シンガポール現代アートとアパレルコラボに見る クリエイターの新しい役割
Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。
今回は、最近のシンガポールで個人的に「対」になって見えた2つのニュースを取り上げます。ひとつは75歳のベテラン作家のヴェネチア・ビエンナーレ出展、もうひとつは若手インフルエンサーのアパレルコラボ。世代も領域もまったく違う2人ですが、僕には同じテーマを語っているように感じられました。それは、「クリエイターは、自分の表現や役割を時代と場所に合わせて”更新”し続けている」ということです。
■75歳の作家、アマンダ・ヘンさん
2026年5月9日から11月22日まで、現代美術の重要な国際展「第61回国際美術展 La Biennale di Venezia(ヴェネチア・ビエンナーレ2026)」が開催されています。そのシンガポール館を代表するのが、1951年生まれの作家アマンダ・ヘンさんです。
彼女は1980年代後半、シンガポール現代美術の転換期に登場しました。パフォーマンスや写真、参加型アートを通じて、女性に期待される役割や、日常の動きに残る個人の記憶を扱ってきた作家です。たとえば代表作『Let’s Walk』(1999年〜)では、歩くという身近な行為を通じて、日本でも、個展や作品の展示が行われているので、この作品をご存知の方もいるかもしれません。
今回の展示タイトルは「A Pause(小休止)」。中世の造船所跡アルセナーレの会場を、座る・待つ・見守るといった日常の所作を中心とした「休息と観察の場」へと変えていく構成だそうです。新作の映像作品に加え、1990年の写真作品『Parts of My Body』を2026年に再プリントして展示しています。いうなれば、30年以上前の表現を、今の文脈に置き直していると言えます。
出典:Singapore Art Museum「Singapore Pavilion」
■流行を追うことだけが、クリエイティブではない
僕がこのニュースに惹かれたのは、ここなんです。
クリエイターというと、つい「新しいこと」「最新の技術」「今のトレンド」を追う人、というイメージで語られがちです。シンガポールでも、若手・テック・商業クリエイティブの話題が中心になりやすい。
でもアマンダ・ヘンさんが見せてくれるのは、それとは別の厚みです。自分が長年信じてきたテーマを捨てずに、時代と場所に合わせて少しずつ更新し続けること。それが結果として、世界の舞台での評価につながっている。
現地にいる立場として感じるのは、シンガポールの現代アートには、若い才能だけでなく、長年活動を続けてきた作家たちの蓄積があるということです。これは、案外見落とされがちな強みだと思っています。
■インフルエンサーが、商品づくりに関わる時代
一方で、まったく別の角度から「役割の更新」を見せてくれた事例もあります。
シンガポールのファッションインフルエンサー、サリーナ・チャイさんは、インドネシアのブランド「Gemme Clothing」と組み、2026年4月24日にコラボコレクション「City Romanticism」を発売しました。
ここで注目したいのは、彼女の関わり方です。従来であれば、インフルエンサーの役割は「商品を着て紹介する=宣伝担当」でした。ところが近年、シンガポールや東南アジアの小規模ブランドでは、インフルエンサーが商品開発にも関わるケースが目立つようになっています。つまり、「発信する人」から「つくる人」へ。クリエイターの役割の線引きが、少しずつ変わり始めているのです。
■ 小さい市場だからこそ、協業の余地がある
ここで一点、現地の肌感覚を添えておきます。
東南アジアの個人ブランドや小規模ブランドは、世界的に見ればまだ市場規模が小さいのが実情です。ただ、僕はそれを必ずしもマイナスだとは捉えていません。
規模が小さいということは、「誰に向けて売るのか」を明確にしやすいということでもあります。大手のように万人受けを狙う必要がない分、特定のファンに合う商品設計ができる。そして、その「誰に向けて」を最も体感的に知っているのが、フォロワーと日々向き合っているクリエイター本人なんです。
だからこそ、東南アジアの小規模ブランドにとって、クリエイターとの協業は単なる宣伝施策ではなく、商品づくりのパートナーシップとして真剣に検討する価値がある。僕はそう考えています。
■最後に
ベテラン作家が30年前の作品を更新し、若手インフルエンサーが宣伝から開発へと役割を更新する。世代も領域も違う2人ですが、共通しているのは「立ち止まって自分の表現を捉え直し、今の文脈に接続し直している」ということです。
流行を追いかけることも大切です。でもそれ以上に、自分が信じるテーマを、時代と場所に合わせて更新し続けられること——こうした姿勢は、クリエイターが長く活動し、国際的な場でも見られていくための大切な条件の一つではないかと、シンガポールにいて改めて感じています。2026年、ここから先も面白くなりそうです。
■フェローズシンガポールの活動について
私たちFELLOWS CREATIVE STAFF SINGAPORE(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。
ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。
もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。
課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。
詳細はプロフィールよりご覧いただけます。皆さまからのご連絡をお待ちしています。
参照リンク
・Venice Biennale 2026(Singapore Art Museum)
https://www.singaporeartmuseum.sg/art-events/exhibitions/venice-biennale-2026
・Are influencers the new designers?(The Straits Times)
https://www.straitstimes.com/life/style/are-influencers-the-new-designers-fashion-brands-tap-singapore-content-creators-for-collections
・サリーナ・チャイ(Instagram)
https://www.instagram.com/salinachai/

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