職種その他2026.06.10

ロンドンオリンピックから14年、跡地に出現した文化拠点 @V&A East 前編

Vol.168
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

V&Aイースト博物館

今回やってきたのはイーストロンドン、ストラトフォード。ウェストフィールドショッピングモールを抜け、向かったのはクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに今年4月にオープンしたばかりのV&Aイースト博物館

イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(略称V&A)は、応用美術、装飾美術、デザインの世界最大の博物館であり、280万点を超える常設コレクションを所蔵しています。V&A博物館のコレクションは、サウスケンジントンの本館と5つの分館を含むイギリス国内の6つの施設に分散して収蔵されており、V&Aイーストはその中でも最も新しく開館した分館の1つ。

このコラムが始まったのが2012年ロンドンオリンピックの年(最初の取材はオリンピック開会式の当日)なのでその跡地にできた博物館を訪れることになるとはまさに光陰矢の如し。

折り紙彫刻のような建築はO’Donnell + Tuomey。2017年にクチュリエの巨匠クリストバル・バレンシアガの大規模な展覧会がV&A博物館で開催されました。展示においてキュレーターはバレンシアガが日本の独特の「間(ま)」という概念、つまり「空間」をどのように用いたかに注目しました。
O’Donnell + Tuomeyは、そのバレンシアガの彫刻的な仕立て、特に衣服と身体の間の空間としての「間(ま)」へのこだわりから建築のインスピレーションを得たといいます。

 


Heads! Look to the workers, 2026 Laura Wilson

 

中に入ってみます。ロビーのような空間に現れたのは?
作品はLaura Wilsonの「Heads! Look to the workers, 2026」今回のV&Aイーストオープン記念のコミッション作品のひとつ。

「荷役人、ドック日雇い、パン職人、織物職人、紡績職人、見本職人、そして電気…」こちらは、イーストロンドンの職人、労働者を称える3つの彫刻作品に刻まれたLaura Wilsonの詩の冒頭の一節。


Heads! Look to the workers, 2026 Laura Wilson。

よく見るとケーブルで繋がれていて操作できるようになっています。V&Aイーストのチームによる「Heads (頭を上げて)!」という掛け声に合わせた操作で動き出します。ドックや劇場で使われるような昇降システムによって上下する動きは、交代勤務のパターンや、近くを流れるテムズ川の潮の満ち引きを反映しているそう。

落ちてくる緞帳?の中に入ってみたかったのですが、スタッフに聞くとこの日の昇降はなし。現在行われているのは平日の特定時間のみなので行く前に要確認。

 


一階、常設展のギャラリー

最初のギャラリーに入ってみましょう。こちらは常設展で、定期的に展示が入れ替わります。広々とした吹き抜けの空間はデパートのショールームのよう。

 


Daria dress 2019 Molly Goddard

ひときわ目を引くピンクのドレスはMolly Goddardの2019年のコレクション「Daria dress」。展示室の作品解説によると女性の包み込むようなオーラを表現したドレスはなんと60メートルもの生地を使用。このドレスはビヨンセのミュージカル映画『Black is King』(2020年)で着用されています。ビヨンセは映画の中でドレスと同色のピンクのターバンを巻いてこのドレスを着用し、可憐なドレスに圧倒的な力強さを加えています。

 


Portrait of Melissa Thompson from ‘The Yellow Wallpaper’ series, 2020
Kehinde Wiley

ナイジェリア系アメリカ人作家のKehinde Wileyは、東ロンドン、ハックニーの庶民市場リドリー・ロード・マーケットでハックニー在住のメリッサ・トンプソンと出会いました。(リドリー・ロード・マーケット懐かしいですね。近くに住んでいた時よく行きました!)「自分みたいな人を見つけたいから。」と、彼はよく街で人に声をかけ、肖像画のモデルになってもらうそうです。Wileyの絵画は、黒人を排除してきたヨーロッパの貴族を中心とした肖像画の伝統を覆すかのようです。彼はその原画の形式を再構築することで、こうした肖像画に誰が描かれているのか、そしてなぜ描かれているのかという背後にある権力構造について疑問を投げかけます。

 


Because We Must のための衣装,1987 Leigh Bowery

これらは何のコスチューム?実はクラシックバレエ。オーストラリアの美術家、デザイナー、そして性的少数者活動家であったLeigh Boweryは、スコットランドの舞踏家で振付家のMichael Clarkのバレエ「Because We Must」のためにこれらの衣装をデザイン。Bowery は、Clarkの型破りで挑発的なバレエの解釈に合わせ、非常に派手な衣装を制作しました。彼は、ロンドンで自身が設立したディスコとフェティッシュのナイトクラブ「Taboo」でのパフォーマンスからインスピレーションを得たといいます。40年近く前のデザインですが、今見ても斬新。

 


Walthamstow Football Club home shirt with Yare design, 2023
Wood Street Walls

以前紹介しましたが、ウィリアム・モリス・ギャラリーは、モリスの育った家を改装した建物で、北東ロンドン、ウォルサムストウにあります。「地元の誰もが、モリスとの強い繋がりを感じている」と語る、ウォルサムストウを拠点とする美術家のグループWood Street Wallsの Mark Clack。そこで彼は、ウィリアム・モリス・ギャラリーと地元ウォルサムストウ・フットボールクラブに、新しいユニフォームのデザインを依頼するという画期的なコラボレーションを実現させます。このコレクションは、John Henry Dearleが1892年にモリス&カンパニーのためにデザインした「ヤーレ(Yare)」をアレンジしたもの。シャツの売上金は、本年度設立の女子サッカーチームの設立資金に充てられたのだそう。

 


Decorations for a Hackney home,1950 – 2000 Rod Hitchins

東ロンドンに生まれ、生涯住み続けたRon Hitchins。そして65年間マルバーン・ロード43番地を自宅としていました。独学の美術家の彼の特徴的なタイルは、自宅のバスルームを飾るためのDIYプロジェクトとして始まったといいます。「鍵や栓抜き、ボールペンなど、何でも使う。道具がシンプルであればあるほど、デザインは良くなる。」数十年にわたり、彼はさらに多くの部屋や家具を装飾し、自宅を芸術の空間へと変貌させました。その自宅の様子を見たい方はHitchinsのHPをごらんあれ。

多くの歴史的なコレクションも並ぶ中、より現代的な作品に焦点を当て紹介しました。それでは続きはまた次回!

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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