スリーフォードから始まる物語 @ Hub Sleaford

Hub Sleaford
今回訪れたのはHub Sleaford。スリーフォード(Sleaford)は、イングランド、リンカンシャー州にある市場町。町の中央をその名の由来にもなっているスリー川(River Slea)が流れています。

Hub Sleaford メインギャラリー
Hub Sleafordは現代工芸とデザインを中心としたアートセンター。鉄筋の広大な建物はかつての種子倉庫を利用しています。一階にカフェ、ショップ、教育ワークショップルーム、二階にメインギャラリーを設えています。早速二階に上がってみます。
そこではグループ展が行われていました。表題は『Beneath the Surface: Material and Meaning』。あらゆる素材には記憶が宿り、あらゆる物には物語が宿る。

Paradise series, 2024 – 2025 Amy Cushing
鮮やかなキャンディーカラーのガラスのオブジェ。Amy Cushingは作品制作において、ステンドグラス窓のあった生家の幼少の記憶が根底にあるといいます。それは1960年代に彼女の母親が制作したものでした。
「ガラスは私の作品の色彩を共鳴させ、楽園の物語を余すところなく伝えてくれます。Paradise seriesは、熱帯の動植物をモチーフに、現実逃避を喚起するデザインです。ガラスの鮮やかな色彩と、この素材の洗練された輝きは、鮮やかでエキゾチックな花々、透き通った水面に降り注ぐ日の光、羽毛、珊瑚などの魅惑的な世界を表現しています。」美しい楽園を訪れた思い出を綴った作品。

Play series, 2024 – 2025 Kira Phoenix K’inan
カラフルなお菓子のように見えるオブジェ。思わず頬張ってみたくなりますが、実はガラスでできています。Kira Phoenix K’inan はいっています。「このPlayシリーズを通して、観客に子供のような驚きをもって世界を見る力を思い出してもらいたいと思いました。積み木に使われるような円、正方形、六角形、三角形という4つの幾何学的形状を選びました。また、鮮やかで大胆な色合いは、だれもが作品に触れて形や色を自由に組み合わせたくなるはず。そして、これらの作品で遊ぶことの魅力と、ガラスであるため取り扱いを誤ると壊れてしまうという現実との間には、緊張関係があります。ガラスという素材は、あらゆるものが実際にはいかに壊れやすく、あらゆる接触を慎重に行わなければならないかを私たちに思い出させてくれます。」

Fragile Sea, 2025 Julie Massie
絵画のように見えますが、よく見るとそれは薄い焼き物のかけらを積み重ねたもの。着色した磁器の破片は、イングランド南西部ドーセット海岸沿いにあるヘンジストベリー岬の継続的な浸食と再生の自然のサイクルを映し出していると、Julie Massieはいいます。磁器の破片は、慎重に成形され、割られ、再び組み立てられます。この過程を経て、素材は、壊れやすい破片から、環境の脆弱性と強さの両方を呼び起こす凝集性のある構成へと生まれ変わります。
ドーセット州ヘンジストベリー・ヘッドは、豊かな生物多様性と深い歴史で知られる、142ヘクタールの保護地域。希少種を含む500種以上の植物と300種以上の鳥類が生息し、鉄器時代の要塞や古代の鉱山跡など、国際的に重要な考古学的遺跡も点在。そしてその海岸はアンモナイトなどの化石の眠るジュラシック・コースト世界遺産地域の一部です。

Forest Basket, 2025 Adele Howitt
真っ青なバスケットの中に眠る無数の花。数輪が咲き始めています。ベルベットのような質感ですが、こちらは陶器。この季節にカーペット状に英国の森を覆いつくす花といえばウッド・アネモネ(Wood Anemone)。真っ先に春を告げる野花の一つです。ウッド・アネモネは成長の遅い植物で、種子ではなく水平に伸びる地下茎によって広がります。その地下茎は100年でわずか6フィート(約1.8メートル)しか伸びません。そのため、エンシェント・ウッドランド(Ancient Woodland — 自然の森に近い形で少なくとも400年以上経っている森)の指標としてよく用いられます。英国で古くから馴染みの深いウッド・アネモネですが、森林伐採により、減少傾向にあるという事実は否めません。
Adele Howittは、彼女の技法が、18世紀から19世紀の陶工たちに賞賛された、理想化された景観と管理された田園風景という歴史的な装飾ではなく、生き生きとした手つかずの風景を記念するものであることを願っているといいます。

Do You See What I See?, 2024 Denise Coupland
草木染めをした絹の糸で手縫いした刺繍画。一見山岳を描いたようですが、眺めていると人の顔なども見えてきます。Denise Coupland は言っています。「鑑賞者がじっくりと時間をかけて、立ち止まり、好奇心を持って作品を眺め、繊細な手縫いのディテールだけでなく、パレイドリア(Pareidolia)の瞬間、つまり表面から浮かび上がるような顔や形を、自ら発見してくれることを願っています。ドラゴンからカンガルー、コーンウォールから城まで、すべてが融合し、想像上の風景へと変化していきます。その様子は、各々の記憶とアイデンティティが共有された知覚を通してどのように形作られるかを物語っています。」
※コーンウォールはイングランド南西端の地域名です。







