劇場アニメ『KILLTUBE』と「108の実験」――100年後も愛される作品をどう生み出すか

Vol.248
アニメ映画『KILLTUBE』企画・監督/CHOCOLATE Inc. CCO/プランナー
Kazuaki Kuribayashi
栗林 和明

実写映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』をはじめ、空間演出や商品開発、広告など多様なプロジェクトを手がけてきたCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)が、初めて長編アニメーション作品の企画・製作を行います。2026年中の完成を目指すオリジナル劇場アニメ『KILLTUBE』は、原作を育てるために「108の実験」と呼ばれるさまざまな試みを実施。その狙いや成果について、チョコレイトのCCOであり、本作品の企画・監督を務める栗林和明氏に伺いました。

命をかけてつくるからこそ、100年後にも残る作品を

栗林さんはこれまでさまざまなコンテンツを世に送り出してきました。そうした中、長編アニメーション映画を制作することになったきっかけを教えてください。

普段から考えていることでもあるのですが、「世界中で長く愛され続ける作品を作りたい」という想いから今回の企画は生まれました。チョコレイトではSNSコンテンツを数多く手がけてきました。それゆえに、何十万もの「いいね」がついたり、1億回再生されたりすることには、それぞれの価値がある一方で、瞬間瞬間で消費されていく刹那的な感覚も痛烈に感じてきました。どんなコンテンツであっても命をかけて作っているからこそ、少しでも長く人々の記憶に残る作品を作りたいと考えるのは、クリエイターとして自然な欲求だと思います。あらゆるものが急速に消費されていく現代において、100年後も世界中から愛される作品を生み出すにはどうすればいいのか。それを突き詰めた結果、完全オリジナルのアニメーション映画に可能性を見出しました。

SNSコンテンツと映画にはどんな違いがあるのでしょうか?

一番は、視聴する際の作品との向き合い方ではないでしょうか。どちらにもそれぞれの役割と価値があり、SNSは広がりやすく、きっかけ作りに強い一方で、情報が次々と流れてしまう側面があります。映画の場合は、没入して見る体験をする分、より深く心に刻まれる力があります。
実は、今回のプロジェクトを立ち上げる際に、当初考えていたのは漫画の企画でした。漫画は小規模なチーム編成で取り組めるので、とっつきやすいと思ったためです。100案ほどアイデアを出す中で、世界により届けやすく、かつ長く愛されること。そしてグッズやゲームなど多種多様に形を変え、プロジェクトとしてスピード感を持って成長できること。それらの条件を満たすコンテンツは何かと考えた時、アニメーション映画にたどり着きました。

©CHOCOLATE/KILLTUBE

『KILLTUBE』は、2026年まで江戸幕府による鎖国が続く日本を舞台に、社会の最下層に置かれた主人公たちが決闘動画プラットフォーム「KILLTUBE」に参加し、頂点に挑むといったあらすじです。こうした世界観や設定は、どのようにして生まれたのでしょうか?

ストリートファッションを身にまとった侍の絵を、たまたま目にしたことがきっかけでした。僕は昔から侍が好きで、中学時代には「侍」と書かれたTシャツを着ていたくらいです(笑)。「こんな侍が実在する世界は、どんなだろうか」と想像してみた時に、たぶん江戸時代が現代まで続いていて、もし何かしらの理由でYouTubeのような動画プラットフォームで決闘を配信していたら、この侍は実在しそうだなと。そんな妄想が起点となりました。
その後、3人の脚本家と骨子を作り、大喜利のお題のように、「どう展開したら面白くなるでしょうか」という問いを20人のメンバーに投げかけました。僕は、自分が描いた理想よりも、必ずそれを超える面白いアイデアがあると考えています。実際に、メンバーからは復讐劇、成長劇、友情劇など、いろいろな方向性の案が出てきました。そこからそれぞれの良い部分を組み合わせては広げ、また意見を募り、組み合わせては広げる。自分の理想を壊すような感覚で、そんなプロセスを何度も繰り返しながら、ストーリーを組み立てていきました。

たくさんのアイデアを一つに集約、統合させる作業は難しさもあるのではないでしょうか?

