始まりは糸?!  @ Sarah Myerscough 後編

Vol.167
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

 


Green Vine #1, #2 and #3, 2026 Aude Franjou

階段を上っていってみましょう。上方に植物のつるのようなものが見えます。こちらは、パリ郊外のシャトー・ランドンを拠点とするAude Franjouの作品。フランジュはリネンの材料となる亜麻の茎からとった繊維を、植物を想起させる様々な緑に染料で染め、何層にも巻きつけて生命力のある作品に仕上げています。実は人類最古の繊維といわれるリネン。ジョージアのズズアナ洞窟では、染色された野生の亜麻繊維の痕跡が発見され、約3万6000年前のものと推定されています。そしてそれは、リネンが農業文明の勃興以前から使用されていたことを示しています。リネンはまた、古代エジプトにおいてミイラを包む聖なる布としても扱われました。


二階のギャラリー

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Ash Tree Bark, 2026 Joana Schneider

こちらの大規模な繊維インスタレーションは、オランダを基盤にするJoana Schneiderの作品。シュナイダーは、作品に海事産業で用いられるプルイスネッティング(pluis netting)やドリーノッティング(dolly knotting)などの技法を用いています。彼女はオランダにおける海の遍在性について語り、その存在が彼女の作品へのアプローチに深く根付いているといいます。また、刺繍、パスマントリー、タペストリーといった、古典的な技法も取り入れています。廃棄素材などのリサイクル素材のみを使用し、その多くは、長年にわたり良好な関係を築いてきた地元の漁師や網職人から集めたものだそう。


Constellation, Set 1, 2025 Ann B. Coddington

壁に並ぶのはアメリカのイリノイ州で活動するAnn B. Coddingtonの作品。臓器のようで不思議な生き物のコミュニティのようにもみえます。コディントンは、トワイニング(もじり織り)、網掛け、ラッシング(縛り付け)などの、さまざまな編み技法を用いて作品を制作しています。作品は、身体の形、特に女性の身体性や身体のシルエットを考察しているといいます。彼女はまた、設置時に小さなオブジェが互いに交わる形態間の対話も大切にしているといいます。そのため展示のたびにその配置や組み合わせを変えるのだとか。

Wet Volume, 2026 Alida Kuzemczak-Sayer

英国のノリッジで制作を行うAlida Kuzemczak-Sayer。彼女はまず、コウゾ和紙一枚一枚にグラファイトとインクで様々な模様を描きます。模様は書籍、巻物、古代遺跡、落書きなど、歴史的かつ多様なコミュニケーション形態からインスピレーションを受けたもの。次に、紙を細長い帯状に引き裂きます。そして紙を並べ直すと、インクが端から覗き、個々のシンボルは消え、まるで鳥の翼のような触感をもつ有機的な形態が現れます。


She’s Scenery No.5, 2023 Lin Fanglu

数メートル四方ほどあるタペストリーは中国上海を拠点にするLin Fangluの作品。まるでイソギンチャクの集うサンゴ礁を描いたかのよう。ファンルは中国の少数民族である白族(ペー族 / Bai)と侗族(トン族 / Dong)のコミュニティを訪問し、絞り染め、紡績、織物などの伝統工芸について研究を行いました。それは一時的なものではなく、コミュニティ内での長年にわたる活動と生活を通して行われました。彼女はまた、伝統的な工芸の手法を吸収しつつ、現代における職人労働を取り巻くジェンダーの問題にも光を当てています。ファンルは語ります。「糸 (Thread) とは、織物制作の実践だけでなく、人の身体、環境、歴史のつながり、継続性、相互依存性をも指している。」

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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