アートで味わいを可視化する。BAKE × ArtSticker が生んだ新しい価値体験
(写真左) 株式会社BAKE 「PRESS BUTTER SAND」ブランドマネージャー 後藤 理絵 さん
(写真右) 株式会社The Chain Museum Coordination事業 プロジェクトマネージャー 大山 修平 さん
スイーツの“味”をアートで可視化する――そんな発想から生まれたのが「SWEETS MEETS ART」です。人気バターサンドブランド「PRESS BUTTER SAND」が、表現の自由度を広げる実験的ライン「PRESS BUTTER SAND GALLERY」で始動したプロジェクトで、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」とともに、バターサンドの味を表現したアートをパッケージに取り入れる取り組みです。限定アート缶は発売直後からSNSなどで話題となり、新しいスイーツ体験として広がりを見せています。
ブランド側で企画の舵取りを担ったのは、株式会社BAKE(以下、「BAKE」) が運営する「PRESS BUTTER SAND」ブランドマネージャーの後藤理絵さん。アーティストとの協働プロセスを設計したのは、株式会社The Chain Museum(以下、「The Chain Museum」)プロジェクトマネージャーの大山修平さんです。異なる領域がどのように交わり、新しいものづくりの形が生まれたのか。お二人に、その舞台裏をうかがいました。
味をアートで描く挑戦。SWEETS MEETS ART が生まれた理由

まず、「PRESS BUTTER SAND GALLERY」とはどのようなシリーズなのでしょうか?
後藤さん:「PRESS BUTTER SAND GALLERY」は、味・香り・デザインをより自由に探求するための実験的ラインです。通常シリーズとは別軸で、新しい表現や挑戦を試す場として立ち上げました。
今回挑戦したArtStickerさんとのプロジェクト「SWEETS MEETS ART」は、“味覚 × アート”により、視覚と味覚のクロスモーダル体験を生み出す企画で、全4名のアーティストの方々とコラボレーションして制作を進めています。
アートとコラボする発想はどこから生まれたのですか?
後藤さん:私たちは創業当初から「美味しさの次にデザインを大切にする」という価値観を持ってきました。味だけでなく、視覚表現を通じてお菓子の魅力を広げていくことに強いこだわりがあります。
お菓子を食べる体験を「記憶に残るもの」にしたいと考えたときに、視覚に強く訴えるアートとの相性がとても良いのではないかと感じました。当社が大切にしてきた価値観を掛け合わせることで、新しい提案ができるのではないかと考えたんです。
さらに近年アートへの関心が高まっていることもあり、新しい提案として挑戦したいと思ったのがきっかけです。私自身、現代アートが好きということも後押しになりました。
「SWEETS MEETS ART」では、どんな点を狙われたのでしょうか?
後藤さん:最も重視したのは、「アートを缶に載せるだけ」にしないことです。私たちは美味しさを何より大切にしていますが、その味わいをアートで表現することで、新しい体験をつくれるのではないかと考えました。
背景には、当社のミッションである「しあわせに、BAKE(バケ)る。」があります。お菓子を通じて人を幸せにしたい。その実現手段として、“味を視覚化する”というアプローチに挑戦したかったんです。
また、当社のバリューの一つである「かっこよく遊びをしくむ」を体現できる企画でもありました。視覚を取り入れることで、味わう前から楽しめ、食べる瞬間の体験もより印象的になります。視覚と味覚が重なり合うことで、視覚と味覚のクロスモーダル体験が生まれます。それにより、『食べる』という行為を、忘れられない感動体験へと深化させることができます。そうした体験こそが、ミッションを新しい次元で実現する鍵になると考えました。
味わいをどう可視化する? アートとお菓子をつなぐ制作プロセス

