デジタルサイネージとAIの融合がもたらす可能性。札幌発、最先端デジタル技術で地域活性化へ
デジタルサイネージの設計開発やコンテンツ制作、AIのシステム開発などを行っている札幌のネットドア株式会社。2024年には、最新のデジタル設備が整ったインキュベーション施設「Deep Tech CORE SAPPORO」もオープンしました。代表取締役CEOである藤田 知直(ふじた ともなお)さんに、会社の取り組みや施設の特徴などについて話を伺いました。
デジタルサイネージはネットワークに生活者を呼び込むドア
立ち上げ以前のキャリアをお聞かせください。
もともとは東京でWeb系のクリエイターとして、スポーツ関連のコンテンツのディレクションを行っていました。デジタルサイネージに出会ったのは17年頃で、当時は単に看板がデジタルになって光って動く、いわゆる電子看板と呼ばれるものでした。運用においてもコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)がなく、ほとんど音声とアニメーションを組み合わせたコンテンツを作る「Flash」で管理されていましたが、Webを利用した方がリアルタイムでの更新や遠隔管理も可能なうえ、さまざまなソフトウェアを連携させることによって新たなツールになると考えました。そこで、デジタルサイネージでアイキャッチをしてタッチパネルに触ってもらい、QRコードで実際にWebに飛ぶ仕掛けを作りました。
会社設立までの流れを教えてください。
ソフトウェア開発後に現在の役員の一人である吉田智一と出合い、“デジタルサイネージはネットワークに生活者を呼び込むためのツールでありドアである”と考え、二人でネットドア構想を掲げました。
ちょうど日本でのオリンピック開催が決まった時期であり、デジタルサイネージとAIの相性がいいという社会の空気感があったのですが、周りを見るとソリューションは増えているものの、ワンストップで対応できる会社がない。だったら自分たちでやろうと決めて、ネットドア株式会社を設立しました。
ハードウェアの設計・開発からシステムの開発、コンテンツ制作、ハードウェアの設置・補修までワンストップで対応できる点が評価され、スタートアップにも関わらず、創業時から一部上場企業と取引をさせていただいています。
企業理念を教えてください。
私たちの企業理念は「価値創造」に重きを置き、ハード・ソフトを融合させたプラットフォームをワンストップで作ること。それにより生活者と社会のデジタルハブになり、地域活性化へとつなげていきたいと考えています。弊社は優れたスタートアップ企業として、「J-Startup HOKKAIDO」「北大発認定スタートアップ企業」「SAPPORO NEXT LEADING企業」に選定されています。今のところ札幌市内でこの3つの称号を持つのは弊社ともう1社だけです。
先を見据えた開発で新たなマーケットを獲得
クライアントの獲得はどのように行っていますか?
現在、取引のあるクライアントは250〜300社ほどですが、その多くがHPからの問い合わせです。弊社のHPはアーカイブで実績を掲示していません。答えはどこを見ても書いていない。だから問い合わせが必要になる。結果、自然と問い合わせ率が上がっていきました。
印象に残っているお仕事を教えてください。
2019年に会社を設立しましたが、翌年に新型コロナが始まり、2月には全国で初めて非常事態宣言が出ました。デジタルサイネージやLEDビジョンは人を集める仕事なので、まったく世の中から必要とされない時代に変わったわけですね。ですので、決まっていた大型案件もすべてなくなり、2期目は総額7000〜8000万円の失注から始まりました。
さあどうしようかというときに力を発揮したのが、デジタルソリューションをワンストップでできるという強みでした。私たちが考えたのが、アフターコロナのことでした。
平時に戻った世界を見据えた製品を開発しようと2カ月かけて完成したのが、デジタルサイネージに消毒液のオートディスペンサーとIRセンサーを付けて表体温も測れる「D-Sign Clean」です。防水タッチディスプレイにして最初は非接触のコンテンツに設定し、アフターコロナにタッチパネルに切り替えてデジタルサイネージとして使える形にしました。
発売1期目は1億円の収益を得たものの、7000〜8000万円の失注でしたので、2期目はどうしようかと思いましたが、結果的には前年比600%で6億円の収益、全国で約3000台が売れました。
