新たに生まれる国際アニメ映画祭「ANIAFF」が目指す多様性とクリエイター・ファースト

Vol.246
あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会 アーティスティック・ディレクター
Tadashi Sudo
数土 直志

日本で海外のクリエイターやアニメファンと交流する”場”を作ろうと、新たな国際映画祭が始まります。「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF/アニャフ)」は、2025年12月12日から17日にかけて愛知県名古屋市内で開催され、国内外の多様な作品上映のほか、トークショーやワークショップなどのプログラムが行われます。同映画祭でアーティスティック・ディレクターを務める数土直志氏に、ANIAFFが目指す姿や企画に込めた思いについて伺いました。

名古屋から世界へ。クリエイターの挑戦を支える映画祭

はじめに、ANIAFFがどのような映画祭なのか教えてください。

よく「商業アニメのイベントですか」と聞かれることがありますが、この映画祭の位置付けはそうしたものとは異なります。例えば、特集上映部門では監督にスポットを当てた「ディレクター・フォーカス」として、細田守監督の『時をかける少女』や『竜とそばかすの姫』などの人気作品を、世界29カ国から45作品ものエントリーがあった国際コンペティション部門では40分以上の長編アニメーション11作品を上映します。エンターテインメント作品から日本ではあまり知られていないラテンアメリカのインディーズ作品まで、多彩な作品を並べることで、多様性のある映画祭を目指しています。

ANIAFFでは「クリエイター・ファースト」を掲げているそうですね。

はい。クリエイターや制作会社に寄り添うことに重きを置き、ビジネス開拓をサポートすることもこの映画祭の大きな役割です。日本のアニメーションは世界的にヒットする例が増え、マーケットが拡大している一方で、人気作品にファンや資金、メディアが集中しやすいという課題を抱えています。例えば、テレビシリーズに紐づかないオリジナル企画は、どんなに内容が素晴らしくても集客に苦労することがあります。そこで、もっと新しい試みに挑戦したり、若いクリエイターが育ちやすい環境を整えたりできないかという思いから、ANIAFFではピッチマーケット「ANIMART」を開催します。
これはクリエイターたちが配給会社や出資者に向けて企画をプレゼンテーションする取り組みです。これまで企画を売り込む仕組みがある映画祭は、日本にはあまりありませんでした。しかし、ANIAFFには国際映画祭としての何かしらの可能性があるのではないかと考えました。この取り組みが、まだ世に知られていない才能を発掘し、新たな作品が生まれるきっかけになればと思っています。

細田守監督作品の特集上映が実施される
(画像提供:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会)

名古屋市で開催することに対しては、どのような意義を感じていますか?

中部圏の中心都市である名古屋市は、東京、大阪に次ぐ大きなマーケットであり、人口や経済規模からも開催地としてポテンシャルがあります。また、県内には中部国際空港セントレアがあり、アジア地域からのアクセスも良好です。加えて、国際芸術祭「あいち」や「世界コスプレサミット」といった文化事業に積極的に取り組んでいる地域であり、近年ではジブリパークの開園によって国内外のアニメファンからも注目されています。今回、県や市からはさまざまな協力をいただいていて、地域全体でANIAFFを盛り上げようという機運を感じています。

映画祭を通じて地域にどのような動きが生まれることを期待されますか?

愛知県は美術系の大学や専門学校が比較的多い地域です。ANIAFFの開催が決まった際にも、「実は愛知県の出身なんです」と声をかけてくださるクリエイターが多く、あらためてこの地域にはアニメーションに対する文化的な土壌があるのだと感じました。一方で、アニメ制作会社はそれほど多くない印象があります。近年は地方都市にアニメスタジオを設立する動きが見られますが、今回の映画祭が愛知県におけるアニメーションやエンターテインメント文化の振興につながればうれしく思います。

国境を超えた交流の”場”を目指して

国際映画祭として、日本と海外のアニメーションシーンをつなぐ上で、どのような課題を感じていますか?

近年、日本のアニメーションは世界的に注目を集め、ファンの半数以上が海外にいるとも言われています。そのため、日本のアニメ業界でも海外の動きに目を向ける機会が増えました。一方で、海外のクリエイターやファンからは「自分たちも一緒に作品を作りたい」「日本ではなぜこうした作品が生まれるのか」といった強い関心が寄せられています。しかし、両者をつなぐ交流の場は現在あまり多くありません。
さらに、海外のアニメーション作品にとって、日本の市場は進出のハードルが高いといえます。というのも、テレビ放送のほとんどが日本の作品で占められ、劇場公開においても、その質の高さゆえに日本の作品に関心が集中しがちだからです。
これらの状況を踏まえ、ANIAFFでは単なる作品紹介にとどまらず、国境を超えた交流のハブとして、日本と世界、クリエイター、ファン、そしてビジネスをつなぐ役割を果たすことを目指しています。

海外との連携ではどのような企画があるのでしょうか?

アニメ界のアカデミー賞とも呼ばれる「アニー賞」を主催する国際アニメーション映画協会(ASIFA)の中で最大規模の支部であるASIFA-Hollywoodとタッグを組むことが決まりました。同団体のエグゼクティブ・ディレクターが国際コンペティション部門の審査員として参加するほか、アニー賞の特別プログラムも上映します。また、アニメ業界における多様性と公平性の向上を目指す国際的な組織Women in Animation(ウィメン・イン・アニメーション)を招いたシンポジウムも企画しています。そのほかにも国内外の優れたクリエイターやプロデューサーによる基調講演やワークショップを多数実施します。

グローバル化が進む時代、注目の国と地域

アニメ業界の将来を見据えたとき、ANIAFFはどんな役割を担っていきたいとお考えでしょうか?

