人の流れを「高さ」で捉える。三次元人流データが加速させる、都市型デジタルツインの可能性

Vol.249
株式会社ホロラボ
取締役COO/ディレクター、プロジェクトマネージャー
伊藤 武仙 /丸居 久仁男
写真左 株式会社ホロラボ 取締役COO 伊藤 武仙 氏
写真右 株式会社ホロラボ ディレクター、プロジェクトマネージャー 丸居 久仁男 氏

都市の人の流れを把握する手段として、人流データはすでに広く使われています。しかし、その多くは地図上の平面情報として扱われてきました。一方で、実際の都市空間は地下や高架、歩行者デッキ、高層ビルなど、立体的に広がっています。人の動きもまた、平面ではなく、高さを含んだ三次元の空間の中で起きています。
こうした都市の実態と、これまでの人流データ表現とのギャップを埋めようとする取り組みが、国土交通省の実証事業として行われた「令和7年度三次元人流データを活用した課題解決等実証業務」です。街の三次元データに、人の動きという“動的な情報”を重ね合わせることで、都市の見え方はどのように変わるのか。この実証業務において、三次元人流データの実装と可視化を担ったのが、XRや三次元空間の設計を手がける株式会社ホロラボです。
本記事では、同社でプロジェクト全体を統括した伊藤氏(COO)と、実装・開発の現場を担った丸居氏(プロジェクトマネージャー)に、構想段階から実装、そして社会実装へと広がっていく過程で得られた手応えと、その先に見えてきた可能性について話を聞きました。

人流を「高さ」で捉えるという発想

まず前提として伺いたいのですが、なぜ今、人の流れを「平面」ではなく「三次元」で捉える必要があったのでしょうか。

伊藤氏:今回の取り組みは、最初から明確なニーズがあって始まったというより、「三次元の人流データを作れる環境が整ってきたので、それがどれくらい使えるのかを検証してみよう」という、いわばシーズ先行のスタートでした。
背景として大きかったのは、空間利用をこれまでよりも具体的に捉えられる技術が出てきたことです。その具体化された技術を前提にすることで、人流データの活用自体を一気に加速できるのではないかと考えました。より確かな計測結果を基に、施策や都市開発、防災対策など、さまざまなことに使える可能性が見えてきた、という感覚があります。

従来の人流データでは見えにくかったものも多かったのでしょうか。

伊藤氏:そうですね。都市部では特に顕著です。地下街や高層階、歩行者デッキなど、人の動きは高さ方向にも広がっています。それにもかかわらず、平面の人流データでは、本来は高さの違う場所にいる人の動きが、一枚の平面図の上にまとめて描かれてしまう。そこに、以前から課題意識を持っていました。

静的な都市に、動的な人の流れを重ねる

これまでの人流データと比べて、三次元で表現すると、何が見えるようになるのでしょうか。

伊藤氏:理解の前提として重要なのが、国土交通省が別枠で進めている「PLATEAU(プラトー)」の存在です。「PLATEAU」では、街の三次元データが整備されていて、建物一軒一軒に、建築年や用途、立地条件といったさまざまなメタデータがひもづいています。都市空間の静的な骨格が、高い解像度で整っている状態です。

「PLATEAU」の三次元都市モデル。建物形状のみ(左)とテクスチャ付き(右)で、都市の骨格を再現

今回の実証では、その静的な都市空間に、人の動きという動的な情報を重ね合わせました。そうすることで、その時間、その瞬間の都市の様子が、かなり生き生きと見えるようになった感覚があります。

三次元都市モデル上に人流を重ねた俯瞰図。高さ方向まで含めて人の動きを把握できる

丸居氏:私たちのツールでは、地図アプリのような画面上で都市の三次元データを表示し、視点を動かしたり角度を変えたりしながら街を見ることができます。その基盤となっているのが、ホロラボが開発するデジタルツイン基盤「torinome(トライノーム)」です。「torinome」は、三次元都市モデルやGISデータなど多様な情報を扱えるWebベースのプラットフォームで、国土交通省が推進するプロジェクト「PLATEAU」で整備された三次元都市モデルも、その一つとして表示することができます。まずは都市そのものを三次元で再現し、その上でさまざまな情報を扱えるようになっています。

