「長寿シリーズの新規ファンをどう獲得するのか」問題

東京
映像ディレクター/取材ライター
秘密のチュートリアル!
野辺五月

スター・ウォーズ(以下、SW)シリーズの映画『マンダロリアン・アンド・グローグー』が日本でヒットしています。
本作はもともと、Disney+(ディズニープラス)で2019年からシーズン1の配信が開始されたドラマシリーズです。「配信限定ドラマの続編が映画化され、劇場公開される」という流れに対しDisney+、日本のファンからは「よくぞ映画館でやってくれた!」と歓喜の声が上がりました。ちなみに本国アメリカの動向を見ると、配信サービス経由で作品(ドラマ版)を知っている既存ファン層への依存が高かったことや、コアなファンのシビアな反応もあり、北米の初動興行収入(約8,100万ドル)は、興行的に失敗と評された『ハン・ソロ』の初動(約8,440万ドル)すら下回るなど、事前の期待ほどには振るわなかったとみなされています。

 

では、なぜ日本ではこれほどの熱狂が生まれているのでしょうか?

 

ポイントは、「これまでのシリーズを何一つ見ていなくても内容が分かる(=楽しめる)」ことに加え、可愛いものやキャラクター文化の強い日本市場にぴったりハマった「グローグー(ベビー・ヨーダ)」の存在と、巧みなプロモーションが理由だと思います。

まず、監督が来日した際に、本物さながらに動くグローグー(https://www.youtube.com/shorts/XaF45jDOhIE)をテレビ番組にも登場させたこと。この施策の成果は絶大でした。往年のファンには「可愛いヨーダ?」という興味を植え付け、作品を知らない人には「なんだか分からないけれど可愛い生き物」というインプットに成功したのです。

その上で、日本人が大好きなコンテンツである「食」との組み合わせが大きな反響を生みました。

ショート動画でおいしそうなものを食べているグローグーを巧みに演出し、お寿司やそば、卵サンド(結果的にありつけないオチなのですが)など、食べ物との掛け合わせでバズを引き起こしました。
宣伝の巧みさもさることながら、無理やり「大人気!」と煽るのではなく、ただただ日本人が好きそうな「可愛い姿」をSNS等で流し続ける作戦は、昨今の“宣伝嫌い”な世の中にマッチしています。やりすぎかと思えるほど、ドラマ本編も含めて「可愛いグローグー」のシーンを次々とアップしていく姿勢は、なかなか攻めていると感じました。

 

加えて、「初見でも平気」「初めてのスター・ウォーズはここから」というメッセージを、きっちりプロモーションに組み込んでいます。
SNSでも、「今までSWを見たことがないミリしら(まったく知らない)状態の私でも大丈夫?」という初心者の声に対し、既存ファンが「平気だから、安心して映画館に行って!」と背中を押すやり取りが多数見られました。

『マンダロリアン・アンド・グローグー』が、SWを知らない層に対しても「とにかく面白そう」「何の予習もいらない」「可愛いから見て」というシンプルなメッセージを届けられたのは非常に大きいでしょう。
また、映画の冒頭でこれまでのドラマを簡単に紹介しているのも上手な点です。しかも、その紹介の仕方も複雑なストーリー説明ではなく、主人公のマンダロリアン(ディン・ジャリン、通称マンドー)とグローグーの「出会いからの関係性」にフォーカスしています。
「二人の歴史」をシンプルに紹介する――そもそも『マンダロリアン』のドラマ自体が日本の「子連れ狼」をモチーフにしており、日本人に説明しやすい土壌があったことも功を奏しました。

「宇宙を舞台にした、不器用な一匹狼の戦士と可愛い子どもの“子連れ狼”ロードムービー」

大変分かりやすいですね。
映画『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督は、プレゼンの際に「沈みゆくタイタニック号の上で繰り広げられるロミオとジュリエット」と説明したそうですが、本作も負けず劣らずシンプルな言葉で説明することができます。