これから5年、10年で、ますますグローバル化が進むことが予想されます。ここでいう「グローバル化」は3つあり、まずは”観る人”。日本のクリエイターは日本のファンに向けて作品を作っているつもりでも、実際に作品を受け取る多くの人は海外にいます。日本発のアニメーションは、世界中のファンに支えられていて、この状況は今後も進むものと思います。
次に”ファイナンス”。今でも多くの作品は海外の配信会社が買うことを前提に企画が動いています。制作資金は海外とのつながりなしには成り立ちにくくなっていて、この状況も加速するでしょう。
そして、”制作現場”。かつては、韓国や中国のスタジオに原画などを下請け的に発注することがありましたが、そうしたグローバル化とはまったく異なる局面に現在はあります。例えば、作画監督が韓国出身、監督がフランス出身といったように、メインのポジションに海外のクリエイターが入るケースが増えています。今後は作品を作るとき、隣に座っているスタッフ、あるいはオンラインでつながっているメンバーが海外出身であることが、ごく自然になっていくものと思います。
この3つのグローバル化を考えたときに重要になるのは、世界で今どんな価値観や表現が共有されているのかを知ることではないでしょうか。ANIAFFに足を運べば、世界のアニメーションの”今”が一望できる。世界の潮流を肌で感じられる。そんな機会を提供したいと考えています。

グローバル化を踏まえて、特に今注目している国や地域はありますか?

フランスは本当に良い作品を作るので、観るだけでも学ぶことが多いと思います。ただ、これから何が起きるのだろうかという視点で考えると、注目したいのは新興国です。例えば、ブラジル、ペルー、メキシコといったラテンアメリカでは、かつてでは考えられないほど、多くの作品が作られるようになりました。東南アジアでも最近では自分たちのオリジナル作品を企画・制作しようという動きが活発化しています。これらの地域から近い将来、優れた作品が登場するのではないでしょうか。
それから面白いのはインドですね。インドは昔から映画大国として知られていますが、アニメーションについてもオリジナル作品を数多く制作しています。けれども不思議なことに、独自の国内マーケットを形成しているためか、あまり世界には知られていません。中国も制作レベルが急速に向上していますが、インドと同様に国内市場中心の傾向があります。
国外へ向けて発信する意欲を感じるのは、東アジアでは韓国、台湾、タイです。こうした国々では他国との連携を望んでいるクリエイターが多いように思います。実写映画の世界でも日本と韓国の共同制作が増えていますが、アニメーションにおいても国境を超えた連携によってボリューム感のあるプロジェクトを進めようとする動きは増えていくことが考えられます。

ANIAFFが目指す未来と映画祭の楽しみ方

記者会見の様子。左から井上伸一郎フェスティバル・ディレクター、真木太郎ジェネラル・プロデューサー、数土直志アーティスティック・ディレクター
(画像提供:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会)

今後のANIAFFとしての目標や挑戦したいことを教えてください。

大きな目標としては、日本を代表するアニメーション映画祭にしたいという思いがあります。具体的には、プログラムの幅を広げたいですね。先ほど述べたような東南アジアをはじめ、まだ十分に紹介されていない地域の作品を発掘し、より多様な視点や表現に触れられる場にしたいと考えています。また、ピッチマーケットも拡大し、より多くの若い才能を支援できればと思っています。その結果、本当の意味で世界中の人々をつなぐハブとなり、文化面や経済面でも世界に大きな影響を与えられる存在になれたらうれしいです。

最後に、クリエイターやアニメファンにメッセージをお願いします。

プログラムは多様性を意識して、参加者がさまざまな作品に触れられるように構成しました。ジャンルも手法も多彩で、「こんなテーマでも成立するのか」「こんな表現方法もあるのか」と会場にお越しいただければ、驚きや発見があると思います。また、シンポジウムやトークショーといったプログラムも充実していて、質疑応答の時間を設けることで、参加者が直接プロデューサーや監督と話す機会もあります。ANIAFFならではの体験ができるのではないかと思います。
さらに、ワークインプログレスと言う、まだ完成していない作品の制作過程を紹介するプログラムも用意しています。制作手法や発想、企画の立て方、脚本から絵コンテへの起し方など、作品がどのように作られていくのかを知れるので、アニメファンはもちろん、学生さんやアニメーション制作に興味がある方にとっても貴重な機会になると思います。
ぜひ、1本でも2本でも、現地で作品を観たり、トークショーなどのセッションに参加したり、ANIAFFを楽しんでいただけたらと思います。

取材日:2024年5月15日 ライター・スチール:阿部 伸

©(画像提供:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会)

第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル

概要

会期:2025年12月12日(金)~17日(水)
主催:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会
ジェネラル・プロデューサー:真木太郎
フェスティバル・ディレクター:井上伸一郎
アーティスティック・ディレクター:数土直志
企画・制作:株式会社ジェンコ
共催:愛知県・名古屋市
協力:中日本興業株式会社、株式会社東急レクリエーション、
株式会社新東通信、学校法人 日本教育財団 
名古屋モード学園・HAL名古屋
会場:ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、
109シネマズ名古屋などの上映施設ほか5カ所を予定

プロフィール
あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会 アーティスティック・ディレクター
数土 直志
ジャーナリスト。あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル アーティスティックディレクター

国内外のアニメーションや映画・エンタメに関する取材・報道・執筆を行う。また国内のアニメーションビジネスの調査・研究をする。大手証券会社を経て、2002年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを株式会社イードに譲渡。「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」などを執筆。
主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」 (星海社新書)、「日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?」 (星海社新書)。

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