Netflixの話題作「First Love 初恋」プロデューサーが語る、コロナ禍で「海外ロケ」敢行の秘策

Vol.212
C & Iエンタテインメント株式会社 プロデューサー
Kasumi Yao
八尾 香澄
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宇多田 ヒカルさんのヒット曲にインスパイアされた、男女の純愛を描いたNetflixシリーズ「First Love 初恋」。90年代後半の北海道で巡り合った主人公・野口 也英(満島 ひかり/八木 莉可子)と並木 晴道(佐藤 健/木戸 大聖)は、たがいに初恋相手として結ばれるも、運命に翻弄され、あるきっかけで別々の道へ…。やがて、大人になって再会し「初恋」の記憶を取り戻していく物語には、ネット上で「何度見ても素敵」「純愛だなぁ…」「キュンキュンする」と多くの反響が寄せられています。
コロナ禍で海外への渡航が制限される中で、アイスランドロケを実現した。製作の裏側ではどのような苦労があったのか。制作チームのこだわりを実現した技術について、プロデューサーを務めたC&Iエンタテインメント株式会社の八尾 香澄さんに、伺いました。

90年代パートではオーディションに苦労

宇多田ヒカルさんの曲「First Love」「初恋」にインスパイアされた作品の企画が生まれた経緯から、お伺いします。

企画を発案したのは、作品のエグゼクティブプロデューサーを務めたNetflix の坂本和隆さんです。坂本さんが監督・脚本の寒竹ゆりさんに、宇多田ヒカルさんの「First Love」から「初恋」までの物語という切り口で、スケール感のあるラブストーリーを作って欲しい、と依頼して、2018年末頃にプロジェクトが動きはじめました。

寒竹監督が他のインタビューでも話していますが、宇多田さんの楽曲「Automatic」「First Love」「初恋」の歌詞をずっと眺めていて、宇多田さんがデビュー当時から一貫して歌っている「フィジカルな反応」を作品のモチーフにするという企画の骨子を見つけたところが物語の始まりです。

宇多田さんが歌っている「フィジカルな反応」とは、具体的にはどういったところですか?

「初恋」の歌詞にある「うるさいほどに高鳴る胸が 柄にもなく竦む足が今 静かに頬を伝う涙が」に象徴される、頭よりも先に肉体が反応してしまう、そんな反応だと思います。

キャスティングは、いつから進められたのでしょう?

最初にお声がけをしたのが主人公、野口也英役の満島ひかりさんです。2019年9月頃、脚本が未完成でプロットのみという段階でした。

監督の寒竹さんは企画当初より満島さんの出演を熱望していたのですが、私の中の満島さんは、かなりヘビーな映画に出演している俳優というイメージで、恋愛ドラマに出ている印象が極端に少なかったので、ハードルが高いんじゃないか……と勝手に想像しておりました。実際にお会いすると、とっても熱量の高い太陽のような人で、元々音楽をやっていた背景も含めてエンターテイナー精神の持ち主でした。

最初はNetflixの坂本さんと私と、次に寒竹さん含めて、2日間立て続けに満島さんにお会いして、色んな話をしました。 でも断られる雰囲気もあって(笑)、その日は解散しました。ところがその帰り道、タクシーを降りた満島さんはなぜか涙が溢れてきたそうで。その原因不明の涙を「はじまりの涙」と捉えてくれて、引き受けてくれました。この出会いがまさに運命だなと思いますね。

満島ひかりさんとは、まるでドラマのような出会いがあったのですね。並木晴道役・佐藤健さんはいかがでしたか?

満島さんとの2ショットが新鮮で、かつ誰もが見たいと思うスターが必要だと思っていて。カフェで、坂本さんと私の携帯電話を並べて、片方に満島さんの写真、片方に佐藤健さんの写真を出して並べたときに、これだ!となりまして、それですぐオファーしました。

その時に出していた佐藤健さんの写真が「天皇の料理番」の時のかなり短髪の写真で。いわゆる格好良いクールでシュッとした佐藤さんじゃなくて、飾らない、真っ直ぐな部分が晴道に合うんじゃないかと思いました。

実は寒竹さんの監督デビュー作が佐藤健さんの短編映画という縁がありまして。佐藤さんが「仮面ライダー」をやっていた頃に作られたDVDで、短編映画を撮ったのが寒竹さんでした。

元々脚本家志望でこの世界に入った寒竹さんにとって、監督をする覚悟が決まった1本で。いつかまた仕事をしようという二人の約束が実ったのがこの「First Love 初恋」です。ドラマの内容もそうですが、こういう色々な運命が重なって、最高のキャスティングが叶いました。

若い時代のお二人はオーディションで決まったとのことですが。

今回、若いキャストはほぼ全員オーディションで決めました。特に也英と晴道の若い頃は難航して、3ヶ月で100人以上(他の配役も含めると多分200人以上)若い俳優さんたちとお会いしました。

八木莉可子さん抜擢の決め手は?