この「分かりやすさ」について、メガホンを取ったジョン・ファヴロー監督は、自身が11歳のときに『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を見て映画に強い憧れを抱いた経験を踏まえ、「少年時代にキラキラと楽しめる冒険譚を目指した」のだそうです(元々ジョージ・ルーカスも「8歳の少年が楽しめるもの」を目指してSWを作っていたという話もあります)。

その狙い通り、新規層が「何も知らない状態」で飛び込める敷居の低さがあったからこそ、これだけの人気に繋がったと言えるのではないでしょうか。

また、「ライブグッズが異常なほど売れる国=日本」という特徴もあります。大人がキャラクターグッズを持っていても変な目で見られない環境は、世界的に見ると実は特殊です(日本はポケモン、マリオ、ハローキティなど、世界的なIPが多数生まれているIP大国でもあります)。
2025年に「スター・ウォーズ・セレブレーション」が日本で開催された際も、ただでさえ混雑する物販エリアの中で、日本限定企画のグッズブースはとんでもない大盛況となり、抽選に外れて入場できない人が続出していました。その目玉の一つがまさにグローグーのグッズコーナーであり、その段階からファンの間では「可愛い」という認知が定着していましたし、メディアや広報・宣伝側もその熱気を感じ取っていたはずです。

グッズを出せば売れる国であるため、今回の映画でもグッズ展開の計画はかなり早い段階から仕込まれていたでしょう。
映画のヒットに合わせて、渋谷や池袋などのポップアップショップは連日大賑わい。京王百貨店(新宿)の特設コーナーも常に混雑していました。また、専門店や映画館のグッズ売り場では今でもグローグーを求める客が絶えず、丸善書店では関連絵本が再入荷から数時間で売り切れるというフィーバー状態が続いています。
コラボカフェも連日満員となり、残念ながら転売が横行したため、受注生産に踏み切ったメーカーもあるほどです。


当然、映画を観た後に「ドラマの続きが観たい」とDisney+に加入する声も多く聞こえてきます。

ちなみに時系列を整理すると、『マンダロリアン』はシーズン1(2019年)の後、シーズン2(2020年)、シーズン3(2023年)と配信され、今回の映画はその後の物語となっています。
なお、シーズン2とシーズン3を繋ぐ重要な物語として、スピンオフドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021〜2022年)があり、特に第5話以降は「ほぼ『マンダロリアン』の新作では?」という展開になります。

そのため、ドラマを遡って見る場合は、
「シーズン1」→「シーズン2」→「ボバ・フェット」→「シーズン3」
という順番を推奨する人が多いですし、これが実際のリリース順でもあります。

なお、SWの映画本編(スカイウォーカー・サーガ)の主要キャラクターは、今回の映画には登場しません。
舞台は『エピソード6/ジェダイの帰還』(旧三部作の完結編)の後の時代ですが、ジェダイやシス、ライトセーバーといった専門用語すら、最悪分からなくても問題ありません。
なぜなら、主人公のマンドー自身が銀河の僻地で生きており、そうした中央の事情に疎いため、彼と同じ目線(=何も知らない状態)で観られる仕組みになっているからです。これがまた「分かりやすさ」に拍車をかけています。

ちなみに、ドラマ版『ボバ・フェット』では旧三部作の重要人物が登場するサプライズがあり、旧作ファンを熱狂させました。裏を返せば、それ以外の要素で映画と旧作を繋ぐ共通項はほぼ「ボバ・フェット」くらいです。そのため、今回の映画から入った新規ファンの中には、「シーズン1・2」を観た後に「旧三部作(エピソード4〜6)」を挟み、それから「ボバ・フェット」→「シーズン3」へと進む変則的な楽しみ方をしている人もいるようです。さらに旧三部作でダース・ベイダーに興味を持った人が「新三部作(エピソード1〜3)」へ流れるケースもある模様です。
つまり、旧作は「知っていればより楽しめる前提」ではあるものの、「なくても全く問題ない」作りになっています。どの作品からでも自由に入れるこの構造は、長寿シリーズとしては画期的なことです。

