WEB・モバイル2024.02.14

縦読み漫画で世界への扉を開く! STUDIO ZOONが創る新たな漫画カルチャー

Vol.223
株式会社サイバーエージェント マンガIP事業本部 STUDIO ZOON所属
Mitsuhiro Matsumura
村松 充裕

スマートフォンでの閲覧に適した縦スクロール形式で、フルカラーが特徴の縦読み漫画。短時間で快適に読むことができるため人気が高まり、近年、漫画・出版業界からの注目が集まっています。

株式会社サイバーエージェントは、企画から制作、販売までの体制を整えたコンテンツ制作スタジオ『STUDIO ZOON(スタジオズーン)』(https://zoon.jp/studio)を新たに設立。編集者を務める村松充裕(むらまつ みつひろ)さんは、講談社で漫画編集者として約20年のキャリアを経て、2023年にSTUDIO ZOONへ参画。数々のヒット作品を手がけた豊富な経験を生かし、オリジナル漫画の編集・制作を通じて世界的ヒット作品の輩出に注力しています。

縦読み漫画は、従来の漫画やアニメのように日本を代表するカルチャーへと発展するのか、制作現場ではどういったクリエイターがどのように関わっているのか、今後の展望についてもじっくりと聞きました。

グローバルで市場の成長が予測される縦読み漫画

縦読み漫画を取り巻く現状について、世界と日本それぞれの視点からお聞かせください。

北米やヨーロッパ市場では今、漫画の人気が高まっています。コロナ禍により配信サービスが浸透して、日本のアニメがより多くの国で視聴可能になったことが、人気拡大に一役買っています。特にフランスなどで以前から強かった、日本の漫画本を購入して楽しむという慣習が、他の国々にも広がっていると感じますね。

一方で、縦読み漫画の市場はグローバルで伸長しているものの、主な市場はアジア圏中心に留まっています。縦読み漫画が韓国発祥のカルチャーだということもありますが、この差は、縦読み漫画のアニメ化がまだ少ないためだと考えられます。アニメを視聴した後にその原作漫画を購入するという流れが、まだできていないんですね。ただ、2024年からは縦読み漫画が原作のアニメ化作品が増えることが予想されていますので、さらにグローバル市場での影響力を増していくのではないでしょうか。

日本に目を向ければ、韓国作品が量的にも質的にも高い評価を受けており、市場規模も拡大しています。そうした中で、日本の作品もスマッシュヒットを生み出し始めていて、これらの作品がアニメ化されれば、さらに大きな作品に成長する可能性があります。

そうした状況の中、STUDIO ZOONが設立された背景や狙いは何でしょうか?

日本でコンテンツ企業としての新しい形を目指すためには、漫画市場を無視するわけにはいきません。しかし、漫画業界は出版社によるエコシステムがすでに確立しているため、新規参入者がプレゼンスを発揮するのは難しいのも実情です。

そこで縦読み漫画という、既存の出版社がなかなか手を出せずにいて、しかもグローバルに伸びていく可能性がある分野で、新しい道を切り開いていこうという判断から設立に至りました。

日本的な縦読み漫画制作のベストバランスをつくりたい

従来の漫画と縦読み漫画の制作手法の違いについて、どういった点がありますか?

約20年間漫画の編集に携わった後、1年間縦読み漫画の制作に専念してきた経験からいえば、基本的な制作プロセスに大きな違いはないと感じています。例えるなら、サッカーとフットサルくらいの違いでしょうか。ただ、縦読み漫画には着彩の工程があります。ですので、最大の違いは何かといわれたら「着彩という工程がある」というシンプルな答えになりますね。

では、作品を企画する際の違いはあるのでしょうか。

日本の漫画市場は非常に多様で、あらゆるジャンルが存在します。いわば百花繚乱の状態です。一方で、縦読み漫画の市場はまだ狭く、ジャンルも特定の傾向があるように感じます。そうした状況で、あまりにも市場の主流から外れた作品をつくると、特別な理由がなければヒットは望めません。市場のどこを狙って企画するかの見極めが、漫画とは若干異なりますね。

それ以前に、そもそも表現形式が違うので、取り扱うテーマにも得手不得手があると思います。例えば、多くの登場人物を同時に扱うシーンは、漫画よりも縦読み漫画のほうが難しい面があります。逆に、人の心に深く訴えるようなストーリーは、縦読み漫画のほうが描きやすいと感じます。それぞれ得意な企画が異なるため、企画を立てる際には市場の特性と表現形式の違いを理解して、それに合わせたアプローチを取ることが大切だと考えています。

縦読み漫画で描きやすい作品には、具体的にどういったものがありますか?

