家を歩く? Do Ho Suh 前編 @Tate Modern

Vol.156
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Public Figures 2025   Do Ho Suh

通常銅像などが建つ台座。それを支えているのは?


Public Figures 2025   Do Ho Suh

たくさんの人、人! よく見ると足が動くように細工されていることがわかります。その隣には映像が展示してあり、この人々が足踏みを揃え、テイトに台座を搬入している様子が映し出されています。まるでそれはピラミッドのような巨大建築を人力で構築しているようです。


Who Am We? 2000 Do Ho Suh

台座の後ろの壁紙はドット模様が描かれ、目ざとい子供達が通り過ぎる親に「これ人の顔だよー。」と叫んでいます。そう、壁一面のドットは実は小さな人の顔写真!これらは韓国生まれ、現在ロンドンに拠点を持つ美術家 Do Ho Suhの作品。(第137回のグループ展で紹介)今回はテイトモダンより、今回と次回の2回に分けてDo Ho Suhの個展「Walk the House」をお伝えします。


Nest/s  2025 Do Ho Suh

ギャラリーに入るとDo Ho Suh(以下、Suh)の作品でおなじみの韓国の伝統的な裁縫技法を用いて制作された建築物のトンネル。中を歩いてみます。


Nest/s  2025 Do Ho Suh

ロンドンのスタジオの壁でしょうか。コンクリートブロックの壁に消火器が取り付けられています。


Nest/s  2025 Do Ho Suh

こちらは韓国の家の玄関のドア?


Nest/s  2025 Do Ho Suh

トンネルを抜けると反対側はこんな感じ。見ると様々な様式の建物が組み合わされていることがわかります。「Nest/s」は、ソウル、ニューヨーク、ロンドン、ベルリンの建物の部屋や空間の一部を縫い合わせて作られています。それらを繋ぎ合わせることで、レゴのような、あり得ない建築、世界の都市の空間を巡るトンネルを作り上げています。Suhが「布地建築」と呼ぶこの建築は衣服のようにコンパクトに畳むことが可能。「幼少期の家をスーツケースに詰め込んで旅したい。」という自身の願望を実現しているのだとか。


Rubbing/Loving: Company Housing of Gwangju Theater 2012 Do Ho Suh

これらのパネルは建物の一部?実は1935年開館の韓国で最も古い単館シネマの一つと知られる光州劇場の壁を拓本したもの。1980年5月、韓国の光州で民主化を求める学生主導の抗議活動、光州事件が起こり、軍事政権がこれを暴力的に弾圧しました。「Rubbing/Loving: Company Housing of Gwangju Theater」の制作のため、Suhは市民の避難所になったのであろう劇場の内壁に紙を貼ります。そして自身とアシスタント達ともに、当時の人々の恐怖の共有を試みるため、あえて目隠しし、手探りでグラファイトを擦り付けました。この共同作業は多くの犠牲者を出した事件への追悼の儀式のようなものになったとSuhは言っています。ちなみに目隠しでの作業だったため、一箇所だけなぜか誰も触れない壁の一部が残ったのだそう。


Haunting Home 2019 Do Ho Suh

様々な色の糸で描かれているのはSuhが子ども時代に住んだ韓国の家。この家をカタツムリの殻のように何処へでも持っていきたいという思いから生まれた作品。


「Rubbing/Loving:Seoul Home」2013-2022 Do Ho Suh

こちら「Rubbing/Loving:Seoul Home」も先ほどのドローイング作品で出てきたSuhの子ども時代の韓国の家がモデル。


Do Ho Suhの子供時代の韓国の家

家は韓屋と呼ばれる朝鮮王朝初期(1392-1910)に遡る建築様式で建てられています。Suhの両親は1970年代にこの家を建てました。Suhは1991年に韓国を離れ、アメリカに移住した後、「家」という概念を探求し始めました。幼少期を過ごした家は、彼の作品を通して繰り返し現れています。

「Rubbing/Loving:Seoul Home」の制作過程

「Rubbing/Loving:Seoul Home」では、Suhは再び韓国の家を​​訪れます。まず、外壁全体を紙で覆いそして、その表面をグラファイトで丁寧に擦り付けます。


「Rubbing/Loving:Seoul Home」の制作過程

彼はこのプロセスを、喪失感と混ざり合った「愛情のこもったジェスチャー」であると表現しています。Suhにとって、擦り付け作業は立ち会い行為であると同時に「記憶が実際にどこにあるのか」を探求する行為でもあるといっています。


「Rubbing/Loving:Seoul Home」の制作過程

「Rubbing/Loving:Seoul Home」の制作過程

 

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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