WEB・モバイル2015.08.12

老舗メーカーサカワと今を時めくIT企業カヤックが作る黒板アプリ『kocri』

Vol.120
株式会社サカワ常務取締役 面白法人カヤック開発担当 坂和寿忠さん、深津康幸さん
教育現場に黒板からイノベーションを起こそうと、老舗黒板メーカーのサカワとデジタルコンテンツ事業を展開するカヤックが提携したハイブリッド黒板アプリ『Kocri(コクリ)』の販売がスタートしました。教育現場でITを活用した取り組みが次々と行われていますが、中でも注目を集めているのが「電子黒板」。老舗メーカーとIT技術を駆使したアイデアで世間アッと言わせてきたカヤックのコラボレーションは、どのような黒板を生み出したのでしょうか?気になる『Kocri』について、株式会社サカワの常務取締役 坂和寿忠さん、面白法人カヤックで『Kocri』開発を担当するディレクターの深津康幸さんにお話を伺いました!

電子黒板の課題は山積み。6〜7割が使われていない!?

『Kocri』開発のキッカケは?

坂和さん:サカワは1919年に愛媛県で創業し、今でも本社は愛媛県にある黒板メーカーです。いわゆる緑の黒板の製造がメインで、学校や自治体に向けて販売してきました。電子黒板は政府が導入を後押ししていることもあり、6年前から手がけてきましたが、電子黒板の課題は山積みだと感じていました。電子黒板は以前から騒がれていますが、今の学校で活用されているとは言えないですね。

公立の小中学校の授業公開には何度も行っていますが、確かに、電子黒板を使っているところは見たことはありませんね。

坂和さん:電子黒板の課題は、まず値段が高いこと。いきなりすべての教室に導入することはできないので、ほとんどの学校では数少ない電子黒板を持ち回りで使っています。電子黒板を教室に持ってきてつないで、という準備に時間がかかり、なかなか活用されていないのが現状です。また、パソコンに接続して使うものなので、パソコンスキルが必要となり、ハードルが高くなってしまいます。現在、何万台も導入されていますが、6〜7割が使われていないと言われています。

そんなに使われていないんですか!

坂和さん:はい。コスト的にも、スキル的にも、もっとハードルの低いものが必要だと、常々感じていました。既存の黒板にとらわれていてはダメだ、全く新しく作るべきだと直感的にわかっていたのですが、教育業界は、まじめで堅苦しい業界で、自分たちもどうしても堅苦しく考えてしまう。もっと教育を面白く、ワクワクさせてくれる人たちと組みたいと考えて、2014年初めにカヤックさんに問い合わせをしました。

Webサイトのお問い合わせフォームから“飛び込み"でアプローチ!

なぜカヤックさんに?

坂和さん:カヤックさんの名前はよくネットで見かけていて、個人的にカヤックさんが手がけるプロジェクトが好きだったんです。一緒にできればいいなと思い、Webサイトのお問い合わせフォームからの“飛び込み(アポなし営業)"でアプローチしました(笑)。 アナログな会社なので、デジタルのことは右も左も分からないのですが、とにかく熱意でアピールするしかないと思い、熱量がたっぷり入った内容のメールだったことを覚えています。

カヤックさんは、どこに興味を持たれたんですか?

深津さん:カヤックでは、お問い合わせはすべて代表の柳澤が目を通します。面白そうだと柳澤が判断し、私のところに。

なぜ深津さんのところへ?

深津さん:当時、私は、Webでもゲームでもない、カヤックの中ではちょっと変わったのプロジェクトに多く関わっていました。 例えば、三井不動産レジデンシャルが開催した『2020ふつうの家』展では、建築ユニット「トラフ建築設計事務所」とともに、すでに今ある技術で、ちょっとだけ未来のくらしを提案する展示を手がけました。2020年ですから、SFではなく、リアルな近未来の空間を開発しました。 こうした経験から、私のところにお話が来たのだと思います。

デジタル技術を使った空間づくりを手がけてきた深津さんにとって、新しい黒板を作るプロジェクトはどのように感じましたか?

深津さん:黒板は100年変わってないと知り、それを変えられるということにワクワクして、面白そうだと思いましたね。代表の柳澤も積極的で、2014年の春にはサカワさんと共同プロジェクト「みらいのこくばんプロジェクト」をスタートしました。

iPhoneを採用し、ミニマムで相性のいい組み合わせに。

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『Kocri』はiPhoneからデータを投影する仕組みですが、最初からこの仕組みだったのですか?

深津さん:最初はサカワさんの既存製品と組み合わせて、“板書を拡張する"コンセプトで既存の黒板にプロジェクターで投影する仕組みを作りました。モックアップを作ったら大好評だったんですが、値段は高くなるし、専用のデバイスが必要でハードルの高さは変わっていないのかな、と。スマートフォンを利用する案を提案しました。

坂和さん:コストやスキルのハードルを下げるには、すでに普及しているデバイスやハードを活用するのがベストです。スマートフォンはその候補として早い段階から挙がっていましたが、決断するには時間がかかりました。やはり学校に長く黒板を納品してきた立場として、スマートフォンの扱いは教育現場では大きな課題であり、公立校では基本的に持ち込み禁止ですから。 ですが、やはりスマートフォンに勝るハードはなく、決まってからは一気に前進しました。

『Kocri』はiPhone、AppleTV、既存プロジェクターの組み合わせですね。

深津さん:この組み合わせが、ミニマムで相性のいい構成でした。相性の良さは重要で、いざ授業を始めようと思ったらつながらない、という状況はできる限り避けなければなりませんから。

“先生が使う"リアリティが反響を呼ぶ

『Kocri』なら、スマートフォンのカメラで撮ったものを、すぐに黒板に映して説明できます。

『Kocri』なら、スマートフォンのカメラで撮ったものを、すぐに黒板に映して説明できます。

『Kocri』は今年(2015年)の5月に開催された「教育ITソリューションEXPO」で発表されたそうですが、反響はいかがでしたか?

