グラフィック2012.03.08

「インフォグラフィックス」で未来を考える。 『ツタグラ』プロジェクトとは?

Vol.81
株式会社ロフトワーク  代表取締役 林千晶さん
いま話題の「インフォグラフィックス」は、情報・データ・知識を視覚的に表現したものを意味している。私達が普段の生活で接している、鉄道の路線図や新聞・雑誌で目にする統計図なども、情報を解釈してわかりやすく表現するインフォグラフィックスのひとつだ。震災からまもなく1年を迎えるが、災害情報(地震や津波の規模、放射性物質の汚染状況など)を伝える手法としても、インフォグラフィックスは大きな役割を果たした。今回の『クリエイティブ好奇心』は、このインフォグラフィックスが持つ力を活用し、デザインの力を借りて未来を考える『ツタグラ』プロジェクトを取材。2011年10月に始動した「ツタグラ[伝わるINFOGRAPHICS]」は、これまで定期的にセミナーやカンファレンスを開催し、多くのクリエイター達がインフォグラフィックス作品を投稿している。サポーターズのおひとりである、株式会社ロフトワークの林さんにインタビューし、インフォグラフィックスが創る未来やクリエイターへの期待についてお話をうかがった。

グラフィックでないと伝えられないことがある

『ツタグラ』プロジェクト設立の経緯は?

(林さん)昨年3月に起きた大震災や原発事故の直後は、情報がとても錯綜していました。多くの人が「正しい情報を得たい」と思いながらも、氾濫する文字や数字の情報をどう受け止めたらよいのか戸惑っていたと思います。 その中で、Honda、Google、パイオニアが協力し、被災地域内で通行できる道路をGoogleMapで表示する「自動車・通行実績情報マップ」や、原研哉さん(原デザイン研究所代表/グラフィックデザイナー)によるwebサイト「311 SCALE」での地震・津波・放射線の視覚化が大きな注目を集めました。例えば毎日変化する放射線の値がいったいどれくらい違うのか、グラフの高さで表現すると一瞬で理解できますよね。情報をわかりやすく伝えることがより求められる状況で、こうしたインフォグラフィックスの力を改めて実感しました。 そこで「グラフィックでないと伝えられないことがある」をテーマに、弊社のクリエイターネットワークを使って何かできないかと、現在『ツタグラ』サポーターズになっている方達と話し始めたのが去年の5~6月頃でした。その後、全体構想をまとめて、webサイトを公開し、経済産業省主催のプロジェクトとして正式スタートしたのが10月です。

『ツタグラ』の構想とは?

(林さん)これからますます活躍する20代や30代のクリエイターに、インフォグラフィックスを活用して未来を創っていってほしいと考えています。私達は毎日、新聞やTVを通じて日本が直面している課題を目にしますが、伝え方が充分じゃないと実感しづらいことがありますよね。課題を読み解き、インフォグラフィックスで整理して、みんなが考えるきっかけを生みだすことができるのはクリエイターです。 私がアジア責任者を務める米国NPOクリエイティブ・コモンズでの活動を通じて実感しているのは、世界でいま特にインフォグラフィックスの活用が進んでいるのは教育と政治分野です。いつでもどこでも一定水準以上の教育を受けられるオープンな教材づくりや、政府の情報公開を民間の力でより効果的な課題解決につなげるための「データの可視化」がクリエイターに求められています。 身近な例では、日本国内の政府刊行物(白書など)や統計データをインフォグラフィックス化することで、課題に興味を持ったり、行動につなげる人が大幅に増えるのではないかと思います。そしてそれが政策にも影響を与えていく。そうした流れが生まれるきっかけになることを期待しています。

集めた情報をどういう視点で眺め、どう表現するかで無限の作品が生まれる

ツタグラホームページ

ツタグラホームページ

 

