《レポート》「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」のトークセッション、”DIALOGUE of Ghost and the Shell 「三宅陽一郎 × 櫻井大樹」”にダイブ!(前編)
2026年1月30日よりTOKYO NODE GALLERYで開催されている「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell -Ghost in the Shell: The Exhibition」。「攻殻機動隊」全アニメシリーズを横断する史上初の大規模展であるが、その中のトークセッションシリーズの1つである”DIALOGUE of Ghost and the Shell 「三宅陽一郎 × 櫻井大樹」”に今回参加してきた。
制作陣や多様な分野の表現者が集い、対話を通して『攻殻機動隊』の核心に迫るトークセッションシリーズ。今回参加したセッションの内容は、“AIと攻殻機動隊”について。

今回はAIに関する内容ということもあり、櫻井氏が事前にChatGPTに相談して作ったトーク構成をもとに”人間がAIに操られて話す”、人形使い的な構図という興味深い趣向で対談が行われた。
「人形使い」とは「攻殻機動隊」の作中に登場するキャラクターで、他人の電脳をゴーストハックして人形のように操る凄腕ハッカーのこと。その実、自立型プログラム、要するに人工知能・AI的存在である。
人形使いは劇中、「自己保存」や「生命体とは何か」の定義を人間に問うてくる。
人形使いは生命体なのかAIなのか?
そもそも生命体とは何なのか?何を持って「生きている」と判断しているのか?DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)を持っていて、自己複製できれば生命体で、細胞もなく代謝もしなければ生命ではないのだろうか。DNAやRNAは持っているが細菌とは異なり自己増殖できないウイルスは生物なのかそうでないのかは意外と現代科学においても中間的な意見のようだ。
“あなた達のDNAも自己保存のプログラムに過ぎない。現代の科学は、いまだに生命を定義できない”( 1995『GHOST IN THE SHELL』 人形使い)
では「人形使い」はAIなのか?という問いについて、ChatGPTは、それは結論付けない方がよいと述べたそうだ。
ここで、AIらしさを定義、判断する例として「チューリング・テスト」の例が挙げられた。
チューリング・テストとは、人工知能がどれだけ人間を真似られるか、「人間的」であるかを判定するテストである。
三宅氏曰く、「”内実がどうであれ、外形的ふるまいで知能とみなせるか”という合意の指標。実体論は棚上げして“パスした”という印を与える発想」とのこと。
また、AIの見方は3つに整理できるという。
①工学的AI(具体的な技術として開発・応用)、②認知科学的AI(受け手側が知能と感じるかどうか)、③哲学的AI(”本当に知能かどうか”を倫理的・社会的な影響を哲学的な視点から考察・定義)
また、「強いAI」「弱いAI」と表現されることもある。これは性能の強弱ではなく、哲学的立場の違いで、強いAIは”心や意志を持ち得る”と考え、弱いAIは”高度だが計算的模倣に過ぎない”と捉えられる。
要するに「AIかどうか」については技術的定義だけではなく、社会的合意でも決まる側面がある、ということだ。