デジタルツイン基盤「torinome」の操作画面。視点を切り替えながら立体的に確認することが可能

「PLATEAU」の三次元都市モデルの上には、人流データだけでなく、さまざまな位置情報を持つデータを重ねることができます。その代表例がGISデータです。GISデータは、街の中にある建物や道路、施設などの情報を「どこにあるか」という位置情報とセットで扱うためのデータです。それを三次元の都市モデル上に重ねることで、人の動きがどんな場所や空間と関係しているのかが、より立体的に見えてきます。
さらに、そこに三次元人流データを重ねることで、時間帯や曜日、年代や性別といった条件ごとに、人がどこに、どの高さで滞在しているのか、どう移動しているのかを追えるようになります。

平日(左)と土日祝(右)の比較。曜日によって滞在分布が大きく変わる

伊藤氏:従来の人流データは、二次元の地図を上から俯瞰する視点で分析するものが主流でした。平面上にヒートマップなどで表示し、人の分布や滞在傾向を見る手法です。それに対して三次元人流では、地下空間を描画したり、街並みや建物をさまざまな角度から立体的に確認したりと、見たい視点に移動しながら人の動きを把握することができます。インタラクティブに操作できる点が大きく違います。人流を「眺める」のではなく、「触りながら理解する」感覚に近づいたと思います。

地上(左)と地下(右)の視点比較。人の流れを立体的に分離して確認できる

人流データは、どのように取得しているのですか?

伊藤氏:仕組みとしては、ユーザの同意を得たうえでスマートフォンのアプリケーション経由で取得しているデータがベースになっています。GPSから緯度・経度が取得できるのはもちろん、スマートフォンに内蔵されている気圧計を使うことで、高さ方向の情報を推定することもできます。
そこに、精密気圧計インフラのデータを掛け合わせることで、高さ方向についても建物内のどの階層にいるかを把握できるレベルまで精度を高めることが可能になります。位置情報と時系列、デモグラフィック情報を合わせて扱える点が特徴ですね。

「考える軸が、もう一つ増えた」三次元ならではの課題と工夫

三次元で表現するからこそ、難しかった点はどこにありましたか?

丸居氏:一番難しかったのは、精度をどこまで追い込むか、どこで割り切るかという判断です。三次元で扱うと、どうしても完璧にしたくなりますが、精度を上げすぎるとデータが重くなり、実務では使いづらくなってしまいます。
もう一つ大きかったのは、考える軸が一つ増えた感覚です。これまでは平面で考えればよかったものが、高さ方向も含めて考えなければならなくなった。UIやデザインを考える上でも、配慮すべきポイントが一気に増えました。

伊藤氏:三次元にしたことで、今まで見えていなかった現実が見えてしまう、という側面もあります。例えば防災の文脈で言えば、60階建てのビルにいる人が、実際に地上に降りてくるまでにどれくらい時間がかかるのか。これまでは「1階に100人」といった平面的な捉え方で済ませていた部分を、無視できなくなりました。
あとは本当に地味な話ですが、操作性やデータの重さも大きな課題でした。三次元になるとデータ量が増えるので、時間軸で区切ったり、扱うデータを小さく分けたりしながら、PCの性能や動作環境に合わせて最適化を進めていました。人が多い都心エリアは重くなりがちで、郊外の街は比較的扱いやすい、といった違いも実感しましたね。

可視化の先にある、「判断」までを設計する

三次元で可視化できるようになった一方で、実際に現場で「使われる」ものにする難しさもあったのではないでしょうか。

丸居氏:三次元で可視化できた時点で「おお、すごいですね」と言ってもらえることは多いんです。ただ、それだけで終わってしまうケースも少なくありません。可視化しただけだと、「なるほど」で終わってしまう。そこから先の、「じゃあこのデータを見て、何を判断するのか」「どういう施策につなげるのか」というところまで設計しないと、実際には使われないんですよね。
このデータを見ることで、どんな問いが立てられるのか。誰が、どの場面で、何の判断をするために使うのか。そこまで含めて考えないと、「使われるデジタルツイン」にはならないと感じました。

伊藤氏:デジタルツインは、完成品を作ることがゴールではないと思っています。作って終わりではなく、更新されて、検証されて、意思決定に使われて、また改善されていく。その循環が回って、初めて意味を持つ。
今回の実証でも、精度をどこまで追い込むか、どこで割り切るかという判断は常にありました。三次元にすると、どうしても「もっと正確に」「もっと細かく」となりがちですが、精度を上げすぎるとデータが重くなり、実務では扱いづらくなってしまう。逆に軽くしすぎると、今度は判断材料としての説得力が落ちる。そのバランスを、用途ベースで考える必要がありました。

