才能が生まれる季節——シンガポールの映像・アニメ・ゲームの現場から
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。
前回はベテラン作家とインフルエンサーという「すでに活躍している人たち」の話をしました。今回は、「これから出てくる才能」と、その受け皿になる産業の話をしたいと思います。6月のシンガポールは、卒業制作を終えた若いクリエイターが現場へ流れ込んでくる季節。現地で見ていて、僕がいま面白いと感じている動きをまとめます。
■ 600点の卒業制作が並んだ「The LASALLE Show」
5月21日から6月3日にかけて、現地の名門芸術大学 LASALLE College of the Arts の卒業展「The LASALLE Show Exhibition 2026」が開催されました。
このイベントは、デザイン、ファインアート、映像、アニメーション、アートセラピーといった多種多様な分野を学んだ卒業生たちの作品が600点以上並ぶ、毎年恒例の大規模ショーケースです。
映像分野では「AVANT Premiere」という上映イベントも組まれ、卒業制作のフィクション映画やドキュメンタリーが披露されました。
僕がこうした卒業展に注目するのは、単純に作品が面白いからだけではありません。ここに並ぶのは、半年後・一年後にこの街のクリエイティブ産業を支えていく「次の担い手」だからです。現地にいると、この時期の街には毎年、才能が一斉に解き放たれるような独特の高揚感があります。
■映像・アニメの裾野が、静かに広がっている
そんな優秀な才能の受け皿となる産業側も、近年は確実に厚みを増しており、特に伸びを感じるのがアニメーション領域です。
シンガポールではSuperPixel、Omens Studios、Robot Playground Media、One Animation といった独立系スタジオが育ち、広告・配信・オリジナル作品と活躍の幅を広げていますが、彼らの成長を象徴する出来事が、2026年8月に公開予定の『The Violinist』です。
この映画はシンガポール発の長編歴史アニメーション作品で、日本占領期を生きた人々の暮らしを描いた作品とされています。エンタメとしてだけでなく、自国の歴史を自分たちの手でアニメーションにするという挑戦は、「オリジナルIP(知的財産)を生み出す力」が現地に育ってきた証だと、僕は受け止めています。
背景には、IMDA(情報通信メディア開発庁)による継続的な支援があります。支援内容は助成金だけでなく、企画開発のメンターシップ、海外配信事業者や制作会社とのマッチング、人材育成などがあり、ローカルスタジオが受託制作にとどまらず、自分たちのIPを持ち、海外へ展開しやすい環境が整えられてきたのです。
■ゲーム産業は”二層構造”で動いている
もうひとつ、現地で存在感を増しているのがゲーム産業です。シンガポールのゲーム産業は、大きく二層に分かれていると感じます。
ひとつは、Virtuos や Ubisoft Singapore に代表される大規模スタジオ。世界的なフランチャイズの開発・制作を担い、AAA級のタイトルに関わる層です。ふたつ目が、少人数で独自の世界観を追求するインディースタジオ。レトロな表現や特定ジャンルに尖った”現代の名作”を、小回りを利かせて世に出していく層です。
興味深いのは、若い世代の中に、大手に入ることだけを目標にせず、「自分の作品を、自分の手で早く世に出したい」と考えてインディーの道を選ぶ人たちがいることです。創作のオーナーシップ、つまり作品づくりの主導権を重視する。この価値観の変化は、前回お話しした「クリエイターの役割の更新」とも通じる流れだと感じます。
■才能は生まれている。問題は「つなぎ方」
ここまで明るい話を並べてきましたが、現場で仕事をしていると、ひとつの課題も見えてきます。それは、「才能が生まれること」と「才能が活かされること」は、別の話だということです。
LASALLEの卒業生のように優れた作り手は毎年生まれており、産業の受け皿も確かに育っています。それでも、「才能はあるのに、最初の機会につながらない」という声は、シンガポールでもまだまだ聞こえてきます。アニメ・映像・ゲームのように分業とチーム制が前提の領域では、誰とどう組むかが、その人の最初の一歩を大きく左右します。
だからこそ、僕たちのような人材のプロが間に立つ意味があると思っています。生まれた才能を、それを必要としているプロジェクトや企業へ、丁寧につなぐこと。これは現地のネットワークを持つ立場だからこそできる役割だと考えています。
■最後に
6月といえば新緑の季節。シンガポールは、卒業展の熱気が落ち着き、新しい才能がそれぞれの現場へと散っていく季節です。アニメもゲームも、この街では「これから」の産業。完成された業界ではないからこそ、入り込む余地も、一緒につくる余地もたくさんあります。
生まれてくる新芽と、それを求める企業を、どうつないでいくか。2026年後半も、僕たちはその真ん中で動き続けたいと思っています。引き続き当コラムをよろしくお願いいたします。
■フェローズシンガポールの活動について
私たちFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。
ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。
もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。
課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。
詳細はプロフィールよりご覧いただけます。皆さまからのご連絡をお待ちしています。
※参照リンク
・The LASALLE Show 2026(LASALLE College of the Arts)
https://www.lasalle.edu.sg/events/the-lasalle-show-exhibition-2026/
・Top 10 Animation Studios in Singapore(SuperPixel)
https://superpixel.sg/blog/top-10-animation-studios-in-singapore/
・シンガポール経済開発庁
https://www.edb.gov.sg/ja.html

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