シンガポール建築の現在地|MBS拡張・緑化・省エネに見る次の都市デザイン

Vol.67
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
Junya Oishi
大石 隼矢

Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。

いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。ここ数回はクリエイターや映像・ゲーム分野の話が続いたので、今回は少し視点を変えて、この街の「建築」の話をしたいと思います。

2020年9月にシンガポールに移り住んでから、僕はこの国の風景や街並みが少しずつ、でも確実に進化していくのを現地で眺めてきました。シンガポールの建築は、限られた国土で人口増に対応するため「高密度化」と「近未来的なデザイン」をテーマにしていますが、現在進んでいるプロジェクトを見ていると、シンガポールの建築デザインは次の段階に入ってきたと感じます。皆さんにもその面白さをお裾分けしたいと思います。

国の象徴を建て替えるのではなく、更新する:マリーナベイ・サンズ2030

シンガポールと聞いて、あの3本の柱に船が乗った建物「マリーナベイ・サンズ(MBS)」を思い浮かべる方は多いと思います。そのMBSに、2030年竣工予定で第4のタワーが加わる計画が進んでいます。

設計を担当するのは、イスラエル出身の建築家モシェ・サフディが設立した国際的な建築設計事務所「サフディ・アーキテクツ」です。570室のスイートを備えた55階建てのタワーは、湾に対して45度ひねった配置で、海峡までを見渡すパノラマを取り込むそうです。屋上には「Skyloop」と呼ばれる約7万平方フィートの巨大空間が乗り、魚のウロコのような金属パネルで覆われる。さらに足元には、15,000席のアリーナと約20万平方フィートのMICE(会議・展示)スペースが設けられる予定です。総事業費は80億ドルと報じられています。

 

「新しい派手なビルを一棟建てる」話ではなく、すでに国の象徴になっているランドマークを、壊さずに増築するという発想は、以前のコラムで書いた「表現を更新し続ける」という話と似たものを感じました。

緑を「足す」のではなく「組み込む」:パークノヴァ

もうひとつ、僕が個人的に唸ったのが、大型ショッピングモールや高級デパートが立ち並ぶ、同国随一の繁華街・オーチャード近くに建つ高層住宅「パークノヴァ(Park Nova)」です。ロンドンのPLP Architectureが手がけた、21階建て・54戸の建物となっています。

「緑の多い高級マンション」と聞くと、屋上やバルコニーに植栽を足したものを想像するかもしれませんが、この建物のバルコニーは0.5〜3メートル近く張り出しており、約70%の日射を遮る設計になっているそうです。深いテラスは装飾ではなく、熱帯の強い日差しをコントロールする機能そのものになっており、おかげで壁を透明なガラスにしても室内が焼けず、光と眺望を諦めなくて済みます。

緑を後から貼り付けるのではなく、建物の骨格に最初から組み込む。「都市の中に自然を入れる」というシンガポールらしいテーマが、ここまで構造レベルで突き詰められているのかと素直に感心しました。

自然の中で、エネルギーを使わない建築へ:マンダイとThe GEAR

高密度な都心だけがシンガポール建築ではありません。動物保護区マンダイの森の中には、「マンダイ・レインフォレスト・リゾート」(バンヤンツリー、設計はWOW Architects)が生まれました。自然換気の廊下やロビー、客室の混合空調などパッシブデザイン(※)を徹底し、エネルギー消費を約40%削減。シンガポール初の”スーパー・ロー・エネルギー・リゾート”だそうです。「涼しさ=エアコン全開」だと思っていた自分の常識が少し恥ずかしくなります(笑)。

※パッシブデザイン:エアコンなどの機械に頼らず、太陽の光や熱、自然の風といった自然エネルギーを最大限に活かして快適な室内環境をつくる建築設計手法

なお、同じ思想は商業建築にも広がっています。

日系ゼネコン・鹿島のアジア統括拠点「The GEAR」は、2026年のASHRAE Technology Awardsで「新築商業ビル」部門の第1位を受賞。シンガポール所在の建物としては初の快挙だそうです。

8,000個以上のセンサーを用いて建物の運用を最適化し、自然通風を活かすことで、基準比で45%の省エネを実現しました。半屋外の「K/PARK」など、日本のものづくりが熱帯の気候と真正面から向き合った結果だと感じます。

建築もまた、ひとつの「クリエイティブ」である

ここまでのプロジェクトを並べてきてあらためて思うのは、建築というのはこの国で最もスケールの大きな「クリエイティブ」なのだということです。

ランドマークをどう更新するか。緑と暮らしをどう調和するか。涼しさをどう自然から得るか。そのどれもが、答えのない問いに対する”デザイン”の勝負です。そして実際、こうした建築を世に届けるまでには、コンセプトを言語化するライター、完成予想を描くビジュアライザーやCGアーティスト、街の記憶とブランドをつなぐアートディレクターなど、実に多くのクリエイターが関わっています。建築の裏側には必ず「表現する人」たちの仕事があるんですね。

現地にいる立場として感じるのは、シンガポールの街づくりが「機能」だけでなく「物語」や「体験」を強く意識し始めているということ。それはそのまま、クリエイティブ人材の出番が増えているということでもあります。

■最後に

街並みや風景は、その国が「次に何を大事にしたいか」を映す鏡だと思います。いまシンガポールの建築が語っているのは、「大きくて速い都市」から「賢くて心地よい都市」への静かな移行なのかもしれません。

僕たちフェローズは建物そのものを建てるわけではありません。でも、その建物や街に命を吹き込む「表現」の部分では、必ず力になれると信じています。2026年後半も、この街のかたちが変わっていく現場を、現地からお伝えし続けたいと思います。引き続き当コラムをよろしくお願いいたします。

Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.の活動について

私たちFellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。

ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。

もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。

詳細はプロフィールよりご覧いただけます。皆さまからのご連絡をお待ちしています。

 

※参照リンク

・Marina Bay Sands 2030(Safdie Architects)https://www.safdiearchitects.com/projects/marina-bay-sands-2030
・Park Nova, Singapore(Wallpaper)https://www.wallpaper.com/architecture/plp-vertical-garden-park-nova-singapore
・Mandai Rainforest Resort by Banyan Tree(v2com newswire)https://www.v2com-newswire.com/en/newsroom/categories/commercial-architecture/press-kits/2993-02/mandai-rainforest-resort-by-banyan-tree
・The GEAR、ASHRAE Technology Awards 2026受賞(鹿島)https://www.kajima.co.jp/english/news/info/20260316.html

プロフィール
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
大石 隼矢
1990年 静岡県焼津市生まれ。2012年 京都外国語大学 卒。2010年カナダ・ウエスタンオンタリオ大学へ交換留学。2012年株式会社フェローズ入社。2020年4月にフェローズ初の海外拠点であるFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.の責任者に就任。シンガポール国内のクリエイティブ人材や専門職人材に特化した人材マネジメントサービスを提供している。
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