“Go Beyond”を掲げる国「シンガポール」ナショナルデーに見る、国家のブランディング
いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。8月のシンガポールは、街じゅうが赤と白に染まる季節。マンションの窓には国旗が掲げられ、モールにはナショナルデー限定グッズが並び、テレビでは式典のリハーサル映像が連日流れます。
日本のお盆とはまったく違う、「国の誕生日」を祝う空気が、この街には毎年やってきます。今年は独立61周年、いわゆる「SG61」。今回はこの一大イベントを、僕がふだん向き合っている「ブランディング」という視点から眺めてみたいと思います。
■10年ぶりにナショナルスタジアムへ戻ったNDP2026
シンガポールの独立記念式典「National Day Parade(NDP)」は、毎年8月9日に行われる国を挙げた祝賀行事です。軍や警察などによるパレードに加え、音楽やダンス、映像を組み合わせた大規模なショーでもあり、その年のシンガポールが何を大切にするのかを国民に伝える場にもなっています。
NDP2026は、2016年以来10年ぶりに、カランのナショナルスタジアムで開催されました。スタジアムという会場に合わせ、屋内ドローンショーやスポーツを軸にした演出など、従来とは異なる見せ方も取り入れられています。単に会場を移したのではなく、空間の特徴に合わせて祝典そのものを組み直した点も、今年らしいところです。
式典のテーマは「Majulah Singapura, Go Beyond!」。「Majulah Singapura」は、マレー語で「進め、シンガポール」を意味する国歌の題名です。そこに「Go Beyond!(さらに先へ)」という呼びかけを重ね、より良いシンガポールをつくることや、周囲の人、さらに広い社会へ目を向けることを促しています。
■「61」に込められた前進のメッセージ
今年の公式ロゴは、独立61周年を表す「61」が主役です。なかでも目を引くのが、前方へ傾いた「1」。その数字自体が矢印の形になっており、進歩と卓越を目指して前へ進み続ける国の姿勢を表しています。数字を周年の表示で終わらせず、その年のメッセージをひと目で伝える記号として使っているわけです。
ロゴに求められるのは、見た目の美しさだけではありません。伝えたい内容を短い時間で理解してもらうことも、大切な役割です。その意味で、「61」という限られた要素にメッセージを集約した、分かりやすいデザインだと思います。
さらに今年は、学校を対象としたロゴの共同制作企画も行われました。児童や生徒が「61」をもとに、マーライオンや街並み、食文化、多民族社会など、自分たちが考えるシンガポールらしさを描き、作品は公式サイトやスタジアム内のLEDスクリーンで紹介されました。公式のデザインを一方的に見せるだけでなく、国民が自分たちの国をどう表現するかを考える機会までつくる。この参加の仕組みも、NDPのブランディングの一部です。
■毎年更新される「国のブランド」
ここでいうブランディングは、ロゴや配色を整えることだけではありません。自分たちは何を大切にし、どこへ向かうのかを、言葉、映像、音楽、会場での体験まで含めて一貫して伝えることです。
シンガポールは毎年、NDPのテーマとビジュアルを新しくし、それを楽曲や映像作品、パレードの演出、地域の参加企画へ広げています。2026年は、NDPとして初めて楽曲をまとめたアルバムが制作されたほか、初のマイクロドラマ「Heartbeats」や、島内各地を巡るデジタル宝探し企画「Majulah Hunt」も展開されました。8月9日の式典だけで終わらせず、数カ月にわたって同じテーマに触れる機会を用意しているのです。
多民族・多言語の社会では、立場や背景の異なる人たちが共有できる言葉をどうつくるかが重要になります。NDPは、テーマを決めるだけでなく、それを見て、聴いて、参加できる形に変えることで、多くの人が同じメッセージに触れられるようにしています。国外に向けてシンガポールらしさを伝えるうえでも、この一貫性は大きな役割を果たしているように感じます。
そして、その仕組みを実際に形にするのは、コピーライター、デザイナー、映像ディレクター、作曲家、演出家、出演者といった一人ひとりのクリエイターです。それぞれの仕事が同じ方向を向くことで、テーマはスローガンのまま終わらず、国民が共有できる体験になります。
これは国家に限った話ではありません。企業や商品のブランドも、「らしさ」を定義し、言葉と見た目と体験に落とし込み、発信のたびにぶれないよう整えることでつくられます。NDPを見ていると、ブランディングとは目立つロゴをつくることではなく、さまざまな表現を一つの方針に沿って設計する仕事なのだと、あらためて感じます。
■最後に
ナショナルデーの花火を見上げながら、僕はいつも思います。国の誇りやアイデンティティといった、目に見えないものを「見えるかたち」に翻訳するのがブランディングであり、それを担うのがクリエイターなのだと。
企業の皆さまが「自社のブランドをどう伝えるか」で悩まれるとき、その答えを一緒につくれる人材が、シンガポールにはたくさんいます。国を一つにするほどのクリエイティブの力を、ぜひビジネスの現場にも取り入れていただきたい。2026年後半も、この街の見せ方の巧みさを、現地からお伝えしていきます。引き続き当コラムをよろしくお願いいたします。
■Fellows Creative Staff Singaporeの活動について
私たちFellows Creative Staff Singapore(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。
ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。
もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。
課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。
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※参照リンク
・Theme and Logo|National Day Parade 2026
https://www.ndp.gov.sg/about-ndp-26/theme-and-logo/
■About NDP 2026
https://www.ndp.gov.sg/about-ndp-26/

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