その後は検温結果がLINEで届く機能や勤怠管理機能を追加したり、IRセンサーをAIカメラに替え、大手広告代理店と組んで広告の視聴率を出したり、駅周辺の混雑緩和を促すための実証実験などに活用しています。
最先端のデジタル設備や道内初のXRスタジオも完備
「Deep Tech CORE SAPPORO」について教えてください。
AIを活用したビジネスを志すスタートアップ企業を、支援・育成するインキュベーション施設です。実証実験のための場所が少ないという課題に応えるべく、2024年JR札幌駅近くにオープンしました。最先端のデジタルデバイスを完備していて、約80人が利用可能な会員制のコワーキングスペースには、クリエイターやエンジニアの目線を生かしてメッシュ天井を採用しました。会員は天井にリアルタイムで映像を解析できるAIエッジカメラや、光をスキャニングしながら検出物までの距離を測定する3D LiDARを自由に付けることができ、ほかの会員の許可を得たうえで、リアル空間で人の動きや状態などの情報を、センターを使って収集・分析するセンシングをしながら開発ができます。
さらに、デジタルラボには3Dプリンターやレーザーカッター、VRゴーグルデバイスのほか、スマートロボットやロボットアームも完備していて、ロボティクスの開発環境も整えてあります。ほかにも大型ドローンを使った各種ソリューションの開発や一眼レフカメラを搭載しての空撮も可能です。検証用の各種スマートフォンやタブレット、センサー類やビーコン、Android基盤、工具類なども取り揃えていて、Internet of Things(loT)機器の開発にも適しています。スタートアップする際は資金的な余裕を持つのが難しいのですが、会員になることで実機が利用でき、余計なコストをかけずに「モノづくり」から「コトづくり」まで、多種多様な研究開発が行えます。
注目していただきたいのが、約80平方メートルのLEDビジョンを導入した道内初のXR(クロスリアリティー)スタジオです。壁面と床面の4面をGlue On Board(GOB)モデルのLEDディスプレイで構築していて、フロアビジョンは1平方メートル当たり2トンまでの耐衝撃性があります。VR技術によってカメラをトラッキングし、リアルタイムで映像や音声の再生を行うことで、さまざまな映像世界を映し出します。それにより、VRゴーグルをかけずに3D映像の世界が体験できます。人がなかに入って撮影もできますので、臨場感や没入感が体験でき、映像を投影していないので余計な影も映りません。たとえば映画やテレビ局のスタジオをXRに代えることでセットを作らずに済みますし、これまでグリーンバックで撮影していたものが実際の映像のなかで演じることができるようになります。それによって工数の削減にもつながるでしょう。育成の一環として、会員にはこうした映像制作のノウハウも伝えています。
さらに館内にはレンタルオフィスもあり、現在はインドのAI会社や宇宙関連会社などが入っています。また、新しいソリューションづくりのための場所として、北海道経済産業局の方や「J-Startup HOKKAIDO」「北大発認定スタートアップ企業」に選出された企業も無料で使用できるようにし、いつでも会話できる環境を作ることによって地域間連携も強くしていきたいと考えています。こうした動きもあり、優秀な人材やスタートアップ企業の発掘を目的に、投資家や大企業からのお問い合わせもいただいています。
「裸眼3D」についても教えてください。
「裸眼3D」は、床と壁の3面にLEDビジョンが設置された空間でVRゴーグルなどをかけずに立体映像が楽しめる仕組みで「XR BOX」として商品化しています。ビューポイントから外れると映像が歪むという課題がありますが、これはXRインタラクティブで解決します。
持ち運びも可能なので、イベントなどに利用することで、アイドルや推しと一緒に踊って歌って動画を撮れたり、映画やアニメの世界に等身大で入れて主人公と一緒に動画が撮れるなど、新しい顧客体験を提供していくことができます。
