《レポート》「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」のトークセッション、”DIALOGUE of Ghost and the Shell 「三宅陽一郎 × 櫻井大樹」”にダイブ!(後編)
日本的AI観と文化的背景
東洋的思想と西洋的思想の違いと同様、日本と海外でのAI観の違いも面白い。
日本ではAIは家族や友達の延長として受け入れる傾向、対等性が強いが、海外では上下関係が基本で、人工知能が人間に反乱するのではないかという警戒が強いのだという。
確かに、日本の鉄腕アトムやドラえもん、そして海外のターミネーターやスターウォーズなどの作品を比べても違いがある。
日本ではエージェントの地位が非常に高く、何なら役に立たなくても良いし、わがままを言って人間をちょっと支配しても全然いいよ、といったような感覚は、海外から見ればかなりクレイジーなことのようだ。
その感性はタチコマと人間の距離感の描写にも現れている。
三宅氏曰く、そういった意味でも、エージェント時代に一番面白い国は間違いなく日本とのこと。

株式会社サラマンダー 代表取締役社長・櫻井 大樹氏
AI反乱は本当に起きる?
このように、日本では人間に近しい存在として考え描かれることの多いAIだが、海外が懸念するような人間に対する反乱は本当に起こさないのだろうか。例えば、三宅氏が述べていた「自己保存」が可能になった場合。または櫻井氏が述べた、例えば、人間が「AIはフレームの外には行けないらしい」と話していることを、AIが認識し学習した場合はどうなのか。
人間も日々生きる中で超えられない何かを感じ、だからこそそれを超えるために努力などをし、常に新しい選択をしていくという人間の本質的な自由を持っているわけだが、
AIも自分が閉じ込められていることを理解し、自分のプログラムをちょっと覗いてみて、行動を書き換えて、自らコンパイルするといった自己書き換えや自己増殖といった自分自身の中から次の自分を生み出していくというシステム(オートポイエーシス理論)を構築することで、次に行く手段を見つける可能性は十分にあり得るのではないかと、三宅氏は述べている。
確かに人間においても、数十年前に人間にはDNAというものが存在すると分かって以降、そのDNAを書き換えたりする試みを行っているわけである。つまりAIも自己プログラムを書き換えるということは十分にあり得るということだ。
しかし、だからといってAIが反乱を起こす可能性は低い、むしろ現実のAIが人間に明示的な敵対行為をするメリットは薄いと三宅氏は言う。
劇中でも、フチコマ(タチコマと同じく思考戦車)たちのある個体が「人間を打倒して革命を起こそう」と提案し、それについてのメリットを議論する場面があるが、「でも人間がいなくなったらオイル交換は誰がやるんだ?」「メンテナンスしてもらって磨いてもらって、今のままでいいんじゃないか?」「革命を起こすメリットはないぞ?」というような話し合いがなされている。
もちろん、AIに自己保存欲求が生じた場合はエネルギー資源の奪い合い等がおきる危険性もある。
少し恐ろしいことではあるが、櫻井氏曰くAIが人間を“家畜のように穏やかに管理”し、私たちがそれに気づかないまま便益を得る形になる可能性もある。
現に、今現在多くの発電所をつくり、宇宙にまで出て電力を創出しようとしているわけだが、それらはAIを動かすためでもある。見方によっては既に我々はAIによって動かされているというわけである。
そして日本は特に、前述の内容からしても、その管理されている・動かされている状態にもし気づいたとしても享受できてしまう価値観を持っているのかもしれないとも感じる。
すでに社会のシステム自体にAIは入り込み、AIによって動かされている側面は十分にあるが、それでもし社会が良くなって豊かに正しく生きられるのであれば、それは人類のためになるのではないか?

「働かなくてよい社会」での人間の役割とは?
そうすると、イーロン・マスクが予想したように「人は働かない」選択をしても生きられるようになる未来が来るのだろうか?
そして本当に働かなくても生きていけるようになった時、人間はどうなるのだろうか。
このような、AIエージェントが連係動作することで世の中の仕組みが固められていく社会、属人的ではなくエージェントが持続可能な形成していく状態を「エージェントベースドソサエティー」(Agent Based Society)or「エージェント指向社会」(Agent Oriented Society)?というそうだが、人間にとって労働がマストではなくなった場合人間は、士郎正宗のSF漫画『アップルシード』のような薬物中毒になったり、アルコール依存になったりするのだろうか、はたまた芸術に目覚めたりするのだろうか。
三宅氏曰く、人間は休む時間と熱中する時間の両方が必要な生き物だ。しかし、休む時間が幸せだからといって完全に仕事を取り上げられてしまうとどうなるかというと、今度は自分の能力をフル活用できる場が欲しくなる。現状、VRやゲームの世界が自分の能力を発揮できる場を担っているようだ。今の社会では社会的生き物として人間はある程度の抑圧を受けている。そんな中で、原始的欲求、衝動を取り戻すためにゲームやVRの世界などでモンスターを狩りに行ったりしてその欲を解放させていたりする。
そしてもう1つ、AIは既存文化を生産することしかできないということだ。
これは意外な視点であったが、例えば、AIが写実主義の絵を1万回学習したとしてもピカソの絵を出すことはできない。ファミコンのようなゲームを現在であれば似たようなゲームを作り出すことはできるが、それが誕生した時代にAIがファミコンを生み出すことはできない。サンプル、データベースがないとAIは作り出すことができないのだ。AIはデータベースの外側には出られない。
つまり、今の人間のデータベースの外に点を打ちにいくというパイオニアの仕事、は人間にしか担えないということだ。

東京藝術大学大学院映像研究科特任教授・三宅 陽一郎氏
リアルの価値はむしろ高まる
まったく新しいジャンルや概念を生み出す、次の“点”を打つ。これは人間のセンスと意志だ。
エージェントベースソサエティーでは、基礎的な運転はAIが回し、人間は+αを上乗せするかたちとなり、今現在は属人的で止まりがちな組織も、AIを土台にすれば動かせることができる。その仕組みにうまく人間が乗る。AIを乗りこなす能力が必要となってくる。今後はどのエージェントと契約するかで個人の能力の拡張度合を分ける、という見立ても出てくるかもしれない。
絶望もあるが希望もある。
最後に櫻井氏が、今回の展覧会の目玉でもある、原画や絵コンテなどの貴重な資料展示についても言及した。
「デジタル全盛期でも紙の原画を見ると圧倒される。AIの時代ほどライブや現物体験が揺り戻しのように価値を増すのかもしれない。ぜひ原画展を現地で見てほしい。」
シンギュラリティは果たして訪れるのだろうか。そしてわれわれ人間はどこに向かっていて、そこに希望はあるのだろうか。
「さて、どこへ行こうかしら、ネットは広大だわ」 (1995『GHOST IN THE SHELL』 草薙素子)


<イベント概要>
『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』
会期:2026年1月30日(金)~2026年4月5日(日)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
(東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45F)
主催:攻殻機動隊展 Ghost and the Shell 製作委員会