株式会社サラマンダー 代表取締役社長・櫻井 大樹氏
AIが自己保存できるようになるボタンがあったら、あなたはそのボタン押すか?
AIと人間の違いについて、三宅氏は「AIは自己保存しない」と述べている。そもそもAIは自己というものを明確には定義していない。人間もAIもCPU(脳)、そして熱力学的にエネルギーで動いているということは同じであるが、人間はそのCPUの上に仮想的な「時間」という流れを考え、その中で自分自身を捉え自己を保存しようという思いを持って走っているが、人工知能がそういった時間の流れという概念の中で自分を捉えているかどうかは怪しいという。ただ、人間は自分の頭の中で「自分は自分で動いているのだ」という「自己主体感」つまり「主体性」があり、それはAIのアプリケーションは持ち合わせていないものであったが、近年のAIエージェントには主体性・自主性が存在する。つまり人間とAIの違いは、自己保存しようとするかしないかであるとする場合、AIに対して自己保存できる機能をつけるということは割と危険なラインであり、人間との争いは避けられないのではないか、と述べている。
「このボタンを押すとAIがこれから自己保存します」。あなたならそのボタンを押すだろうか?
AIエージェントは人間をダメにするのか
AIエージェントは既に、人間にとってパーソナル秘書、アシスタントのような存在を担っているが、櫻井氏は少し懸念があったようだ。例えば、Gmailでメールを受け取ると、Geminiがそのメールの内容をもとにGoogleカレンダーに予定を入れましょうか?と言ってきて、目的地までの移動時間なども算出して前後の予定をブロックしましょうか?なども提案してくる。そうすると人間は、じゃあお願いします。次からは聞かないで自動でやっておいて、となる。これが行き過ぎると、人間はどんどん我儘になって、態度や口が悪くなったりして、人間同士のコミュニケーションが悪くなり、ますますAIの判断で人間が行動する構図が生まれ、AIがいないと回らない社会が生まれるのではないか、という懸念だ。
それに対し、三宅氏はポジティブな考えで、AIさえいれば円滑に進むのであればそれはそれでよい社会なんじゃないか、ということだ。この意見には私は若干拒否感があったが、その理由を聞いて納得した。
例えば、オンラインのゲーム友達で、オフ会でリアルに会ってみるとあまり気が合わない好ましくない人間性であっても、オンライン上では気が合ったり良い人だったりすることがあるそうだ。これまではリアルな人間関係しか存在しなかったが、SNSやオンラインゲームといったさまざまなパスが存在する現代においては、そのどれかの手段で仲が良ければよいわけで、今までリアルだけでは仲が悪かった人も別のチャネルでは仲良くなれるかもしれない。そのオンラインの最先端のAIが人の間に入ることによってコミュニケーションが円滑の取れる(「エージェントコミュニケーション」と呼んでいるとのこと)可能性があるのであれば、つまりこれは世界平和に繋がるのではないか?言語の壁も超え、世界中のだれとでも仲良くなれる時代が来るのではないか?という意見だ。
この意見には櫻井氏も同意とのことだが、もう1つの懸念点を挙げた。それは、人間同士のコミュニケーション能力の低下や、地図を読めなくなったり、電話番号を覚えなくなったりという、何か新しい発明があるたびに人間の能力が劣化していっているという点だ。
これに対しても三宅氏はポジティブな発想で、劣化はするがその代わりに新しいチャネルを開くことができる、と述べている。例えば、歩いては行けなかった場所に車でなら向かうことができる、分かりづらかった電車の乗り換えをスムーズに行うことができる、などだ。
AIエージェントの主体性を乗りこなす
アプリの時代からエージェントの時代へと移行するにあたり、エージェントは主体的に提案し、連携することで、社会そのものをダイナミクスに組み替えようとしている。エージェント同士の連携で社会が動き、その間に人間が存在する社会。そのようなこれからの社会において必要となってくるのは、AIの主体性を乗りこなす能力、主導権の手綱は何かしらこちらが握っておく、という能力である。

東京藝術大学大学院映像研究科特任教授・三宅 陽一郎氏
タチコマ vs. 人形使い:フレームの内と外
AIエージェントと言えば、攻殻機動隊の人気キャラクター、タチコマである。
タチコマとは公安9課が使用する人工知能(AI)を搭載した4足歩行の戦闘用ロボットで、正式名称は「多脚戦車」または「思考戦車」と呼ばれ、抽象的な命令を受けてもその目的に沿って自ら考え実行する。
それでは、タチコマと人形使いの違いは何なのか。
三宅氏曰く、タチコマはあくまでも人の定めたミッションフレーム内で動くエージェントであり、人形使いの方は自分自身で何か目標を持っている、設定している自律的知能ように見えるとのことだ。
人形使いは、元々公安6課が他国との外交を有利に進めるための潜入工作員として作り上げた自立型プログラムであるが、いつしかそのフレームから外れ、情報生命体となって自分自身の子孫を残したいという欲望を抱きだす。
この、フレームの外に出て、自分のミッションを自ら定義するという殻を破る行動は現在にAIにはなく、またそれは人工知能研究者たちの夢でもあるという。どれだけ研究者が模索しても、どれだけディーブラーニングの技術が発達しても、フレームの外に出ることはできないのだそうだ。これは人間との大きな相違点だ。
また、人形使いが東洋的発想のAIである、という考察も非常に興味深い。
人形使いは自身を『情報の海で発生した生命体だ』と述べている。西洋的な考えのAIはビルドアップ型で組み合わせていくうえで何かが出来上がるという考えに対し、東洋は混沌の中から何かが生まれ、そこからいろいろなものが削られて個ができると考える。そう考えると、さまざまなモジュールが適切に組み合わされた完成度の高いタチコマは、どちらかというとビルドアップ型のようだ。
一方で、混沌の中から生まれた人形使いは、不完全さを内包し、本来は不要なパーツや無駄な機能も持ちつつ、その中から総体として技術を生み出す。

<イベント概要>
『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』
会期:2026年1月30日(金)~2026年4月5日(日)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
(東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45F)
主催:攻殻機動隊展 Ghost and the Shell 製作委員会






