<「アニメ産業レポート2025」刊行記念セミナーレポート>日本のアニメが世界に誇れる理由と先行きの見えない課題
2025年12月26日、一般社団法人日本動画協会による「アニメ産業レポート2025」刊行記念セミナーが開催されました。2009年に創刊された「アニメ産業レポート」はアニメ産業への関心の高まりとともに、年々注目を集めており、今では政府が参考データとして引用することもあるほどです。世界に誇る日本のアニメ産業の好況ぶりや業界が抱える課題の共有がされたセミナーのレポートをお届けします。
セミナーは「アニメ産業レポート」編集統括の長谷川雅弘さんが進行を務め、同レポート主筆にしてデジタルハリウッド大学大学院 教授の森祐治さん、ジャーナリストの数土直志さんと松本淳さん、コウダテ株式会社 代表取締役の高達俊之さん、株式会社ヒューマンメディア 事業プロデューサーの長谷川雅弘さん、株式会社キャラクター・データバンク 代表取締役社長の陸川和男さん、アニメ産業研究家株式会社ビデオマーケット 顧問の増田弘道さん、ポップパワープロジェクト事務局 プロデューサーの亀山泰夫さん、株式会社トリガー 常務取締役の舛本和也さんら、「アニメ産業レポート2025」執筆陣が登壇しました。
2024年のアニメ産業市場規模|海外市場が国内を上回る構造に
まずは、2024年のアニメ産業市場とアニメ業界市場の概観が示されました。本稿における産業市場は「ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場」、業界市場は「すべての商業アニメ制作企業の売り上げを推定した狭義のアニメ市場」を意味します。
2024年の産業市場は、3兆8407億円となりました。前年比114.8%の増加で、産業市場は右肩上がりの成長を続けています。国内と海外の内訳を見ると国内が1兆6705億円(前年比102.8%)、海外が2兆1702億円(前年比126.0%)となっており、近年は海外市場が目覚ましい伸びを見せています。国内市場も伸びてはいるものの拡大のペースは緩やかで、国内市場と海外市場の差は今後も広がっていくと予測されました。
2024年の業界市場は4662億円で、産業市場ともども過去最高の値となりました。売り上げの内訳を見ると海外が28.3%となっており、産業市場ほどではないもののこちらも高い比率となっています。
また、近年はアニメ作品のスタッフクレジットでも監督、作画監督など重要なポジションを海外出身者が担うことも多く、制作現場でも海外の人材の活躍が目立ちます。今、日本のアニメ産業はさまざまな面から「海外依存度の高い産業」に変化しています。

テレビ局のビジネスモデル転換と劇場アニメ市場の現状
次に、2024年の映像流通市場の概観がメディアごとに示されました。テレビアニメの産業市場は982億円でした(前年比100.9%)。市場規模は近年微増しているものの、ほぼ横ばいの状態が続いています。一方のテレビアニメ業界市場は1020億円(前年比112.1%)と、こちらは好調。過去最高の市場規模となりました。
テレビアニメを放送するテレビ局にも変化が訪れています。近年は放送による広告収入に依存せず、配信や海外展開を見越したアニメも見られるようになりました。一例として、2024年のアニメ『タコピーの原罪』は、TBSがプロデュースしているにもかかわらずAmazon Prime Video、Netflixなどの配信サイトでのみ展開されました。
続いて劇場アニメを見ると、2024年の興行収入は690億円(前年比101%)で、微増ながら市場は拡大しています。好調の背景にはアニメの大衆化が挙げられますが、その一方でオリジナルの劇場アニメは苦戦している傾向にあるのは課題であるとも述べられました。
縮小を続けるビデオパッケージ市場は下げ止まりの兆候
アニメのビデオパッケージに目を向けると、2024年は383億円となりました。市場規模は配信サイトでのアニメ視聴が一般的になるのに合わせて年々減少の一途をたどっています。しかし、ここ3年ほどは横ばいとなっており、減少傾向が底を打ったのかもしれないという見方が示されました。
洋画、邦画、ドラマなどあらゆるジャンルを含む映像パッケージ全体の構成を見ると、全体の28.1%を占める国内アニメも好調ながら、邦楽が39.8%を占めるとのことです。女性ファンに向けた男性アイドルグループのライブBlu-rayが邦楽ジャンルの売り上げの大半を占めており、アニメ関連Blu-rayの中でも『アイドリッシュセブン』、『あんさんぶるスターズ!』、『うたの☆プリンスさまっ♪』など、3Dキャラクターが歌って踊る音楽ライブ映像を収録したパッケージが好調であるとのことです。