味覚と視覚を結びつけるうえで、ブランドサイドとして特に意識されたことはありますか?
後藤さん:まず意識したのは、デザインとアートの違いです。これまではパッケージを含めたお菓子の表現は、社内のインハウスデザイナーが担ってきました。お菓子の魅力をどうデザインで伝えるかには強いこだわりがあり、その延長で商品づくりをしてきたわけです。
一方今回は、“デザイン”ではなく“アート”の領域でご一緒する企画でした。BAKEとしてのこだわりはきちんとお伝えしつつ、アーティストの方々の感性を最大限尊重し、その表現を活かすことを最優先にしたいと考えました。そのうえで工夫したのが、依頼の仕方です。パッケージデザインのように「正解」を求めるのではなく、どう依頼すればアートとしての自由度を保てるか。そこはThe Chain Museumの大山さんとも何度も相談しながら進めました。
具体的にはどう進めていったのでしょうか?
後藤さん:4名のアーティストそれぞれに、当社のデザイナーが一人ずつ担当としてつきました。各ペアで「この商品の世界観をアートにするならどんな方向性があり得るか」「味やストーリーをどう視覚化できるか」といったイメージを社内で整理し、そのうえでアーティストの方に共有していきました。
ただ、それを「この通りにしてください」という正解として渡すのではなく、「あくまで参考なので、自由に解釈して構いません」というスタンスでお渡ししました。基本的にはアーティストの方の感性を一番に尊重しながらも、こちらの想いも知っていただく。そのさじ加減を丁寧に扱うことが、今回もっとも重要だったと感じています。
実際の商品づくりのなかでは、どのような工夫があったのでしょう?
後藤さん:アーティストの作品を商品へ落とし込む段階では、担当デザイナーがその魅力をどう最大化するかに向き合いました。単に画像を載せるのではなく、アーティストの方の作品を最大限魅力的に見せて、かつお客様が手に取りたくなるような商品を目指す必要があります。
たとえば第1弾でビジュアルアーティストのnico itoさんとコラボした缶では、光の反射が印象を大きく左右します。一部の色をあえて薄く載せて缶素材の光沢を活かし、光の当たり方で見え方が変わるよう細かな調整を重ねました。「缶としてどう見えるか」を作品の一部として捉え、デザインしていったイメージです。

個包装も象徴的です。一つの商品につき個包装は6種類つくりました。作品の異なる部分をトリミングして6パターンにし、それぞれ違う表情が出るようにしています。しかも4個入の缶には「開けてみないとどの4つが入っているかわからない」というワクワク感を残す仕様にしました。
こうした工夫はすべて、「アーティストの作品の魅力をどう活かすか」という視点から生まれています。アートをプロダクトに落とし込むとき、どこまでデザインとして整理し、どこまでアートとしてそのまま活かすか。その境界を丁寧に見極めながら、社内デザイナーと一緒に仕上げていきました。

既成概念を超える表現を求めて。ArtSticker が紡いだ作家との出会い

今回、ArtStickerはどんな視点で参加されたのでしょうか?
大山さん:私たち The Chain Museumは、“芸術か 生活か”をミッションに、アートをより日常的で身近なものに広げていく活動をしています。中心事業である「ArtSticker」は、アーティストと鑑賞者をオンラインでつなぐプラットフォームで、多様な作家と継続的に関係を築ける点が強みです。
今回のプロジェクトでは、そのネットワークを生かし、BAKEさんのご要望に沿ったコンセプトの設計から、ご協力いただけるアーティストの紹介、自社ギャラリーやアプリ上でのPRなどの役割を担いました。ArtStickerには多様な作家が集うネットワークがあり、その広がりを今回の協働にもつなげています。
アーティストとのコミュニケーションにおいて、ArtStickerとして重視したことは?
大山さん:私はプロジェクトマネージャーとして全体を管理しつつ、社内のキュレーターとも連携してアーティストへの声がけや方向性の調整を行いました。シリーズ全体のテーマや、味をどう表現に落とし込むかといった部分は、後藤さんと細かくやり取りしながら進めています。 印象的だったのは、BAKEさんがアーティストへのリスペクトを本当に大切にされていた点です。その姿勢が作家の方々にも伝わり、それぞれが自分の表現をしっかり出すことにつながっていました。一方で BAKEさんのデザイナーの方はお客様視点を持ちながら調整されていて、両者の意見がうまく相乗効果になっていくプロセスがとても良かったと感じています。
アーティストはどのように探していったのでしょうか?
後藤さん:まず私たちから、「挑戦的であること」「革新的であること」「化学反応が期待できること」「自由さや遊び心があること」といったPRESS BUTTER SAND GALLERYのコンセプトに合った姿勢を持つ方にお願いしたいとお伝えしました。
また、今回はお菓子をテーマに制作いただくので、弊社の商品のインスピレーションをもとに前向きに取り組み、アートとして昇華してくださる方であることも大切なポイントとしてお伝えしました。細かい条件は他にもありますが、特に重視したのはこの点です。
大山さん:そのコンセプトを踏まえ、ArtSticker 側でも広く検討しました。「いままでにない取り組みに挑戦しようとしているか」「味やシリーズの世界観と合うか」といった点を後藤さんとすり合わせました。結果として、デジタル、油絵、イラスト、日本画の文脈の方など、多彩な表現となりました。プラットフォームであるArtStickerの広いコネクションを生かした提案ができたと感じています。
協働で立ち上がった新しい体験価値

