建てたて?建設中?@Drawing Room

Vol.137
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Drawing Room入り口。地下鉄バーモンジー駅から徒歩10分。

南ロンドン、バーモンジーの倉庫街の一角に現れたのは建てられたばかりの白亜の街並み。旗のようなドローイングが掲げられた鉄のゲートを抜け、右手にあるDrawing Roomへ。今回はこの移転して再開館したばかりのDrawing Roomのギャラリーからグループ展、「Unbuild」をお伝えします。(移転前の前回の紹介はこちら第60回をどうぞ) 展示のテーマは建物との物理的、心理的な関係をそれぞれのアーチィストが探索するというもの。


「ScaledBehaviour_drawing (doorknob_elevation_40_D_01_overlay) 2022」Do Ho Suh

まず目に入るのは臓器を描いたような繊細なドローイング。


「ScaledBehaviour_drawing (HomeWithinHome_elevation_F_01) 2023」 Do Ho Suh

こちらは建物の中央に蜘蛛の糸のようなものが張り巡らされ、それは何かが中で育っている巣のようにも見えます。


「ScaledBehaviour_drawing (HomeWithinHome_isometric_E_01) 2023」Do Ho Suh

今度は大きな西洋建築の中にくすぶるような小さな東洋風の家。
これらシリーズは、布で作られた建築のインスタレーションで知られる、韓国生まれで現在ロンドンを拠点とするDo Ho Suhのドローイング作品。実はこれらを描いたのはロボット。作家自身のドローイングをもとにソフトウェアロボットに描かせたもの。ロックダウン中に製作されたこれらの作品ですが、最初の作品のサブタイトルにはドアノブ?とあります。外出したくてもできないジレンマがドアノブをこんなはらわたに作り上げてしまったのでしょうか。


「Fossa 2023」  Emily Speed

建築土台に不向きな粘土や石膏で作られた建築物。その柱の1つは足に突き刺さっていてなんだか痛々しく、編み込まれ引き伸ばされた布の端は指になっていて、頼りない構造を必死で支えているよう。現在、英国の住宅不足問題は深刻化しています。特にロンドンでは著しく、英シンクタンクによれば、数家族での部屋のシャア、ホステル、ホテルやシェルター(避難所)などを含む仮住まい世帯の割合は全体の59%にも達しているといいます。Emily Speed の作品タイトルの「Fossa」は解剖学用語で骨などにできた窩(あな)を意味しています。


「Endnote limb, yellow sag 2023」   Ian Kiaer

小部屋から這い出てきたのは巨大なナメクジ!?そのツノは天井に突き刺さっています。黄とクリアーのビニールシートは建築現場で使用されていたもので建設が終われば用済み。Ian Kiaerはそんな素材を集めて継ぎ合せ、空気を吹き込み、巨大なモンスターに仕上げています。


「A Tower to Say Goodbye 2021」  Tanoa Sasraku

宙に浮かび、聳え立つのは幾重にも重ねられ、縫い合わされ、引き裂かれた紙の立体。その色合いは生ハムのようなピンク色!


「A Tower to Say Goodbye 2021」(詳細)  Tanoa Sasraku

ロックダウン最中の数ヶ月、とある集配郵便局で製作を行うことになったTanoa Sasraku。Sasrakuはガーナで亡くなったファッションデザイナーの父親を切に思い、父親が丁寧に生地を選択しながら服を縫っていたように、紙を一枚一枚染め、ミシンで縫い合わせていきました。作品は真ん中をまるで感情の嵐が突き抜けていったかのように割かれ、紙の層は剥けたばかりの皮膚のように赤く痛々しく捲れています。

90年代にアーチィストたちによって設立され、バーモンジー付近を中心に移転を重ねてきたDrawing Room。ギャラリーのみでなく、ドローングに関する図書室も伴設します。訪れた10月末のこの日はワークショップなどを行う教育ルームを隣に建設中で、また次回訪れるのが楽しみです。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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