坂和さん:他にも電子黒板の展示はたくさんあったのですが。驚くほどの大反響で、「何が起こった?」というくらいの盛況でした。お問い合わせも多かったですし、取材のお申し込みも次々といただきました。

他にも電子黒板の展示が多くある中、なぜ注目を集めることができたのでしょう?

深津さん:他社の製品ほうが、技術的には進んでいるんです。プロジェクター一体型があったり、タッチセンサーが付いていたり。そんな中で、『Kocri』は“先生が教室で使って授業をする"というリアリティが、最もあったのだと思います。

坂和さん:実は、開発に取り組んだ当初、展示会では派手な方が反響が良かったので、もっと派手な演出などを考えていました。ですが、開発チームが学校に授業を見学にいった後、“先生が困っていることを解決する電子黒板"“今の教室ではできないことができる電子黒板"を目指すようになりました。 演出が必要な授業は限られているんですよね。先生は工夫をして授業をしていますから、電子黒板がなくても工夫している先生の授業は面白いんです。 『Kocri』を発表すると、多くの先生から「よくぞ開発してくれた」「こんな電子黒板を待っていた」と褒めていただいて、方向は間違っていなかったと思いましたね。

例えば、どんなところが解決されているんでしょうか?

坂和さん:点と点があり、線をつなぐとき、フリーハンドでは曲がってしまうし、大きな定規を使うのも大変です。『Kocri』を使えば、すぐに線を描くことができます。補助線を引いたり、面積を求める図形を色付けしてわかりやすくすることもあっという間です。 また、教室ではおなじみのOHP機能もあります。例えば、わかりにくい花の内部の絵をレンズの上において光をあて、スクリーンや黒板に拡大表示して雄しべや雌しべの解説をするような授業を受けた記憶はありませんか?『Kocri』を使えば、スマートフォンで植物の写真を撮れば、拡大して、黒板に表示させることができます。従来のOHPでは、操作するのに機械の前から動くことができませんでしたが、『Kocri』ならスマートフォンだけ持てば、教室中を動きながら解説することができます。

サービスとして今後も継続的にアップデートすることを目的に カヤックは『Kocri』専業チームを発足!

インタビューにお答えいただいた株式会社サカワの常務取締役 坂和寿忠さん(右)と面白法人カヤックでディレクターの深津康幸さん(左)。

インタビューにお答えいただいた株式会社サカワの常務取締役 坂和寿忠さん(右)と面白法人カヤックでディレクターの深津康幸さん(左)。

いよいよ販売がスタートしますね。(2015年7月29日販売開始)

坂和さん: 黒板アプリ『Kocri』は、7月29日よりAppStoreにて販売を開始します。売り切りではなく、月600円、年6,000円の継続課金としています。これは、長く使ってもらうことを前提に、今後も、サービスとして継続的にアップデートしていくことを意図しています。

当初は、先生が個人として使うことが多いと思いますが、今後は、学校や市町村単位の料金体系もご用意していきたいと思います。 小中学校をメインに考えていたのですが、高校、大学、塾などからも問い合わせが多く、今後は、学校に限らず、プレゼンなど、さまざまな場面での利用を提案していきたいと考えています。

まずは使ってもらうことが大切ですね。

坂和さん: はい。8月18日(火)に、『Kocri』体験イベント「ハイブリッド黒板アプリKocriの体験会」を3331 Arts Chiyoda(東京・千代田区)にて開催しますので、興味のある方はぜひいらしてください。

深津さん: この体験会は、採用イベントも兼ねているんです。カヤックにとっても、従来の受託型業務とは違う新たなチャレンジとして、この事業に専業で取り組む『Kocri』チームを新たに社内に作り、エンジニア、デザイナーを募集します。『Kocri』チームの採用説明会も同時開催しますので、この事業に可能性を感じた人は、ぜひ体験会にお越しください!

取材日:2015年7月24日 ライター:植松

ハイブリット黒板アプリ『kocri』

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公式サイト http://kocri.com/

株式会社サカワ

面白法人カヤック

  • 代表取締役CEO: 柳澤大輔
  • 所在地: 神奈川県鎌倉市小町2-14-7 かまくら春秋スクエア2階
  • URL: http://www.kayac.com/

「ハイブリッド黒板アプリKocriの体験会」&「Kocriチームの採用説明会」

・kocri体験会 16:00~19:00 ・kocriチーム採用説明会 19:00~21:00 株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠氏 × 面白法人カヤック代表 柳澤大輔氏 (kocriチームの説明/質疑応答/・面接※希望者のみ) <募集対象>iOSエンジニア、サーバサイドエンジニア、Androidエンジニア、UIデザイナー

詳細は、こちらのページをご覧ください。 http://peatix.com/event/106297/

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