めちゃくちゃ難しいですね。でも、最終的にはシンプルに「自分の心がわくわくするかどうか」で判断しています。「想像着火性」と僕が独自に呼んでいる評価軸があるのですが、何かを見た時にパッと想像が膨らむかどうか。例えば、漫画の「ONE PIECE」は想像着火性の塊だと思っています。ゴムゴムの実が出てきたら、「次はどんな悪魔の実が出てくるのだろう」と想像します。砂漠の島や冬の島が出てきたら、「次はどんな島だろうか」と考えたくなります。今提示されている材料から、次に何が起こるのかという想像が自然と膨らんでいく。その結晶体がわくわく感を生むのだと思っています。

作品そのものを‟実験”として捉えるプローチ

今回の作品はオリジナル劇場アニメです。原作を育てていくために「108の実験」を行なっていると伺いました。これはどんな取り組みなのでしょうか?

これだけ価値観や人々が求めるもの、技術などが大きく変化している時代に、本当に新しいものや100年以上残り続けるものを生み出すには、従来の慣習に則ったやり方だけでは限界があると感じています。そこで作品自体を実験として捉え、さまざまな方法を試すことができれば、プロジェクトそのものの価値も高まるのではないかと考えました。試行錯誤を重ねる中で失敗もあるかもしれませんが、実験だからこそ、その失敗さえ僕らの血肉となり、世の中の知恵として還元できるのではないかと思っています。

具体的にどんな実験があるのでしょうか?

「つくり方」「届け方」「稼ぎ方」の3つのカテゴリーに分け、「つくり方」で言えば、先ほどお話しした脚本づくりも「108の実験」の一つです。他にも、大正から昭和初期にかけて制作された、浮世絵の技法を継承しながら西洋的な表現を取り入れた「新版画」の手法を、CGアニメーションとかけ合わせる実験。ライターさんが登場人物になりきり、インタビュー形式のやりとりを通じてキャラクター設定の細部を詰めていく実験など、各制作チームが日々、あらゆる試みにチャレンジしています。毎日、いろいろな実験が同時に行われているので、制作現場はカオスです(笑)。

108という数字は煩悩と関係があるのでしょうか?

はい、その通りです。最初は100だったのですが、他人にとっては取るに足らないことでも、その人にとっては気になることや自分だけが感じていることなど、個人的な仮説や欲望も含めて、何でも実験できる状況にしたいと思い、煩悩の数である108を象徴的な数字として設定しました。
また、これは強制発想法でもあって、最初に大きな数を掲げることで、無理にでも実験をせざるを得なくなります。「こんな実験をしてみようかな」と絶えず思考する状況を作ることで、「つくり方」「届け方」「稼ぎ方」における新しいアイデアを引き出す狙いがあります。

公式サイトなどで公表されている「108の実験」の48番目には、「あと残り60個分の実験を一緒にやってくれる人を探し続ける」とあります。これにはどんな意図があるのでしょうか?

あえて余白を残すことで、思ってもみなかったものが生まれることを期待しています。チョコレイトは、分野の異なる人たちの知恵を融合して、今までにないアイデアを生み出すことを大切にしている会社です。僕らはそれを「越境」と呼んでいて、今回のプロジェクトでも越境を創出し、さまざまな立場の人たちが新しい実験を考え、実行する、そんな広がりが生まれたらいいなと思っています。
現在、実験は「つくり方」を中心に進めていますが、宣伝活動である「届け方」についても、何を試すのか一つずつ決めているところです。

スタッフとミーティングをする栗林氏(画像提供:CHOCOLATE Inc.)

「たのしい」ではなく、「たのしみ」であること

初めて長編アニメーション映画の監督を務める中で、これまでの作品づくりとは異なる難しさを感じることはありますか?

仕上がってきた途中段階の素材を見ても、それが最終的にどんな完成形になるのかを想像しきれないところに苦労しています。必死に頭の中でイメージを膨らませ、考えを巡らせているので、ものすごく脳のカロリーを消費しているというか。だから、帰宅すると毎日、倒れます(笑)。

それをどうやって乗り越えているのでしょうか?