昨年10月からスタートした『ツタグラ』の活動についておうかがいします。

これまで数回、セミナーを開催し、たくさんの方にご参加いただいています。セミナーの様子はUSTREAMでライブ配信し、Twitterとも連動しているので、自宅から参加されている方もいらっしゃると思います。『ツタグラ』は「みんなで考える」をモットーとしているので、正解を追究するのではなく、参加型セミナーであることが特徴のひとつです。 セミナーでは毎回違うテーマがお題として出され、その解答としてのインフォグラフィックス作品をクリエイターに投稿いただいています。作品はすべて『ツタグラ』サイトで公開されていますが、ひとつのテーマにこれだけの切り口と表現方法があるのかと驚いています。 10月末から3月15日までにツタグラサイトに投稿されたすべてのインフォグラフィックス作品を対象にした『ツタグラ賞』も設立しました。特別審査員に原研哉氏(原デザイン研究所代表/グラフィックデザイナー)、審査員に高木美香氏(経済産業省クリエイティブ産業課課長補佐)、土谷貞雄氏(無印良品くらしの良品研究所)、福田敏也氏(777interactive代表取締役)、木村博之(株式会社チューブグラフィックス代表)をお迎えし、受賞作品は4月に発表する予定です。 募集中のテーマは、「縮小する日本」 「エコジレンマ」 「これからの働き方」 「クリエイティブ産業」。締切が間近ですが、ぜひこちらをご覧のクリエイターのみなさまにも投稿していただき、一緒に盛り上がれたら光栄です。

今後の『ツタグラ』の活動予定は?

これまでは経済産業省主催のプロジェクトとして運営してきましたが、4月以降は環境省をはじめとする他の省庁や大学、企業と連携し、弊社が主催となって活動を続けて行きます。いろいろな組織が参画することで、セミナーでお題となるテーマにも幅がでてくると期待しています。 インフォグラフィックスに正解というものはありません。集めた情報をどういう視点で眺め、どう表現するかで無限の作品が生まれます。よい悪いではなく、みんなで考えて行動を起こすきっかけになるプロジェクトとして、これからも盛り上げていきたいですね。 昨年10月にスタートしたばかりで、まだ『ツタグラ』をご存知ないクリエイターの方々にも、これを機会にぜひチャレンジしていただけるとうれしいです。

ところでクリエイター向けの個性的なカフェを近日オープンとうかがいましたが?

FabCafe(ファブカフェ)

FabCafe(ファブカフェ)

そうなんです(笑) 3月7日に、弊社1階に「FabCafe(ファブカフェ)」がオープン予定です。いま世界で拡がっている「ものづくり革命」のムーブメント“FAB”には、大量生産やマーケットの論理に制約されない「FABrication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、素晴らしい)」の意味が込められています。FabCafeはそのスピリットを楽しく、おいしく、わかりやすく伝える場所としてオープンします。 特徴はなんといっても、カフェにレーザーカッターやデジタル工作機器を備えていること。iPhoneカバー、グリーティングカード、アクセサリー、椅子、照明など、ここで作れるものはたくさんあります。イベントを定期的に開催する予定ですので、クリエイターの方々には、作品づくりや情報交換、刺激しあう場として気軽に立ち寄ってほしいですね。 FabCafeの空間デザインは、若手建築家として注目されている成瀬友梨氏と猪熊純氏。グラフィックデザイン/プロダクトデザインは、大場なな氏、大野友資氏などに参画いただきました。

クリエイターの本来の役割は、最終的には課題を解決につなげること。

【インタビュー対象者】 株式会社ロフトワーク 代表取締役 林千晶さん

【インタビュー対象者】
株式会社ロフトワーク
代表取締役
林千晶さん

クリエイターへのメッセージをお願いいたします。

日々の仕事の中では、なかなか実感しづらいですが、クリエイターの本来の役割は、最終的には課題を解決につなげることだと思います。集めた情報から自分の表現で新しい視点を創り出し、見る人に驚きをあたえたりわくわくさせたり、何かに気付いたり考えたりするきっかけとなるのは、クリエイターの醍醐味ですよね。そうした意味でインフォグラフィックスは、クリエイターがクリエイティブになれるものだと思います。クライアントがいないところで与えられたテーマをどう表現するのか、クリエイターとしての自分に向き合う機会のひとつとして、ぜひ『ツタグラ』プロジェクトに興味を持つ方が増えていってほしいと考えています。

取材日:2012年3月1日 取材・文/ぱうだー

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