最新版【2026シンガポールクリエイティブトレンド】 街アート・メタバース・映像祭にみる新たな動き

Vol.63
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
Junya Oishi
大石 隼矢

Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。

いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。今回は少し趣向を変えて、最近のシンガポールで個人的に気になっているクリエイティブな動きをまとめてみたいと思います。テーマはずばり「アートと技術の融合、そして担い手の育成」。メタバース、若手映像クリエイターの育成、都市型アートイベントと、最近はシンガポールで多様な動きがありますが、それらはバラバラに見えて、実は同じ方向を向いているように感じているんです。

街全体がアートになった1月のシンガポール

年明けのシンガポールは、アートで溢れていました。

中心となったのは、「Light to Night Singapore 2026」と「Singapore Art Week 2026」のふたつ。どちらも美術館の中だけで完結する催しものではなく、街の建物や広場、文化施設が会場になり、歩きながら作品に出会える屋外ギャラリーのような仕掛けになっていました。

東南アジアの19世紀〜現代アートを専門とする世界最大級の美術館であるナショナル・ギャラリー・シンガポールにはプロジェクションマッピングが映し出され、博物館をはじめとする機関が一体となったコラボレーションが実現しました。

正直なところ、「光を見るだけの展示会かな?」と思っていたのですが(笑)、実際に歩いてみると全然違いました。というのも、本イベントはただ「見る」だけのイベントではなく、「参加する」設計になっていたんです。

どちらのイベントも双方向的なワークショップや参加型インスタレーションアート(※)が多く、気づいたらアートの中にいる感覚でした。

※インスタレーションアート:特定の場所に作品や装置を配置・構成し、空間全体を一つの「体験」として表現する現代美術の手法

現地にいる立場として感じたのは、「アートの入口が確実に広がっている」ということ。クリエイターでなくても、ビジネスパーソンでも、観光客でも分け隔てなく巻き込んでしまう設計は、シンガポールが長年かけて意図的に作ってきた文化だと思います。

メタバースで次の観客を育てる

そのシンガポールのアート戦略をもう少し広い視野で見ると、もう一つ興味深い動きがあります。それが、シンガポール国立芸術評議会(NAC)が推進する「プロジェクトアートメタバース」です。

これはシンガポールの芸術政策「Our SG Arts Plan 2023-2027」のもとで始まった取り組みで、官民連携の形で進んでいます。目標はシンプルで、仮想空間を通じて若い世代にアートを発見させること。

現在進行中のプロジェクトがどれも面白く、たとえば「Macbeth on Roblox」は、若い利用者が多いゲームプラットフォームRoblox(※)上で、シェイクスピアの『マクベス』をゲームとして体験できるようにしたものです。

そのほかにも、「AfterForms」というプロジェクトでは、シンガポールのアーティスト4組が、気候変動や環境の喪失をテーマにした仮想空間作品を発表しました。

さらに、音楽フェス「Baybeats」をRoblox上に展開する計画も進んでいます。こうした事例を見ると、オンライン空間が単なる宣伝の場ではなく、作品に触れる最初の入口として使われていることがわかります。

※Roblox:ユーザーが作成した数千万以上の3Dゲームを無料でプレイ・共有できる、世界最大級のオンラインゲームプラットフォーム

個人的に「Macbeth on Roblox」という発想が刺さりましたね。シェイクスピアとRoblox。全く交わらなさそうな2つが、「若者にアートを届ける」という一点でつながっている。

メタバースを「娯楽」ではなく「文化の入口」として活用するこの発想は、クリエイティブ産業の担い手の裾野を広げるという意味でも、非常に示唆に富むアプローチだと感じています。

皆さんの中には「メタバースはもう下火では?」と思っている方もいるかもしれません。ただ少なくともシンガポールでは、メタバースをエンタメとしてではなく「アート教育のインフラ」として仮想空間を位置づけているように見えます。この文脈は少し独特で、現地ならではの視点だと思います。

映像の担い手を育てる「SYFF 2026

そしてもう一つ、僕がここ最近ずっと気になっていたのが、映像祭「SYFF(Singapore Youth Film Festival)2026」。1月29日から2月8日に開催されたこのフェスティバルは、35歳以下の若い映像クリエイターに特化したイベントであることが特徴です。

イベントの施策には、若手映像クリエイターを対象にした育成枠があり、そのうち最大5人に対して、1万シンガポールドルのシード資金、1対1のメンタリング、配信・上映・宣伝につなぐ支援が用意されています。

「映像を作りたい」という若者に対して、お金とノウハウと場を同時に提供する。

僕の仕事柄、映像職のクリエイターと多くお会いするのですが、「才能はある、でも機会がない」という声は日本でもシンガポールでも共通して聞こえてきます。SYFFのような仕組みは、その課題にダイレクトに応えるものだと思っています。

ちなみに応募対象はシンガポール在住の学生・若手に限られるのですが、こういった制度が整っていること自体、シンガポールが若いクリエイターを本気で育てようとしている姿勢の表れだと感じています。

バラバラに見えて、同じ方向を向いている

「Light to Night」「Project Arts Metaverse」「SYFF 2026」

一見バラバラなこれらの動きに、僕は同じ文脈を感じています。それは、「アートを特別な人のものにしない」という意志です。

街をキャンバスにして市民を巻き込む。

メタバースで若者にアートへの入口を作る。

映像の夢を持つ若者に資金とメンターをつける──

どれも、クリエイティブを「見る・受け取る」だけでなく、「関わる・作る」側に引き込もうとしている。

現地にいて強く感じるのは、シンガポールがここ数年、こうした文化的な裾野の拡張に本気で投資しているということです。そしてそれは同時に、この街で動けるクリエイターへのチャンスが着実に広がっているということでもあります。

最後に、3月のシンガポールは、1月の熱量が少し落ち着いた分、次の動きを静かに準備しているような空気です。アートと技術と教育が交差するこの街で、2026年はまた一段おもしろい一年になりそうだと感じています。

引き続き当コラムをよろしくお願いいたします。

フェローズシンガポールの活動について

私たちFELLOWS CREATIVE STAFF SINGAPORE(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。

ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。

もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。

課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。

詳細はプロフィールよりご覧いただけます。皆さまからのご連絡をお待ちしています。

参照リンク

■ Project Arts MetaverseNAC

https://www.nac.gov.sg/singapore-arts-scene/technology-and-innovation/project-arts-metaverse

 

■ SYFF 2026Singapore Youth Film Festival

https://syff.sg/singapore-youth-film-festival-2026

 

■ Light to Night Singapore 2026

https://www.nationalgallery.sg/sg/en/festivals/light-to-night-singapore-2026.html

 

■ Singapore Art Week 2026

https://www.visitsingapore.com/ja_jp/festivals-events-singapore/annual-highlights/singapore-art-week/

 

プロフィール
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
大石 隼矢
1990年 静岡県焼津市生まれ。2012年 京都外国語大学 卒。2010年カナダ・ウエスタンオンタリオ大学へ交換留学。2012年株式会社フェローズ入社。2020年4月にフェローズ初の海外拠点であるFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.の責任者に就任。シンガポール国内のクリエイティブ人材や専門職人材に特化した人材マネジメントサービスを提供している。
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