縦読み漫画は人の感情に同調させることが漫画に比べて容易なので、キャラクターの心理を深く掘り下げ、その流れを追いかけるスタイルに非常に適しています。恋愛、サスペンス、ホラーなど、ドラマチックな要素を含んだストーリーで、キャラクターの感情の流れを丁寧に追いかけていく作品が得意ですね。

反対に、例えば漫画ではときどき「一方その頃、某国では…」と場面転換が挿入されるケースがありますが、そうした複数の舞台が同時進行するストーリーや、多くのキャラクターが絡む群像劇のようなストーリーは、画面の横幅が限られる縦読み漫画のフォーマットでは表現しにくい側面があります。

作品の選考や企画の際に、編集者として大切にしているポイントを教えてください。

二つあります。一つはやはり、市場を深く知ることの重要性です。どんなにすばらしい作品をつくったとしても、市場を把握していなければ受け入れてもらえませんから。もう一つは、作家さんが何を描きたいのか、意図をきちんと引き出すことです。そして、作家さんのやりたいことをうまく市場にマッチさせる方法を考えます。

編集者が作家さんの意図だけを優先して独りよがりな作品をつくってもよくありませんし、市場の動向だけに沿った作品をつくれば、作家さんが楽しめず、最終的に作品自体が面白くなくなる可能性があります。ですから、市場と作家さんの意図をうまく結びつけることが大切だと考えています。

STUDIO ZOONが目指す縦読み漫画制作の特徴はどこにあるとお考えですか?

韓国では高品質な作品をつくるために、企画や構成、線画や着彩といった制作工程に分業制を取り入れています。売れ筋に焦点を当て、映画やアニメのようにそれぞれの専門家が役割を果たして作品をつくり上げるスタイルですね。高品質な作品を安定的に生み出す仕組みづくりが韓国の強みといえますが、やや個性に乏しくなりがちな面もあります。

一方、日本の漫画出版社は、編集者が若い作家を発掘して共に作品を生み出していくような、よりパーソナルなアプローチを取ります。これは日本独自の漫画文化の特色であり、個性が強く出るものの、再現性やシステム化にはやや欠ける面があります。

韓国の制作スタイルの強さはある程度取り入れつつも、私はやはり、日本の漫画的なカルチャーを尊重することが、日本で縦読み漫画を成功させるための鍵だと思っています。私たちの手で、日本的な縦読み漫画制作のベストなバランスを構築していきたいですね。

創造性と成長を加速する体制づくりに取り組む

STUDIO ZOONではどういった制作体制をとっているのですか?

STUDIO ZOONには、編集者、制作進行、そして着彩チームという三つの部門があります。編集者はプロデューサーのような役割を果たし、プロジェクト全体を見守っています。制作進行は主にスケジュール管理を担当し、着彩チームにはアートディレクターと着彩をするペインターがいて、作品に色をつける重要な役割を担っています。

スタジオ内に作家さんは含まれず、従来の出版社のような契約関係の形をとっています。そのため、私たちは作家さんから作品を預かり、打ち合わせを通じてより良いものに仕上げ、適切な着彩を施して、最高の形で世に送り出すんだという気持ちで制作に専念しています。

一緒に仕事をするクリエイターに求めるキャリアやスキルはありますか?

着彩チームでいえば、着彩のスキルはもちろんですが、制作活動をきちんと継続できる人ですね。実際に、着彩チームのメンバーは、しっかりとした活動実績のある方々に声をかけて集まってもらっています。

中でもアートディレクターには、単に作品に色を塗るだけではなく、その作品をどのように仕上げていくかという理由やコンセプトを深く考え、ビジョンをチーム全体に共有するスキルが求められます。また、作家さんや編集者とのコミュニケーションを取りながら、「なぜこの塗り方になるのか」といった意図を言語化して説明する能力も欠かせません。そうしたスキルのある人材を積極的に採用していきたいと考えています。

編集者チームでは、まだ立ち上げのフェーズなので、漫画制作における豊富な経験よりも、本気度が高く信頼して仕事を任せられる人を基準に選んでいます。現在、私たちは多くの作品に関する打ち合わせの機会に恵まれており、新しいメンバーも非常に短期間で成長しています。経験が1年程度でも、しっかりとした仕事ぶりで、外部に出しても恥ずかしくないレベルまで達しますね。

成長スピードの速さに驚かされます。育成においてはどういった点に気をつけているのですか?