というのも、例えば『アベンジャーズ』シリーズ(MCU)は、作品同士が密接に重なり合う「シネマティック・ユニバース」手法で一世を風靡した反面、作品数が増えすぎて新規ファンが参入しにくくなった経緯があります。また『ハリー・ポッター』も愛されるシリーズですが、途中の作品から単体で入るには、前作までの設定をかなり頭に入れておく必要がありました。

「ドラマの続きを映画でやる」というパターンは、邦画でも『踊る大捜査線』など古くからある手法ですが、「有料配信サービスのドラマの続きを映画化し、そこから新規ファンを配信へと逆流させる」というのは、本来かなりハードルが高いはずです。
例えば、同じく配信(WOWOW)連動で大健闘した映画『ゴールデンカムイ』の第2作目も、クオリティは高かったものの、興行収入の面では第1作目と比較してどうしても「WOWOW加入」というハードルが加味される形になりました。また、ドラマ側が丁寧に作られていたがゆえに、映画の冒頭で手前の説明を同じレベルで丁寧に挟むと、既存ファンにとっては蛇足になってしまうというジレンマもありました。

その点、今回の『マンダロリアン』の映画は、ドラマをずっと追ってきたコアなファンからすると「冒頭の説明が少し親切すぎる(まどろっこしい)」と感じる部分もあったかもしれません。ただ、映画から入る新規層に向けては「大正解」の割り切った作りだったと言えます。

このあたりのIP設計や、人気シリーズの舵取りは本当に難しいものです。「シン」シリーズ(『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』)のように単発のリブートがうまくいっても、それを継続的なシリーズに発展させるとなると、リメイクのバランスや次作への繋ぎ方で苦戦するケースも少なくありません。

「歴史の長い作品、ファンの多いシリーズをどう育てていくか?」
どこにターゲットを置き、何を成果とするかにもよりますが、今回の『マンダロリアン』は、日本におけるエンタメマーケティングの新たな「成功例」として、今後長く語られていくのではないでしょうか。

もう一つ付け加えるなら、本作は4DやScreenX、IMAXといったラージフォーマットとの相性が抜群に良く、「わざわざ映画館に行く意味」「リピート鑑賞」を強く意識させた点もヒットを後押ししました。期間限定で開催された応援上映も大盛況でした。
ここからどこまで興行収入を伸ばすのか、一人の映画ファンとして、そしてSWファンとして、引き続きその行方を見守りたいと思います。

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

なお本記事内の画像には、Adobe Firefly(AI生成画像)、Adobe Stock、およびフリー素材(規約に基づきライセンスを取得したもの)を使用しています。

プロフィール
映像ディレクター/取材ライター
野辺五月
散らかった状況から「伝える形」にも手をつくす、取材・企画ディレクター。 ゲームのシナリオ執筆からキャリアを始め、「書いて、宣伝する」仕事へ。なぜか昔から、現場がバタバタしていたり、責任者がいなくなったりする“隙間”にすっぽりはまりがち。気づけば締切内に全体の構造を立て直す係を引き受けるうちに、今に至ります。VFX好き(SW命)。現在、メディア記事の企画・取材・構成、企業映像の台本制作・ディレクションをメインに活動。 ものを作る現場と広告の現場、双方の経験から「心を動かす設計」を重視しています。 得意ジャンル: アジア映画・ドラマ(タイ・華・台)、カルチャー全般、みんなで動くチームプレイ 特技: ひとり脳内会議 ➔ 徹底裏取り調査 ➔ 構造化・実働! ツール・AI: Pr / Ae / InDesign / PowerPoint / AIは現場でとっかえひっかえ実験中 スタンス: ロケ地より先に打ち上げの店を抑えるタイプ。

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