映画「朽ちないサクラ」レビュー 諦めない主人公とそれぞれの正義
映画『朽ちないサクラ』は柚月裕子さんの同名小説を原作とした、「警察×サスペンス×ミステリー」と銘打つ作品だ。
愛知県警の広報職員として働く森口泉が、高校時代からの親友で新聞社記者の津村千佳の死に接し、連鎖していく事件の真相に迫っていく。
『朽ちないサクラ』あらすじ
警察のあきれた怠慢のせいでストーカー被害者は殺された!?
警察不祥事のスクープ。新聞記者である親友に裏切られたのか……口止めした警察広報職員の森口泉は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体となって発見された。泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める。
次第に核心に迫る二人は、やがて事件に潜む醜い闇を知ることとなる。
『朽ちないサクラ』3つの見どころ
無関係に思えた事件や登場人物がひとつの線としてつながっても、最後まで見えない本当の闇。ミステリーサスペンスとして秀逸なこのストーリーは、ぜひ映画館で楽しんでほしい。
また、物語とあわせてぜひ注目してほしいのが、「諦めない主人公」と「丁寧に描かれる心情」、そして「作品全体を包む映像美」だ。
諦めない主人公
主人公・泉は、親友がなぜ死ななければいけなかったのかという疑問を明かすためなら、絶対に諦めない。捜査一課係長に「事務職のお嬢ちゃん」と一蹴されても、証言を期待した相手から話が聞けなくても、大きすぎる壁に阻まれても、彼女は諦めなかった。
しかし、泉は逆境に負けじと手放しで立ち上がる「心の強い主人公」というわけではない。
親友が殺され、そのきっかけが自分にあるのではと気づいた時から、彼女は笑わなくなった。
泉がもともと笑わないキャラではなく、親友と昔の写真を見ては爆笑し、警察職員という立場もつい忘れてちょっといい感じの年下の警察官の秘密を漏らしてしまうような、どこにでもいる若い事務員だったことは映画の序盤で証明されている。
大きな悲しみや自責の念を抱えつつ、せめて親友にできることをと真相解明に奔走する姿は、あまりに痛々しく、切実。
そんな泉を、笑わない杉咲花が真っ直ぐに演じきっている。
丁寧に描かれる心情
登場人物たちひとりひとりの心情も丁寧に描かれており、見応えがあった。
人間の持つ悪意や盲信、裏切り、それに相反するようできっと誰しもが持ち合わせている愛情や正義、信条。
友人を思う気持ち、子を思う気持ち、仕事仲間を思う気持ち、恋人を思う気持ち。それぞれの行動に隠された真実を思うと胸が熱くなる。
正しいことをするとは何か。
人の数だけ違う答えを、主人公のみならず登場人物たちが観ている側に問いかける。
作品全体を包む映像美
人間味溢れる主人公や登場人物を彩るのは、作品全体を包み込む音楽と映像の美しさだ。
愛知県の郊外を舞台としたその風景、親友の遺体が見つかった川沿いの桜、雰囲気のよい料理屋の窓、事件の鍵となる神社など、何気ない景色なのだが時に息を呑む美しさを見せるのが印象的だった。
たとえば、映画のオープニングは不穏な音楽と水の音から始まる。突然大きくなる水音。女性が水の入った容器で溺死させられ、橋の上から川の中へ投げ捨てられる。
なんともおぞましいシーンなのだが、その背後で厳かに流れるのは女性の美しい歌声、ピアノのメロディー。それは次第に合唱のようになり、橋の上で祈りのようなものを唱え続ける男の声と重なっていくのが儚くも美しく感じてしまう。
ミステリーサスペンスとはいえ、この作品が全体を通して暗すぎないのは、アートワークも大きな理由だと思う。
観終わった後は、小説を夢中になって1日で読破してしまったような満足感があった。重苦しい事件や警察組織がテーマだが、最後は少し軽やかな気持ちで、席を立てることだろう。
『朽ちないサクラ』
6月21日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国公開
キャスト:
杉咲花
萩原利久 森田想 坂東巳之助
駿河太郎 遠藤雄弥 和田聰宏 藤田朋子
豊原功補
安田顕
原作:柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我⼈祥太 山⽥能龍
音楽:森優太
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
制作プロダクション:ホリプロ
©2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会
公式サイト:culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie
X/Instagram:@kuchinai_sakura