夢は、お年寄りが楽しめる エンタテインメントの提供

仙台
有限会社クリップクラブ 代表取締役 坂本 英紀氏
創業から30年。若者向けのイベント企画事業からはじまった『クリップクラブ』は、世の中のニーズの変化とともに映像制作会社へ。代表の坂本さんの「遊び」を通して交流を生み、人々を楽しませたいという思いの対象は、今、若者からお年寄りへと移行している。仙台のエンタテイメントを盛り上げてきた坂本さんが今、見つめる先には何があるのか、お聞きしました。

仙台の若者に「遊び」を提供するため、 イベント企画会社を設立。

まずは起業されたきっかけを教えていただけますか。

インタヴューにお答えいただいた代表取締役 坂本 英紀氏。

インタヴューにお答えいただいた代表の坂本英紀氏。

中学生の頃から幼なじみと「いつか一緒に会社をやろう」と言っていたんです。 東京の大学を卒業後、地元仙台に戻り百貨店に就職しましたが、1年で退職し、約束どおり幼なじみと一緒に会社を立ち上げました。はじめたのは、若者が余暇を楽しむためのイベント企画会社です。 テニスサークルの運営、スキーやサーフィンのツアー企画、パーティ運営などですね。 ところが、自分たちの社会人経験が乏しいこともあり、経営のことが分からず、あっという間に赤字が膨らんでしまったんです。スタッフの人件費を捻出し、借金を減らすため、相棒と“ちり紙交換※1”などをして日銭を稼ぎました。本業で赤字を作って、アルバイトでお金を稼いでいたんです。

※1 軽トラックで街中を周回し、古新聞・古雑誌とちり紙を交換するサービス。

それはご苦労されましたね。 経営方針は変更されなかったのでしょうか。

相棒と2人で集中して出稼ぎをしようとしていた時に、以前勤めていた百貨店にイベントホールが新設されることになり、「イベント関連のことをしているのなら運営事業者にどうか」、と声をかけてもらったんです。ありがたいことでした。そこで音響や照明の腕を磨き、イベントホールの運営をがむしゃらに行いまいした。観客が250名収容できるそのホールは、当時の仙台では中堅サイズで、年間200日ほど稼働していました。かなり忙しかったですね。

ホールの運営は順調だったのですね。

ええ。お客様のニーズに合わせて楽器をレンタルできるようにしたり、当時希少だった大型プロジェクターの貸し出したりと、運営以外にも事業に広がりが生まれてきた頃に、百貨店の方針が変わり、ホールを廃止することになってしまったんです。

ニーズに順応し、誰かが喜ぶことをし続ける

『NPO法人20世紀アーカイブ仙台』で作った写真集。震災直後と復興後の風景が並列され、見比べることができる。

『NPO法人20世紀アーカイブ仙台』で作った写真集。震災直後と復興後の風景が並列され、見比べる内容。

ホールの廃止後、事業内容に変化はありましたか?

ホールの運営をしながら、プロジェクターなどの関連機材のレンタルを行っていました。 お客様から「動画は作れないのか」とお問い合わせをいただくことが増え、次第にソフト制作も行うようになり、イベントに必要なハードのレンタル事業に加え、ソフトを作ることを同時に行なっていました。 ホールの廃止後、ソフト制作が主となったんです。

変化に柔軟に対応されてきたのですね。

そう言われるとそうかもしれませんが、もともと大きな目標設定をするタイプではないのかもしれませんね。その時々で状況は変化しますので、それについていくのがやっと、という思いももちろんありました。

イベント企画からホール運営、映像制作と事業の変遷がありましたが、 現在はどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

1990年代後半ごろから、一般の方の8mmフィルムをVHSに変換するいわゆるテレシネ※2を行っていましたが、その際、昭和の仙台を映す興味深いものが数多くありました。駅前の様子や個人住宅などの建物や、人々の服装や髪型など当時の文化を思い出させてくれるものです。撮影されたご本人にとっては何気ない日常の光景ですが、こういったものにも資料的価値があるのではないか、と思い、二次利用の許諾をいただいたものについては、テレシネの作業費を無料にさせていただきまして、映像をアーカイブしています。