今回の協働を通して、どんな気づきがありましたか?
後藤さん:あらためて感じたのは、アーティストが“味”をどう表現するかという視点の豊かさです。味覚という抽象的な要素を視覚化すると、こちらの想像を超える世界が立ち上がる。「この味をこう表現するんだ」という驚きの連続で、とても刺激的なプロジェクトでした。
また、社内デザイナーがアーティストの感性を尊重しながら、「作品」を「商品」として成立させていく姿勢にも大きな発見がありました。このバランス感覚は、今回の協働を通じてさらに実感した部分です。
大山さん:本プロジェクトは、お菓子とアートを組み合わせるという、今までにない新しい挑戦でした。ブランド側と作家側では価値観や言葉の粒度が異なるため、その間をどのように翻訳するかが重要でした。正解のない中で、お互いの意図をすり合わせながら、良い落としどころを探していく。そのプロセス自体が、今回の化学反応だったと思います。
発売後、お客様からはどんな反応がありましたか?
後藤さん:店頭では「パッケージがかわいい」と足を止めてくださる方が多く、オンラインでも「缶を見るだけで気分が上がる」「食べる前からワクワクした」といった声をいただきました。こちらが意図していた体験が、お客様の言葉として自然に立ち上がってきたことがとても嬉しかったですね。
また、新規の方だけでなく、普段からご利用いただいているお客様の中にも「いつもと違うものを試してみたい」という気持ちで選んでくださる方が多かったように感じています。これまでとは異なるアプローチだからこそ、より幅広い方々に受け入れていただけたのだと思います。
アーティスト側の反応はいかがでしたか?
大山さん:店頭に商品が並んだ際、アーティストの方々がとても喜んでくださったのが印象的でした。SNSでも積極的に発信してくださり、作家自身のファンにも広がっていきました。「見るだけでなく、食べて味わえるアート」がしっかり届いている感覚がありました。
また、商品のパッケージを長期的に保管できる「缶仕様」に工夫いただいたり、オリジナルショッパーも制作いただいたりと、形や記憶に残る配慮が、とても嬉しいとの声もありました。
私自身、知人への手土産に渡すと、まず「かわいい」、次に「おいしい」という声が返ってきました。視覚から味覚へ、体験が段階的に広がっていく感覚を、多くの方に楽しんでいただけていると感じています。
スイーツとアートの未来へ。SWEETS MEETS ARTが示した可能性

今回の取り組みを踏まえて、今後どのような展望を描いていますか?
大山さん:今回のプロジェクトを通して、アートを日常の体験に結びつける取り組みには、まだ多くの可能性があると感じました。スイーツのような身近な存在と組み合わせることで、アートをより多くの人に届けることができますし、作家にとっても作品が新しい文脈で受け取られる機会になります。領域を越えた協働は、今後もさまざまな形で続けていきたいと思っています。
後藤さん:味の表現も、パッケージのあり方も、まだまだ変えられる。お菓子が持つ「幸せにつながる力」をどう広げていくか、その答えを探し続ける場所として、今後も新しい表現やコラボレーションを模索しながらSWEETS MEETS ARTを育てていきたいです。

最後に、このプロジェクトを通じて、クリエイターやブランド担当者の読者へ伝えたいことがあれば教えてください。
大山さん:今回、コラボレーションという形で、新しい挑戦の機会をいただきました。ここまで形にできたのは、プロジェクトに関わっていただいた方々全員がワクワクするような企画で、お互いを尊重し合いながら一緒に形にしていくプロセスがあったからこそだと改めて実感しました。そんな思いが詰まった商品ですので、店頭で見かけた際は、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
後藤さん:私は、この商品を純粋に楽しんでいただけたら嬉しいです。アートとお菓子を掛け合わせる中で、お客様が何を感じてくださるのかは、私たちにとっても大きな楽しみでした。味わう過程だけでなく、缶そのものをアートとして長く楽しんでいただけたらと思いますし、今回の企画を通じて、そうした体験を届けられていたら嬉しいですね。
取材日:2025年11月11日 ライター・スチール:小泉 真治
株式会社BAKE
- 代表者名:代表取締役会長 兼 代表取締役社長CEO 山田 純平
- 設立年月:2013年4月
- 事業内容:菓子の製造・販売、ECサイト運営、WEBメディア運営
- 所在地:本社(サポートセンター)
〒108-0071 東京都港区白金台3-19-1 興和白金台ビル - URL:https://bake-jp.com
株式会社The Chain Museum
- 代表者名:遠山 正道
- 設立年月:2018年7月
- 事業内容:アート関連のプラットフォーム事業、ギャラリー運営、空間プロデュース事業等
- 所在地:〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-10 代官山アートビレッジ3階 代官山TOKO
- URL:https://www.t-c-m.art