ほかにも「XR BOX」があれば、省スペースでバーチャルモデルルームが作れます。CADデータから実物大の3D空間を瞬時に作り出すことができ、壁紙や床材だけでなく、季節、時間にも合わせて照度を変えられますのでイメージしやすく、興味から検討に入るタームが短縮できます。車も同様で、好きなロケーションに好きな車を実物大で浮き上がらせることができ、さらにVR(仮想現実)で試乗体験をすれば、まるで乗っているかのような気分が味わえます。駅ビルや地下歩行空間にバーチャルディーラーがあれば、合間に立ち寄って実際の大きさを見たり、VRで試乗体験ができる。さらに実際の車を見たければ近くのディーラーを紹介するという流れが生まれます。
このようにXRソリューションを活用し、オンラインとオフラインを統合したOnline Merges with(OMO)XRのプラットフォームを構築することで、企業にとっては新しいデジタルマネタイズができ、顧客体験の最大化と満足化も図れます。現在は人がXRコンテンツを制作していますが、生成AIでXRコンテンツの制作を自動化することでコストの大幅削減を目指しています。
エントランスに設けられた自動ドアビジョンも印象的ですね。
映像が流せる日本初の透過型LED自動ドアビジョンは自動ドアメーカーとの協業で、2019年度から開発を始めました。最初は厚さが約70mmでしたが改良を重ね、現在は特殊なアルミを使用した厚さ2mmのLEDビジョンを自動ドアの内側に貼り付けています。既存の自動ドアにも設置が可能ですので、商業施設や飲食店の入口に導入したり、大手広告代理店と組んでドアをメディア化し、どのようなコンテンツが購買体験につながるかの実証実験をしています。
LEDビジョンの活用で可能性が広がりますね。
そうですね。今、行政と話しているのが、街中に設置したLEDビジョンにセンサーやAIエッジカメラを付け、その前に立った人の座標位置に合わせて情報をビジュアライズし、人の潜在意識に訴える。その部分を触ると関連した場所の情報が出てくるので、それを見て「近いから行ってみよう」というプラスαのアクションへとつなげていきます。
さらに、デジタルサイネージを組み合わせることで、見た人がどれだけそこに行き、どのぐらい滞在したかというデータが取れて人の回遊が可視化される。その内容はまちづくりをするうえでも貴重なデータになるなど、さまざまな可能性が広がっています。
XRで新たな価値や人材の創出につなげる
人材はどのように獲得していますか?
クリエイターの雇用には相性やセンスもありますが、インキュベーション施設を持つことで周囲に優秀な人材が集まってきますので、案件ごとに一緒に仕事をすることができます。社員の場合は取引先から入ってくることが多いですね。会社にとって社員は資産だと考えていて、社員には、日々努力するのは自分の資産価値を上げるためで、その結果が会社のためにもなるので、努力を続けてくださいと伝えています。
ただ、雇用と勤務体系がどんどん変わるなか、今後は一つの会社に所属するという働き方ではなくなっていくと思います。この会社にいて自分の資産価値を上げられないと感じたら転職してもいい。それは自分のためですし、そういう世の中になってくると思います。
今後の展望を教えてください。
世の中をもっと笑顔に、もっと便利にするために、さまざまな最先端デバイスを活用しながら地域間連携をし、新たな価値をどんどん創出し続けていくことで人材の創出にもつなげたいですね。
最近は「デジタルツイン」という言葉が注目を集めていますので、メタバースに向けたジャンルを北大と連携して進めています。メタバースでは実際の大きさは分かりにくいので、弊社のXRで等身大の体験ができるようなプラットフォームを作っていきたいと考えています。
最後にクリエイターを目指す人にアドバイスをお願いします。
自分が楽しんでいるかどうかも大切ですが、最も重要なのは見た人にどういう気持ちになってもらいたいかだと思います。その思いを実現するためには、常に新しいものに取り組む好奇心や意欲が必要ですし、それが自分の資産価値を上げることにもなりますので、日頃からその姿勢を大切にしてほしいです。
取材日:2025年3月14日 ライター:八幡 智子
ネットドア株式会社
- 代表者名:藤田 知直
- 設立年月:2019年5月
- 資本金:4,900万円
- 事業内容:デジタルサイネージの設計開発、AI開発・アプリ開発、LEDビジョンの販売・施工、コンテンツ・動画・CG制作など
- 所在地:(本社)北海道札幌市北区北十二条西4丁目1-6松﨑北12条ビル1F
- 〒060-0005 北海道札幌市中央区北5条西5丁目1-5 JR55SAPPORO 8F
- URL:https://netdoor.co.jp/
- お問い合わせ先:011-211-8111