寝る(笑)。でも、本当に20時以降は仕事をしないと決めています。そこでちゃんとリフレッシュするという当たり前のことを大事にしています。あとは、メンタルを崩さないように気をつけること。今回、総製作費10億円という、けっして安くはない費用がかかっているので、失敗したらどうしようと不安になることもあります。ただ、そこに対してプレッシャーを感じすぎないようにコントロールしています。会う人会う人に「歴史に残る傑作を絶対に作ります」と宣言しているので、むしろ自分でプレッシャーをかけてもいるのですが(笑)。毎日、大変ではありますが、僕自身が一番観たい作品を作っているので、僕が誰よりもわくわくしています。むしろ、そのわくわく感こそがプレッシャーを押しのけるうえでも大事だと思っています。
実は、チョコレイトは「たのしみなものを生み出したい」という想いだけで前に進んでいる会社です。ポイントは「たのしい」ではなく、「たのしみ」であること。未来に何か楽しみがあると、そこにたどり着く過程そのものがポジティブに変わります。『KILLTUBE』は僕が人生をかけた、おそらく一番心から楽しみにしている作品です。それは内容はもちろんのこと、映画が完成したその先、続編だったり、ゲーム化だったり、舞台化だったり、いろいろな楽しみな妄想を膨らませながら、鋭意、制作に取り組んでいます。

アメリカでの手応えと、世界への波及を目指して

2025年7月にはロサンゼルスで開催された、北米最大級の日本アニメ・ポップカルチャーのイベント「Anime Expo 2025」に出展され、栗林さんもパネルイベントに登壇されました。現地の反応はいかがでしたか?

まだパイロットフィルムなど一部のビジュアルしか公開していませんが、反応はとても良く、日本のアニメらしさはありつつ、新しい軸を切り拓いているという趣旨の感想をたくさんいただきました。また、音楽に対しても反響が大きかったですね。体感としては想像していた10倍20倍の熱量を感じ、取材依頼も殺到しました。世界に広がる手応えを感じています。

「Anime Expo 2025」のパネルイベントのようす。
会場には多くのアニメファンやメディアが集まった
(画像提供:CHOCOLATE Inc.)

「108の実験」の中に「作りながら学んだことをひたすら公開し続ける」というものがあります。公開までにどんな発信を予定していますか?

本当は制作過程で得た知見を公開前からどんどん発信するつもりでいたのですが、正直なところ、頭も手もまわらないというのが現状です。今は方針を切り替え、完成するまで制作に集中したいと思っています。制作過程については公開後に本格的に発信する予定です。その意味でも、僕らにとって公開はゴールではなくスタートだと考えています。そこからいかにして始まるのか、広がるのかというのが本当の勝負であり、僕の想像を壊すくらい、『KILLTUBE』が世界に波及して欲しいと願っています。

最後に、クリエイターに向けてメッセージをお願いします。

この作品が完成したら、一緒に‟共犯者”になってもらいたいとめちゃくちゃ思っています。僕らはさまざまな情報を可能な限りオープンにしていく予定です。二次創作的にゲームを作ったり、スピンオフ小説を書いたり、新しい遊び道具を手に入れる感覚で作品に触れてもらえたらうれしいです。僕らが一方的に提供する側で、視聴者が受け取る側という関係性ではなく、ともに企んで何かを発信し、新しいものを生み出していく。そんなふうにして、僕の理想を壊してくれる仲間が増えていくことを期待しています。

取材日:2025年12月4日 ライター・スチール:阿部 伸

©CHOCOLATE/KILLTUBE

『KILLTUBE』

制作:STUDIO DOTOU
タイトル:KILLTUBE(キルチューブ)
企画・監督:栗林和明
企画製作:CHOCOLATE Inc.
上映時間:90分(予定)
劇場アニメ『KILLTUBE』公式サイト:https://killtu.be/
公式YouTube:https://www.youtube.com/@KILLTUBEJP
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/KILLTUBEJP
公式Instagram: https://www.instagram.com/killtubejp/

プロフィール
アニメ映画『KILLTUBE』企画・監督/CHOCOLATE Inc. CCO/プランナー
栗林 和明
劇場アニメ『KILLTUBE』企画・監督。CHOCOLATE Inc. CCO / プランナー。
映像企画を中心として、空間演出、商品開発、統合コミュニケーション設計を担う。JAAAクリエイターオブザイヤー最年少メダリスト。カンヌライオンズ、スパイクスアジア、メディア芸術祭、ACCなど、国内外のアワードで、60以上の受賞。米誌Ad Age「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」選出。
さまざまなエンターテイメントに関わるさまざまな領域の知恵を越境して、融合させることに可能性を感じ、その新しいつくり方を実践している。

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