縦読み漫画は制作工程が多いため、管理も大変です。しかし、進捗状況のキャッチアップや管理ばかりに時間と労力を割いてしまうと、編集者としてはあまり成長できなくなってしまうんですね。ですので、そうした管理に関わる労力をできるだけ最小限に抑え、作家さんと一緒に面白い作品を生み出すことだけに集中できる体制づくりを心がけています。制作進行を担当するチームを設けているのも、そのためです。

漫画家の5%が縦読み漫画を描けば世界と戦える

今後の展望についてお聞かせください。

STUDIO ZOONでは、2024年から少しずつ作品のリリースが始まり、将来的には映像化も視野に入れて制作をしているところです。最初の目標としては、縦読み漫画からの収益だけを使って次の縦読み漫画を制作できるサイクルを確立したいですね。

また、サイバーエージェントではアニメ、映画、グッズだけでなく、プロモーションも含めた専門部署がありますので、そのあたりのノウハウやアセットを活かして、これまでにない新たなコンテンツスタジオを実現させていきたいと考えています。

そしてこのサイクルを維持するためには、注目される大きな作品を制作していく必要があります。こうした循環を続けていけば、日本における縦読み漫画文化や市場の成熟にもつながるのではないかと期待しています。

週刊連載開始のプレスリリース(2024年2月7日現在)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000136700.html

STUDIO ZOONでの縦読み漫画制作を通じて、どのような未来を実現したいとお考えですか?

面白くて高いクオリティーの作品づくりに集中して、その結果としてクリエイターからもきちんと評価されるような作品を生み出していきたいですね。

日本には才能豊かな漫画家が数多くいますが、そのほとんどの人たちが従来のスタイルの漫画を描いています。私は、この漫画家たちの5%でも縦読み漫画を描くようになれば、日本の漫画文化が培ってきた“個性”で世界と競争できる独自の魅力を持つと信じています。

しかし、なぜ5%も縦読み漫画に振り向いてくれないのかというと、現状ではまだ縦読み漫画についての理解が深まっていなかったり、試しに読んだものの面白くないと感じたりするクリエイターが多いからだと思うんです。

この状況を変えるには、縦読み漫画の魅力を説明していくだけでなく、縦読み漫画で「こんなに面白いことができるんだ」ということを示し、カッコいいと思ってもらえるような作品を創出する必要があります。そうすれば、クリエイターたちは自然と集まってくるはずなんですよね。

日本にはすでに多くの才能があるので、その人たちに影響を与えることができれば、縦読み漫画の動向に変化が生まれ、より面白い分野に成長していくのではないでしょうか。そして、日本の縦読み漫画が世界の中で存在感を高め、日本の漫画やアニメ文化と同様の重要なカルチャーへと育つように、力を尽くしたいと思っています。

取材日:2023年12月27日 ライター・スチール:小泉 真治

株式会社サイバーエージェント

  • 代表者名:藤田 晋
  • 設立年月:1998年3月18日
  • 事業内容:メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業
  • 所在地:150-0042 東京都渋谷区宇田川町40番1号 Abema Towers
  • URL:https://www.cyberagent.co.jp/
プロフィール
株式会社サイバーエージェント マンガIP事業本部 STUDIO ZOON所属
村松 充裕
2002年講談社へ入社し、週刊少年マガジンに配属される。入社10年後にはヤングマガジンへ異動。その後、新規サービスとして漫画アプリ制作に携わったのち、モーニングの編集部にて漫画編集に戻る。講談社に勤めて20年が経った頃、以前から読んでいた縦読み漫画に興味を持ち、2023年CyberZの「Studio ZOON」へ転職し、現在に至る。過去の主な担当作品は『中間管理録トネガワ』『1日外出録ハンチョウ』『食糧人類』『アポカリプスの砦』『平和の国の島崎へ』等。

STUDIO ZOON https://zoon.jp/studio

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