ロンドンの古代神殿?! @London Mithraeum Bloomberg SPACE

Vol.159
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

London Mithraeum Bloomberg SPACE  地下鉄Bank駅の真隣
入場無料だが、オンラインでチケット要予約

石畳がフカフカの黄金色の落ち葉で覆われはじめ、秋の気配の感じられるようになった8月の最終日、向かったのはロンドン・ミトラエウム・ブルームバーグ・スペース (London Mithraeum Bloomberg SPACE)。ロンドン中心部の金融街シティにあります。


Performance of Entrapment 2025, Jane and Louise Wilson

まずクジラの歯のような立体がお出迎え?よく見れば古い樹木でできています。受付で「次の入場は2時からですので、地下に降りてお待ちください。」と冊子を渡されます。早速階段で地下へ向かいます。暗闇を9メートルほど降りていくと、すでにゲートが開くのを待つたくさんの人で賑わっていました。


The Temple of Mithras

「大変お待たせしました。今から次の入場を開始します。中は暗いですので足元に気をつけて前へお進みください。」係りのアナウンスに促され、手すりに沿って進みます。やがて闇の中から建物の輪郭が浮かび上がってきます。ホーンの音が響き渡り、何か儀式、祝祭?が始まるかのようです。人のざわめき、ラテン語?の会話が聞こえてきます。声、そして光、影が建物を移動します。


The Temple of Mithras

The Temple of Mithras

The Temple of Mithras

実はここは、およそ2000年前に建てられたミトラ神殿遺跡(西暦3世紀建)。神殿は1941年の第二次世界大戦の爆撃によりその多くが破壊されますが、同時に地下に眠っていたその存在を瓦礫の下から顕にします。


Tauroctony

こちらは当地で発掘された石彫刻のレプリカ(オリジナルはロンドン博物館収蔵)で、描かれているのはミトラス。ミトラスが雄牛を刺すとその背骨からは小麦が、滴る血からはブドウが実ります。そして周りには12星座が輝きます。Tauroctony(雄牛殺し)と呼ばれる類似の彫像や絵画はローマ帝国の統治していた各国で見つかっており、キリスト教以前の崇拝の対象であったことがうかがえます。ミトラ神殿ではまた、祭壇部に当たる辺りで等身大のミトラスの首像も発掘されており、他の部分は失われているものの全身像が存在したことが推測され、現在そこには鉄レールの彫刻がそれを示唆するように設けられています。


遺跡の出土品の一部

1952〜54年にはオフィスビル建築計画に伴う大規模な発掘が行われ、600個以上のオブジェが出土します。上階に戻るとそこにはその一部が展示されていました。

ミトラ神殿はロンドンの失われた川の一つであるウォルブルック川(walbrook)沿いに建てられていました。この川は現在もロンドンの街路の地下を流れています。ローマ人はこの川を渡って現在のロンドンと呼ばれる都市、Londiniumを築いたのです。


古代の筆記タブレット(中央)

川に面していたことからこの遺跡からは多くの木製品が風化を免れて出土しています。西暦57年のこちらはiPad miniほどの大きさの筆記タブレット。スタイラスペンは鉄でできていて現在のものとあまり変わらない姿。タブレットの表面には炭と蜜蝋を混ぜたワックスが施されその上を鉄のペンで筆記したのだそう。

 

木製品といえば、冒頭で触れた樹木でできた立体作品に戻ってみましょう。実はこのスペース、地下はミトラ神殿遺跡、一階は遺跡にインスピレーションを受けたコミッション作品を展示する現代美術ギャラリーになっているんです。そして、こちらは双子の英国美術家、Jane and Louise Wilsonの作品。樹齢2000年の樫の木材で、ウォルブルック川の橋桁に使われていたものと推定されています。樫の木材は2010〜14年に行われた再調査でかつてのウォルブルック川の渓谷跡から発掘されたものです。


Performance of Entrapment 2025, Jane and Louise Wilson

二人はまた、この樫の木目を電子顕微鏡でDNAレベルまで拡大し、それを起点に写真、ドローイング、立体を組みあわせ、複雑な重なりを描き出しています。


Performance of Entrapment 2025, Jane and Louise Wilson

Performance of Entrapment 2025, Jane and Louise Wilson

八咫鏡(やたのかがみ)?大きな鏡に映し出されていたのは緑豊かな伊勢神宮、そして伊勢音頭を踊る女性たち。伊勢神宮が設立された時期については諸説がありますが、天照大神が国家権力と結びつく以前から、全国各地にアマテル(太陽神)を祀る習慣は存在していたようです。


Performance of Entrapment 2025, Jane and Louise Wilson

大鏡の中から、手鏡を掲げたウィルソン姉妹が現れます。まるで神話の中の天照大神を岩戸の中から引き出すかのように。その反射光は時空を超えて地理的、文化的にも異なる二つの神殿を繋ぐかのようです。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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