対立のあるところにドラマは生まれる、ミュージカル「レイディ・ベス」が待望の再演
エリザベス1世とメアリー・スチュワート。16世紀の英国で共に英国王ヘンリー8世の王女として生まれながら、その父が6度も結婚したために、2番目の妻との娘と最初の妻との娘として何かと比較されることになり、王位継承権をめぐっても対立。プロテスタントとカトリックという宗教上の違いも相まって、その対立は修復不可能なところまで深まった。共に王位につき女王となったが、独身を貫き徳政を敷いたエリザベスと政略結婚を弄しプロテスタントを大量処刑した冷酷なメアリーは、今日まで語り継がれる対立軸となり、「バージン・クイーン(処女女王)」と「ブラッディ―・メアリー(血まみれのメアリー)」という正反対のあだ名まで付けられた。
対立のあるところにドラマは生まれる。後世の人々がこの対立を見逃すはずがない。映画、テレビ、戯曲、小説のかっこうの題材となり、さまざまな角度から採り上げられている。メアリーの残忍さに焦点があてられることが多かったが、「エリザベート」で知られる黄金コンビ、ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)が日本で実現させたこの「レイディ・ベス」では、メアリーの在位時代に失意のまま過ごしていたエリザベスの青春時代に着目して、史実には残っていない恋人の存在や周囲のどす黒い画策、エリザベスとメアリーの心の動きまでをも盛り込んでエンターテインメント性あふれる作品に仕上げた。日本で2014年に世界初演、2017年に再演されたこの作品が、2022年と2023年のスイスでの公演を経て2026年、再び日本で上演されている。もちろんこの対立の陰では多くの人々が殺されたり、無為な死に追いやられたりしている。楽しむだけではなく厳粛な気持ちを持って、この物語に注目してみたい。(日本での過去2回の公演では「レディ・ベス」というタイトルで上演。今回は「レイディ・ベス」と変更された)クンツェとリーヴァイが「エリザベート」や「モーツァルト!」などの日本公演をともに成功させてきた東宝や演出の小池修一郎とタッグを組んだミュージカル「レイディ・ベス」。
初演、再演と取材を重ねたころ、私は劇評で「きっとこのミュージカルは進化への歩みを止めることはないだろう」と書いた。再演にはさまざまな工夫、変更が盛り込まれていたからだ。スイスでの最新公演もそれは顕著で、さらに今回の日本公演でも歌詞の書き換えや場面構成の変更が見られた。
何よりも主人公エリザベスのフレッシュなキャスティングが注目される。「エリザベート」などでの実績を積み上げ、大作では初めてと言っていい主演をつかみ取った小南満佑子、そして子役出身で3歳からの演技経験を持ち、乃木坂46の5期生オーディション合格以降、「ロミオ&ジュリエット」などのミュージカルで舞台でも結果を残してきた奥田いろは。メアリー役には宝塚歌劇団出身の有沙瞳に加えて、お笑いやものまるの世界で存在感を増している丸山礼をダブルキャストで起用する多彩な顔触れだ。 エリザベスの母、ブーリンは、ヘンリー8世の最初の妻で王妃のキャサリンの侍女として王宮に居た時にヘンリー8世に見初められて、キャサリンの後釜に座った女性で、その後真偽不明の不義密通(不倫)などの疑いで3年もしないうちに処刑されていることから、ブーリンの娘であるエリザベスはメアリーの即位後、徹底的に虐げられた。
強引な政治手法や、プロテスタントの迫害などからメアリーは国民から嫌われる一方で、スペインの皇太子との政略結婚などを画策して激動の時代を乗り切ろうとしていた。エリザベスの存在は「潜在的な脅威」そのものだった。
物語では、家庭教師で学者のアスカムや教育係のアシュリーとともに苦境に耐えるエリザベスが、どこまでも自由を求める吟遊詩人のロビンと恋に落ちる「身分を越えた愛」が描かれていく。
しかしこの作品が深みを感じさせるのは、エリザベスが自由や愛にあこがれる中でも、国を治めるという宿命や使命に目覚めていく過程と、メアリーが暴君のように見える一方で心の中にはてしない孤独を抱えていることをきちんと描き込んでいることだ。2人に和解の時が訪れるのか。はらはらどきどきと共に観客にはたまらない面白さを伝えてくれる。エリザベスがその後生涯独身を貫いた理由は、政略結婚を嫌ったからと後世の人には推測されているが、その理由として若いころのこんな恋があったからと考えるのもロマンチックだ。
とにかく、クンツェとリーヴァイ、そして演出の小池ら巨匠たちの繊細なクリエイティブがあちこちにちりばめられたミュージカル。重厚な歴史劇が好きな人も、切ない恋愛劇が好きな人も、いろんな入り口が観客を待っている作品だと言えるだろう。
ミュージカル「レイディ・ベス」は2026年2月9日~3月27日に東京・日比谷の日生劇場で、4月4~13日に福岡市の博多座で、5月3~10日に名古屋市の御園座で上演される。







