始まりは糸?!  @Sarah Myerscough 前編

Vol.166
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Sarah Myerscough Gallery

ボンド・ストリート駅を出て、向かったのはロンドン屈指の老舗デパート、セルフリッジズ (Selfridges)ではなくて、その正面から一歩入った通りにあるSarah Myerscough Gallery


Sarah Myerscough Gallery

The School Houseと書かれたゲートをくぐりブザーを押すと、鉄の重い扉がゆっくり開き、マルーンレッドの回廊へ導かれます。奥には糸の塊のようなものが見えます。近づいて行ってみます。


TORSION, 2024 Kate MccGwire

蛇のようにねじれ、絡み合っていたのは玉虫色に輝く雄鶏の羽。英国作家のKate MccGwireは農家やゲームキーパー(gamekeeper)と呼ばれる猟場管理人などから集めた鳥の羽を使い、伝統的な羽根細工師・プリュマシエ(Plumassier)の技法を使って羽を加工、染色し、彫刻作品から巨大なインスタレーションに至る作品を制作しています。


Sarah Myerscough Gallery  Room1

回廊を抜け、最初の部屋へ。今回はここ、Sarah Myerscoughより、次回と二回に分けて、グループ展「Thread」をお伝えします。Threadは糸、繊維、(会話の)脈絡、スレッドなどを表す言葉ですが、もとは「ねじる(to twist) 」という意味のゲルマン語に由来するといいます。これは、糸 (yarn) を作るために繊維をねじる、紡ぐことから。そして、糸から物語を語り始めることができます。別の糸と交差させて格子や結び目を作ったり、他の素材に通したりすることで織物となり、紀元前5000年以来、織物、編み物や衣服を人々に提供してきました。


Apical #6, 2025  Diana Scherer

薄いジュート(黄麻/コウマ)の布に広がる美しい波紋のような繊細な黄金の模様。実はこの模様、植物そのものが織ったパターン。オランダ出身のDiana Schererの作品は植物の地下生命である、根系の働きを基盤としています。根は重力、水分、化学物質に反応して周囲の環境を操ります。Schererはこうした植物の隠された能力とプロセスを可視化したいと考えました。そして、生物学者との共同研究により、植物の根の成長を制御し、人工的な織物へと変える技術を開発します。設計した型に沿って植物を育てることで、羊毛や絹を紡いだような作品に織り上げています。

Shore Road, 2025 Wycliffe Stutchbury

ウェールズで制作を行うWycliffe Stutchburyは、倒木や廃墟となった建築物などから収集した木材を加工し、緻密に配置して作品を構成し、鎧の札(さね)を彷彿とさせます。これらには、嵐の過ぎ去った米国メイン州の沿岸の町から調達した屋根板、廃棄された畑の柵、東イングランド・ノーフォークの湿地帯で見つかったオークの倒木、ウェールズ・アバーガベニーで伐採されたヒイラギなどが含まれます。様々な地域の木材が環境を吸収して痕跡を残すことによって、それぞれの作品が地理的な特異性と気候変動を反映したものとなっています。そして外壁、屋根、構造物が自然の相互作用によって風化するように、彼の作品もまた風化していきます。


Ruptured (Out of Blue), 2026 Dana Barnes

NYを基盤にするDana Barnesは、壁掛け作品、ロープ状の吊り下げ作品、織物ラグなど、その場に合わせた立体的な作品を制作しています。彼女が主に用いる技法は「湿式接着」。水と摩擦によって羊毛繊維を絡み合わせ、密度の高い不織布へと変化させます。染色には鮮やかな顔料が用いられ、柔らかい羊毛とコンクリート、樹脂、ゴム、粘土などの硬質素材と融合させることで作品の存在感を深めています。描き出されているのは荒い岩肌と青い海でしょうか。


Two Sides, 2026 Teresa Hastings

英国作家のTeresa Hastingsは現在インドのヒマラヤ山脈とロンドンにあるスタジオを行き来しながら制作活動を行っています。

彼女の制作活動の中心にあるのは、自然そして自然染色への深い関心と理解。例えば、ミロバラン、地衣類、栗、ザクロの皮、そして鉄といった素材を染色に用いています。Hastingsの作品において、色彩は静的あるいは表面的な彩色ではなく、錬金術的な手法にも似たプロセスから生み出されます。ヒマラヤのスタジオの季節的な自然環境や素材的要因もまた、色彩の深みやトーンを形作っているようです。金属もまた、彼女の作品において重要な役割を果たしており、ヒマラヤの羊毛や和紙と組み合わせることで、硬質な素材が持つ繊維のような特性を際立たせています。

「この時期、私は連日の激しい嵐によって頻繁に停電が発生し、遠くの山頂を黒雲が覆う中、暗闇の中での作業を強いられました。織物工房に一人きりで、雷が山々に落ち、火の玉が下の川へと流れ落ちる様子を、驚きながら眺めていました。この圧倒的な力に魅了された私は、この風景の奔放なエネルギーを捉えようと、この巨大なタペストリー「Two Sides」(二つの側面)を構想しました。」

それでは、この続きは後編で。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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