アーカイブには、何か目的があったのですか。

いいえ、当時は全く何もないです。ただ、面白いものだから何かに使えるだろう、と思っていました。 8年前に出会った出版、デザイン会社を経営している方が、市民の方から仙台の古い写真を集めていて、この方と意気投合して、仙台の古い写真、8ミリ、音源などそういったものを1カ所で収集、保存して市民に公開していく団体を作りましょうと盛り上がりました。 また、BGMの配給会社の方から、昭和のご当地CMソングの音源があると聞き、「これまでアーカイブしてきた昭和の仙台の映像と一緒に使ったら面白いのでは」と、イベントを行うことにしました。10月の第3土曜日にホームムービーの日という記念日があり、それに合わせて世界中でホームムービーのイベントが行われていることを知りました。そこで、とっかかりとしてホームムービーの日の仙台会場世話人に名乗りをあげ、初めて仙台市歴史民俗資料館で8mm上映会を開催しました。生活に密着した身近な仙台の映像を観て、集まった方々は大変喜んでくれました。

長年蓄積したアーカイブが活かされたんですね。

ええ、そうですね。イベントを共催した音楽配給会社と出版デザイン会社の3社で『NPO法人20世紀アーカイブ仙台』を立ち上げ(2009年)、昭和の懐かしい仙台の姿を後世に残し、伝えていく活動を行うことにしました。震災前に発足した活動でしたが、震災が起こったことにより、さらに意義のある活動に変わってきました。

見て、聞いて、昔を懐かしむことで 人の心はやさしく開いていく

震災後、NPOの活動はどのように変わりましたか。

NPO法人20世紀アーカイブ仙台の活動では、ファシリテイターとして、参加者のコミュニュケ-ションを促進する。

NPO法人20世紀アーカイブ仙台の活動では、ファシリテイターとして、参加者のコミュニュケ-ションを促進する。

東北には、地震や津波の被害によって、生活の場を変えざるを得ない方々が多くいます。そういった場に出向いて、ひきこもりがちなお年寄りの方々のコミュニケーションを促進する活動をしています。その土地の昔の映像を編集して持参し、それを放映しながら、思い出を引き出します。時には知り合いが映り込んでいることもあったり、大変に盛り上がるんです。私はファシリテーターとして、回想法という高齢者の心を開く心理療法を活用し、お年寄りから会話を引き出します。映像をただ映画のように流すだけではだめで、会話を生み出すことが大事です。懐かしい思い出を語り合うことで脳が刺激され、認知症にも効果があるとされているんです。

素晴らしいですね。 昔を懐かしみ、語り合うことは、いいコミュニケーションになりますね。

ええ、そうですね。お年寄りからも大変好評です。何かの役に立つかも…と、はじめた昔の映像のアーカイブが今このように喜んでもらえる形になって良かったと思っています。震災以後、以前よりも映像を提供してくださる方が増えました。東北だけでなく、関西方面からもデータが届くようになりました。それをこれから有効に活用したいと考えています。

最後に、今の坂本さんの夢を教えていただけますか。

お年寄りの遊園地を作りたいです。お年寄りがいきいきと楽しめるエンタテインメントの場を提供したいですね。その場に行けば、楽しいことが待っている、そう思える場所があるのはいいと思いませんか。お年寄りにはそういう場がなかなかないんですね。老人福祉施設の遠足もいつも同じ場所です。お年寄りの「遊び」の場づくりに、これから力を注いでいきたいと思っています。

取材日:2015年6月19日

企業名 有限会社クリップクラブ

  • 代表者名:代表取締役 坂本 英紀(さかもと ひでき)
  • 設立年月日:1989年11月20日
  • 事業内容:ビデオ制作、DVDメディア制作、8ミリフィルムのDVD変換、ダビング・パッケージデザイン、音響・照明の機材手配およびオペレーション、映像・照明機器のレンタル業務、インターネット用動画ファイル作成、卒業ビデオ・卒業CD制作、自然環境映像のレンタル・販売
  • 所在地:〒983-0021宮城県仙台市宮城野区田子1丁目11−2
  • TEL:022-387-0650
  • FAX:022-387-0651
  • URL:http://www.d2.dion.ne.jp/~clip/index.htm
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