也英は、満島さんと根っこの部分が似ている方を探していて。八木莉可子ちゃんは、きれいな顔立ちで都会的な雰囲気もありますが、滋賀県の自然豊かな場所で育っていて、放っておくと木登りをするぐらい実は野性味のある人で。芯の強さとか、圧倒的な純粋さが、満島さんに繋がると思いました。あとはとにかく華がありました。

 

晴道役の木戸大聖さんは、どうでしたか?

NHKの「おとうさんといっしょ」に出演して子供と居る時間が長かった影響か、20代なのに目がキラキラしていて、全く擦れてなくて。90年代パートには、北海道の大自然の中で育った素朴さと奔放さを求めていて、ようやく見つけたな、という感じでした。

話数や尺が柔軟に変化する配信プラットフォームの現場

2022年11月の配信スタート後、世界11カ国・地域でNetflix内「今日のシリーズTOP10」入りを果たすなど、一躍話題となりました。反響は、いかがでしたか?

想像以上でした。本作品は、とにかく制作規模がこれまで私が携わってきた映画やドラマとは桁違いに大きくて。撮影で足を運んだロケ地は250箇所以上、エンドクレジットを作りながら、関わったスタッフの多さに恐ろしくなり…これほど多くの人たちを巻き込んだからには、何が何でも当てなければ、とプレッシャーも感じました。

実際、配信が始まってから、キャストやスタッフにもかなり反響があったようで。配信スタートから3ヶ月経った今でも、こんな嬉しい感想が来たよ、と色んなスタッフから連絡があります。スタッフやキャストが参加できて良かったと言ってくれるのは、本当に嬉しいですね。

コロナ禍でこの大所帯で日本各地でロケをするというのは、想像できないぐらい大変な日々でした。それを一緒に乗り越えた戦友たちにとっても作品が届くというのは最大の喜びだと思います。海外からの反響も大きくて、随分前に挨拶した方からの連絡や、台湾や香港のプロデューサーが会いに来てくれたり、影響力の大きさを実感してます。

八尾さんからみて、地上波の連続ドラマと配信プラットフォームの製作現場にどのような違いを感じましたか?

Netflixシリーズは地上波のドラマと違って、話数や尺の自由度が大きいです。本作は、最終的に9話構成となりましたが、脚本開発を始めた当初は6話の想定でした。配信予定や撮影スケジュールの逆算もあって、寒竹さんが1人で監督・脚本を手掛けるなら、全6話が物理的にも最適だろう、と考えておりました。ところがプロットを構成していくうちに、描きたい要素がどうやっても6話に収まりきらないことが見えてきて、Netflixの坂本さんに相談して、話数を増やしました。

脚本開発が進む中で、もう少し恋愛の盛り上がりが欲しいなどプロデューサーとしても色々リクエストしてストーリーが膨らんでいきました。2020年に世界がコロナ禍に突入し、そこで新たな悩みが発生しました。そもそも本作は1998年の宇多田さんのデビューをはじめ、記録的に大ヒットした『タイタニック』や、火星探査機「のぞみ」や、東日本大震災など、時代を切り取り物語を作っていく作品だったので、コロナを無視していいのか?と悩みまして。主人公の也英や晴道が体験した出来事としてやはり描いた方が良いという結論になって、最終話の脚本をさらに改稿しました。

実は、2021年の4月にクランクインした時点では、全8話構成の予定でした。9月までの春夏パートで、全体の3分の2ぐらいの撮影を終え、冬パートを準備する期間に、同時に編集作業も進めていました。ある日、監督の寒竹さんから、全9話に再構築した方が絶対面白くなる、と言われまして。そこから脚本の検証を重ねて、今の9話構成で進めることが決まりました。

現地に渡らず実現した「海外ロケ」驚きの舞台裏

*アイスランドロケは、アイスランド政府およびアイスランド フィルム センター協力のもと、制作されました。

コロナ禍での撮影ながら、アイスランドのロケを実現したのも本作の特徴ですね。

2019年の企画段階では、モンゴルやヨーロッパ各国でのロケも予定していました。今の台本より海外ブロックが多かったんです。2020年に最初の緊急事態宣言が出た頃、撮影延期を決定しました。それでもその時は「数ヶ月もすれば世の中は元に戻るだろう」と考えていました。

ところが全く終息する気配がなくて。2021年の秋頃、これはいよいよ海外ロケは現実的ではないかもと思い、現地に行くのが難しい状況でどうすれば海外パートを撮れるかを考えるようになりました。

アイスランドだけは、何としてでも撮影しないと、物語が終われないので、これはリモートでやるしかないな、と。そこからはアイスランドのリモート撮影に向けて、準備していきました。也英が現地でヒッチハイクをして、晴道を探してアイスランドの様々な場所を歩くシーンは、日本で也英をグリーンバックで撮影し、現地で背景を撮影し、合成しています。

也英を演じる満島さん、日本のスタッフの方は現地の風景を見ていないのですね。通常のロケとは苦労も異なるのかと思いますが、どのような撮影を行ったのでしょうか?

