嘔吐色のパンの耳は僕の保護色です。群青色のアスファルトは灰色にくすんでしまっても、僕の駐車場には深い海溝が横たわっているのです」。

そして感動のラスト、
出演者全員が客席を見据えて同じセリフを斉唱する。

嘔吐色のパンの耳は僕の保護色です。群青色のアスファルトは灰色にくすんでしまっても、僕の駐車場には深い海溝が横たわっているのです。紫陽花が咲きます。珍しく晴れた梅雨時の太陽に燦燦と照らされて紫陽花が咲きます…

だがトラウマ青年はひとり亜米利加伊勢海老之行進をする。
伊勢海老たちは行進する!

そして…

 

平成10年
国学院大学演劇研究会・6月公演
亜米利加伊勢海老之行進

2回観にいって、2回とも泣いた。

平成を通り越して令和8年6月30日
その日は珍しく晴れていた。

紫陽花が咲いていた。

思い出したので、書かせていただきました。

※イタリック体の部分は、実際の台本からの引用です。

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。現在、雑誌『時空旅人』『男の隠れ家』に記事を執筆中。

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