WEB・モバイル2025.05.21

父から教わった名入れペンに込める想いと技術。異業種を経て、家業を未来へ導く二代目

福井
株式会社ヒライケ 代表取締役社長
Makiko Hiraike
平池 牧子

名入れペンを始めとするオリジナル商品を通じて贈る人と贈られる人の気持ちをつないでいる福井県の株式会社ヒライケ。高いクオリティと心のこもった対応が顧客からの高い信頼を得ています。代表取締役社長の平池 牧子(ひらいけ まきこ)さんに、異業種から二代目として社長就任を決めた理由や、名入れ商品に込める思い、今後の展望について伺いました。

英語への情熱を胸に貿易事務に。想像もしなかった家業承継

株式会社ヒライケの社長へ就任するまでのキャリアを教えてください。

通訳や貿易の仕事に憧れ、東京の短期大学英語科を卒業後、Uターンして最初に就いたのは貿易事務の仕事です。海外出張などさまざまな経験を通して、仕事の楽しさを実感しました。約6年働いた後、元々好きだったイラストを描くことを仕事にしたいという思いが強くなり、グラフィックデザイナーとして独立。地場産業を盛り上げたいと、鯖江の眼鏡メーカーを中心に受注していました。

いずれヒライケを継ぎたいという思いはお持ちでしたか?

私は三姉妹の長女なのですが、父は世代的にも昔ながらの考え方で、女性の幸せは結婚だからと会社を残すことは考えなくていいと日頃から言っていました。特殊印刷には特殊な溶剤を使用し手も汚れるので、こんなことはさせられないという気持ちもあったようです。その言葉通り、当初はまったく会社を継ぎたいとは考えていませんでした。

眼鏡業界の低迷を打破!父が69歳で立ち上げた「名入れペンネット」

その頃、ヒライケの事業が大きな転機を迎えたそうですね。

父が1979年に個人事業として創業した当社は、長年特殊印刷業を営み、眼鏡のツルなどにロゴなどの印刷を施してきました。しかし、徐々に眼鏡業界全体が落ち込み、単価の下落や受注量の激減を打破するため、父が技術を転用して何かできないかと模索し2013年に立ち上げたのが「名入れペンネット」です。ボールペンなどに名前を印刷し販売するECサイトで、ホームページを自作するところからスタートして何とか形にし軌道に乗せていきました。当時父は69歳で、ネットショップで買い物もしたことがなかったところから、熱心に勉強し新事業を立ち上げるバイタリティーには本当に驚いたのを覚えています。

社長への就任を決意したきっかけをお聞かせください。

15年頃から「名入れペンネット」の注文が激増し、少人数では回らなくなっていきました。名入れにはいろいろな事前打ち合わせも必要なので、毎日夜中までパソコンに向かい休むことなく作業している父の姿を見て、私もできることがあればとサポートに入ることにしたんです。その後も多忙を極め、連日仮眠をとってすぐ仕事を再開する状況が続きましたが、ある日の明け方、父が「やっと楽しくなってきたけどもう歳やからなぁ」とつぶやいたんです。「名入れペンネット」がこれだけ形になってきていたので、きっと続けたいのではないかと思い、聞いてみると「残したい」と。直接頼まれたわけではないですが、その一言で会社を継ぐことを決意しました。十分な準備期間を経て、二代目として社長へ就任したのが2021年のことです。

ペンから雑貨まで。オリジナル印刷で顧客のニーズに応える

現在の事業内容について教えてください。

特殊印刷分野で事業を展開しています。「名入れペンネット」に加え、21年には印刷入り販促品の通販サイト「ノベルティジャパン」の運営を開始しました。この2つのサイトを大きな柱としてさまざまな要望にお応えできるよう、ペン以外にトートバッグや時計、タンブラー、モバイルグッズなどに名前やロゴを自由に印刷し、オリジナル商品を提供しています。

印刷技術やクオリティーが高く評価されているそうですが、貴社の強みをお聞かせください。

1cm程あるペンの印刷範囲に比べ、長年手がけてきた眼鏡の印刷範囲は1mm程度。細い軸の上でも文字がはっきり読めるよう、切磋琢磨する中で高度な印刷技術を培ってきました。その経験と技術を生かし、細かい文字や校章、ロゴマークなど精巧な印刷ができるのが大きな強みです。「データが細かすぎてどの会社にも断られたけど、受け入れてくれるんですか」と驚くお客さまもいらっしゃいます。また、インクの調合も商品に合わせて印刷面の材質などを考慮して行い、つぶれそうなところは印刷データを事前に修正するなどより良い仕上がりのために工夫を重ねています。眼鏡印刷で重ねてきたこれまでの経験値が最終的な仕上がりの差となって表れ、お客さまからの評価につながっているのではと思います。

名入れに込める想い。喜びと感動を提供し幸せのバトンをつないでいく

名入れ商品の制作を進める中で、大切にしていることは?