丸居氏:操作性も大きなポイントでした。これまで平面で完結していたものが、高さ方向も含めて考えなければならなくなる。技術者であれば慣れれば直感的に扱えますが、実際に使うのは必ずしもそういう人たちだけではありません。官公庁の担当者や、意思決定を行う立場の人が見たときに、直感的に理解できるかどうか。そのために、色使いや視点の切り替え方、情報の出し方にはかなり気を配りました。

伊藤氏:もう一つ大きかったのは、「誰のためのデジタルツインなのか」を常に意識することでした。今回、私たちが強く意識していたのは、最終的な判断と説明責任を担う行政や自治体のためのデジタルツインである、という点です。
例えば防災や都市計画の文脈では、施策の是非や根拠について最終的な説明責任を果たすのは、行政や自治体といった公共側です。その判断を支える材料として、こうした三次元人流データが使われていきます。
そういう意味では、今回の取り組みは「完成したデジタルツインを見せる」ことよりも、「どうすれば実際の意思決定の場で使われるか」を探るプロセスだったと思っています。その入口に立てた、というのが正直な手応えですね。

公共分野にひらかれるクリエイティブの余地

官公庁と協働する中で、新たに気づいたことはありましたか?

伊藤氏:思っていたよりも仕事を任せてもらえた、という感覚がありました。官公庁との協働については、どこか敷居が高いのでは、という印象を最初は持っていましたが、実際には先端技術を必要とされていて、私たちと同じ目線で議論していただけました。
中央省庁は、かなり長いスパンで将来を見据えて仕組みを作ります。市区町村が将来必要とするものを先回りして用意する。その意味で、先端技術を扱う企業との親和性は高かったと思います。実際、開発の進捗を見せながらフィードバックをもらい、次に反映する、といったインタラクティブな進め方ができました。

丸居氏:どんなに新しい技術でも、それが何に役立ち、どんな判断や施策につながるのかを、きちんと言葉で伝えられなければ、社会実装にはつながりません。一方で、そこを丁寧に整理できれば、民間の技術が公共分野で活かされる余地は非常に大きいとも感じました。

XRや三次元化の技術を持つクリエイターにとって、公共分野にはどんな可能性があると感じていますか?

伊藤氏:官公庁や自治体は、税金というパブリックな予算を使う以上、施策や判断について説明する必要があります。その中で、これまでの平面的な資料や文字中心の説明だけでは、伝えきれない場面も多くありました。XRや三次元化の技術は、直感的に「見て理解できる」点で、公共分野の説明を大きく変えられる可能性があります。実際に、ARやVRを前提にした仕様書やプロポーザルも増えてきています。
公共の現場で「どう伝えるか」「どう理解してもらうか」という部分には、まだまだ余白がある。そこにこそ、クリエイターが関われる余地があると思っています。

丸居氏:国や自治体の仕事は、まだ誰も触っていない領域や、正解がないテーマが多い。そこに挑戦できるのは、クリエイターとしても面白いところだと思います。こうしたまだ正解の定まっていない分野だからこそ、最初から完璧を目指さないことも大切だと思います。今回のプロジェクトも、試しながら、修正しながら進めてきました。そのプロセス自体を面白いと感じられる人であれば、この分野はすごくやりがいがあると思います。

伊藤氏:それに加えて、これからはAIを相棒にする力も重要になってきます。生成AIを使えば、コードを書かせたり、表現のたたきを作らせたりできる。その上で、人が判断する。ディレクター視点を保ったままクリエイティブができる環境が整いつつあります。課題を発見し、どう見せるかを考える部分こそ、人間の役割だと思います。
三次元人流データという新しい視点が、今後、都市や公共インフラの現場でどのように使われ、どのような判断を支えていくのか。その広がりは、まだ始まったばかりです。

取材日:2026年1月23日 ライター・スチール:小泉 真治

株式会社ホロラボ

  • 代表者名:代表取締役CEO 中村薫
  • 設立年月:2017年1月
  • 事業内容:XRや3D空間データを活用したシステム開発・開発支援、デジタルツイン関連プロダクトの提供、レーザースキャンやフォトグラメトリによる空間のデジタル化、XR関連ハードウェア・ソフトウェアの販売等
  • 所在地:〒141-0031 東京都品川区西五反田8-3-6 TK五反田ビル1F
  • URL:https://hololab.co.jp

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