ビデオパッケージの市場を縮小させ続けているアニメ配信市場も見てみましょう。2024年のエンドユーザー市場の成長率は前年比106.2%で、2023年の前年比151.4%から大幅ダウン。一方で、アニメ制作スタジオの収入の成長率は前年比121.1%となる447億円で、前年比121.1%のジャンプアップを記録しています。
「ユーザー数の伸びは鈍化しているものの、業界は依然として勢いよく成長を続けている」という、相反するような数値が算出されたわけです。これにはいくつかの要因があるとされ、ひとつは「定額制動画配信サイトが顧客を新規獲得するのではなく、競合から奪い合うフェーズに入っている」こと、二つ目は大手制作スタジオが旧作の配信権を新たな収益源とし、各配信サイトが「独占配信権」への投資を強化していることが挙げられました。しかし、各制作スタジオが有する旧作の数には当然限りがあるので、旧作の配信権に頼り続けるのは、将来的にはリスクともなりえます。
また、配信サイトの売り上げはNetflix、U-NEXT、Amazon Prime Videoの3強で、実質的な利用率はAmazon Prime Videoが競合サービスを寄せ付けないほどに群を抜いています。Amazon Prime Videoは月額が600円(税込)と競合他社より低価格で、さらにプライム会員になることでもPrime Videoを利用できることから、Amazon Prime Video売り上げだけを見ると他社のサービスに引けを取っているように見える……というからくりがあるがあるとされています。
アニメキャラクター商品市場の今|キッズ向けが約8割を占める理由
アニメの二次利用市場を見ると、国内のキャラクター商品市場は2020年にコロナ禍の影響で底を打って以来年々拡大を続け、2024年は1兆6860億円となりました。作品別に見ると『ポケットモンスター』、『それいけ!アンパンマン』、『ちいかわ』、『プリキュア』シリーズ、『すみっコぐらし』などキッズファミリー向けが依然として強く、2024年の商品化におけるシェアは79.6%がキッズアニメで、20.4%がコアファンに向けたアニメでした。ただ、コアファン向けアニメの比率は、2018年には12.6%であったことを考えると、年々増加の一途をたどっています。
アニメ商品化を含む二次利用が好調である背景は、定番キャラクターの変わらぬ人気、円安によるインバウンド消費の拡大、キャラクターカフェやポップアップストアなどの体験型消費の活発化、フィギュア/プラモデル/カードゲームなどによるキダルト(キッズとアダルトを組み合わせた造語。転じて子供向けとされる商品を大人になっても楽しむ人たちのこと)層への訴求、推し活の定着に加え、SNSを起爆剤とする広告やプロモーションの奏功などが挙げられました。

二次利用は、音楽市場も活況でした。2024年にSpotifyで海外ユーザーが再生した日本アーティスト楽曲のランクを見ると、1位がテレビアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期のオープニングテーマである「Bling-Bang-Bang-Born」であることを皮切りにトップ10のうち6曲がアニメとのタイアップ曲でした。いわゆるアニソンアーティストではないアーティストのタイアップ曲を「アニソン」と定義するかは議論が待たれますが、アニメ関連楽曲という枠組みであれば、非常に大きな存在感を発揮しています。
好調だが未来は不透明|アニメ産業レポート2025が示す警鐘
セミナーは最後に、アニメ制作会社の人材育成の現状と課題を紹介しました。2016年と2025年を比較すると業務委託契約から社員雇用化が進んでおり、新人アニメーターの生活が安定しやすくなっています。
その一方で、雇用条件がよい大手制作会社に若手が集中する、社員雇用や新人育成費の捻出による経営圧迫、すでに新規ユーザーの獲得から既存顧客の奪い合いに転じている配信契約ビジネスの限界など課題もかなり多いことから「業界がホワイト化しているのはよいことだが、5年先の産業状況すら見通せない状況」でもあるそうです。
セミナーは、人材育成のための資金や、生産性向上のデジタル化を進める資金になんらかの補助・支援が早急に行われなければ、人材不足や資金難でアニメを作れなくなることもありうると警鐘を鳴らし、締めくくられました。
左から順に亀山泰夫さん、数土直志さん、森祐治さん、
リモートで参加した増田弘道さん、
長谷川雅弘さん、陸川和男さん、舛本和也さん、松本淳さん、高達俊之さん
アニメーターは出来高制のフリーランスが多く、業界の未来を支える新人の収入が低くなってしまう……という課題はかねてより議論されてきました。今はアニメーターの社員雇用や育成への注力が進み、解決に向かっているようで安心しました。
また、「アニメ産業は海外依存度が上がっている」という発表には、納得感がありました。定額制動画配信サービスの普及で、マンガやライトノベルなどの原作が盛り上がっている作品のアニメをすぐに(日本のファンたちと同じタイミングで)見られるようになったことが、海外での盛り上がりに拍車をかけていると聞いたことがあります。
一方で、多くの制作スタジオは今も収入源の確保に苦心していることも明らかになりました。最後に述べられた「(アニメ業界は)5年先の状況すら見通せない状況」という言葉は、決して軽視してはいけないと考えさせられたセミナーでした。
取材日:2025年12月26日 ライター・撮影:蚩尤
「アニメ産業レポート2025」
発行元:一般社団法人日本動画協会
発行日:2025年12月18日(木)
判型/頁数:A4/本文 約120ページ、付録:折込図表4面
価格:22,000円(税込)
執筆者:
森祐治(主筆/デジタルハリウッド大学大学院 教授)
数土直志(ジャーナリスト/あいち なごやインターナショナル アニメーション フィルムフェスティバル アーティスティック ディレクター)
高達俊之(コウダテ株式会社 代表取締役/シニア知的財産アナリスト(コンテンツ))
長谷川雅弘(株式会社ヒューマンメディア 事業プロデューサー/専修大学ネットワーク情報学部 非常勤講師)
松本淳(ジャーナリスト/専修大学文学部ジャーナリズム学科 特任教授)
陸川和男(株式会社キャラクター・データバンク 代表取締役社長/一般社団法人キャラクターブランド・ライセンス協会 専務理事)
増田弘道(アニメ産業研究/家株式会社ビデオマーケット 顧問)
亀山泰夫(ポップパワープロジェクト事務局 プロデューサー/事業創造大学院大学 非常勤講師)
舛本和也(株式会社トリガー 常務取締役/一般社団法人日本動画協会 人材育成委員会 委員長)