当社で注文されるお客さまには、その先にお祝いをしたい大切な方が必ずいらっしゃいます。ですから贈る人、贈られる人双方に喜んでもらえるよう心を込めて、注文のやり取りやデザイン、印刷、包装まで各工程を丁寧に進めるよう心がけています。高級ペンは一生使えるものもあります。せっかく良いものを贈りたいとお客さまが選んでくださったので、長く使う間に印刷が途中で消えてはいけないと思いますし、自信を持ってお渡しできる仕上がりになるまで何度もやり直すこともあります。ペン1本のギフトはもちろん、記念品など数量の多いものでも一つひとつが手元に渡るわけですから、もらった方の気持ちを想像し、欠けやかすれなどがないよう検品もかなり厳しく行っています。

最短で即日発送、少量でも対応など、お客さまファーストの姿勢も明確に伝わってきます。

父は毎日お客さまからの注文があることに非常に感謝していて「お客さまのためなら何でもする」とよく言っています。日々休みなく働く父の背中を見ていると、私も体が辛いから無理だとは言っていられない、できることには絶対に応えたい、それが「名入れペンネット」だと考えるようになりました。
即日発送も、翌日の送別会のために喜ばれる記念品を探していると問い合わせがあったことをきっかけにスタートしました。「時間がないからと諦めなくてよかった」など、うれしい声を多くいただいています。また、他社では何本以上からでないと注文を受けないこともあるのですが、当社ではどの商品も1本から対応可能なことも非常に喜ばれています。小規模な会社である程度融通が利くこと、印刷・発送業務をすべて社内で行っていること、そして眼鏡印刷時代からかなりシビアな納期に対応してきたことがこれらを実現できている理由です。

仕事をしていて一番喜びを感じるのはどのような瞬間ですか?

ご満足いただいているお客さまの声が、やはり大きな励みになっています。本来商品をお受け取りいただくとやり取りは終わりますが、お礼のメールやレビューをいただくことがとても多く、おかげさまでリピーターもどんどん増えています。
初期から10年以上、卒業記念品にと欠かさず注文いただくお客さまや、結婚記念のペアの名入れボールペンをとても喜んでくださって、数年後お子さんの誕生記念にも注文いただいた方もいらっしゃいます。いろいろな方から感動の声や喜びのエピソードを聞いていると、なんていい仕事をさせていただいているんだろうと思います。やった分だけ、やった分以上のものが返ってくる。名入れボールペンの力を改めて感じる日々です。

変わらぬ品質で人生の節目を彩り、地域全体で成長していきたい

今後の目標や会社の展望についてお聞かせください。

毎年の節目節目に、必ず名入れペンネットを利用してくださる方が多くいらっしゃいます。大切なお客さまの人生に寄り添い、高い品質のものを変わらず提供できるよう、会社存続を第一に考えていきたいです。そのために、昨年からこれまで父のみが行っていたパッド印刷の技術承継を始めました。毎日インクで汚れながら父の技術を受け継ぎ、さらに高い印刷技術を培うため休日返上で作業しています。
また、自社だけでなく、技術承継が大きな課題になっている鯖江全体のものづくりの力、高い技術力を絶やさないよう地域の活性化にも重点を置いていきたいと考えています。今後も社員の健康、幸せを一番大切にしながら、特殊印刷なら「名入れペンネット」と思ってもらえる運営を続けていきます。

一緒に働くスタッフに対して、会社としてどのようなことを求めますか?

この仕事は、単に文具に印字をして販売するのではなく、人と人をあたたかな気持ちでつなぐ“想い”を伝える仕事です。顔が見えないネットショップですが、大切な方を喜ばせたいというお客さまが来られるので、やり取りが機械的になっては絶対にいけない。定型文で終わりではなく、“還暦のお祝いならこんな文言を足されては?”とか、自分がしてもらったらうれしいこと、笑顔になることをお客さまに提案できる心の豊かさを持ち続けてほしいですね。

最後に、クリエイターへのメッセージやアドバイスをお願いします。

仕事道具は良いものを揃えて、手入れをしっかりすること。父の印刷現場では古い道具たちもカスタムしながら大切に使われているので、歴史の重みを大切にしながらさらに腕を磨こうと気が引き締まります。良い仕事をするためには、良い道具を持ち、大切に使うことが必要です。
そしてもう一つ、夢に向かって進むためには、広い世界を見て、さまざまな経験を積み、日々起こることに興味を持ってトライしてみること。私自身、学生時代に学んだ英語は、海外からの問い合わせ対応に非常に役立っていますし、貿易事務の経験のおかげで海外への商品発送がスムーズにできています。グラフィックデザインの仕事で覚えたAdobeのIllustratorは完成イメージ画像の作成に必要不可欠です。どこでどんなご縁があるかわかりません。今も自身の印刷技術が少しずつ向上していることが本当に楽しく、昔油絵を描いていた、漫画家になりたかった、そんなことも毎日印刷機の前にいる自分につながっている気がするんです。

取材日:2025年4月18日 ライター:酒井 恭子

株式会社ヒライケ

  • 代表者名:平池 牧子
  • 設立年月:2012年3月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:特殊印刷業、ECサイト「名入れペンネット」「ノベルティジャパン」運営
  • 所在地:〒916-0029 福井県鯖江市北野町2丁目905
  • URL:https://nairepen.net/
  • お問い合わせ先:0778-42-5332 または HPのお問い合わせページより

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