撮影の手順はいくつかに分かれていました。まず、寒竹さんに、イメージだけでアイスランドの絵コンテを描いてもらうという無茶振りをしまして(笑)。

寒竹さんも現地に行った経験はないので、ネットでアイスランドの風景を調べたり、アイスランドで撮られた映画を見たりしながら、イメージコンテを作ってもらいました。

今度はそのイメージコンテを参考に、撮影候補地をアイスランドのプロダクションに探してもらい、ロケハン(撮影場所を決める作業)をしてもらいました。例えばガソリンスタンドの下りは当初はカフェの設定だったのですが、風景を写せる場所で立ち寄れる場所ということでガソリンスタンドに変更したり、現地のプロデューサーとやり取りしながら色々変わっていきました。

ロケ候補地をある程度絞ったところで、今度は、日本でスタンドイン(代役)によるテスト撮影を行い、どういうアングルが欲しいかの検証をしました。

その映像を編集部が繋いで、どういうカットを撮りたいかをアイスランドチームに伝え、さらにそこから技術的な詳細資料、カメラのレンズのミリ数や太陽の向きなどを記したコンテを作りました。

現地で下絵撮影をし、東京でグリーンバック撮影をし、また現地で本番背景撮影をし、など繰り返し、アイスランドチームともリモートで何度も打ち合わせましたね。

アイスランドの本番撮影は日本時間にすると夕方から深夜に行われるのですが、夜な夜な、VFXスーパーバイザーとアソシエイトプロデューサーと海外ロケのコーディネーターと4人でオンラインで中継しながら、1カットずつ確認して撮影していきました。

さらに紋別空港で撮影した再会のシーンも、アイスランドの空港の建物や山の風景などを合成しています。現代技術のパワーを感じました。現地でロケをする以上の手間や時間がかかりましたが、結果、日本では撮れない風景を撮ることができて、良かったです。

製作陣が一丸となり、コロナ禍という不測の事態も乗り越えた本作に対する並々ならない思いを感じます。最後に、作品を愛する方々へのメッセージをお願いします。

ラブストーリーとして宣伝していますが、主人公たちの初恋や恋愛だけではなく、親子愛も含めた様々な愛の形が描かれています。また主人公の也英と晴道だけではなく、彼らと出会った様々な人たちに人生があり、それぞれの生き様が描かれているのも特徴です。恋愛ドラマは苦手と敬遠する方にもぜひ一度見てもらえると嬉しいです。

ロケーション、撮影、照明、美術、装飾、衣裳、小道具、料理などに至るまで、細部にわたって作り込んでいますので、技術に興味があるクリエイターの方々にとっても、刺激的な要素がたくさんあると思います。

作中に張り巡らされた物語の伏線を考察されている方もいまして、思わぬ感想に出会えて嬉しいことも多いです。私たちが意図していたもの、意図していなかったものと様々ですが、自分なりに考察しながら楽しんでもらえると嬉しいです。

何より宇多田ヒカルさんの楽曲が素晴らしいです。改めて音楽の力を感じました。未見の方は是非騙されたと思って、とりあえず3話まで見て観てください。多分、そこから残りは一気見してしまうはずです。

取材日:2023年1月20日 ライター:カネコ シュウヘイ

 

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

Netflixシリーズ「First Love 初恋」

Netflixにて独占配信中!

出演:
満島ひかり 佐藤健
八木莉可子 木戸大聖
夏帆 美波 中尾明慶 荒木飛羽 アオイヤマダ
濱田岳 向井理 井浦新 小泉今日子
Inspired by songs written and composed by Hikaru Utada
/ 宇多田ヒカル

監督・脚本:寒竹ゆり
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆(Netflix)
プロデューサー:八尾香澄
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
原案・企画・製作:Netflix

プロフィール
C & Iエンタテインメント株式会社 プロデューサー
八尾 香澄
C&Iエンタテインメント株式会社所属、プロデューサー。主な担当作品は、映画『イチケイのカラス』、『ひるなかの流星』、『坂道のアポロン』、『ReLIFE』、『四月は君の嘘』、『潔く柔く』など、連続ドラマ「わたし、定時で帰ります。」、「重版出来!」など。

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