映画館と編成の関係

東京
映像ディレクター/取材ライター
秘密のチュートリアル!
野辺五月

夏映画のシーズンが始まりつつあります。
『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』や『Michael/マイケル』、『トイ・ストーリー5』など、洋画が珍しく健闘している昨今ですが、『キングダム 魂の決戦』も始まり、映画館は非常に賑わっています。
配信スタートとの兼ね合いや配給との取り決め、他の作品との兼ね合いから、ヒットしていても上映終了となるケースもあります。例えば『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』などは連日満席でしたが、TOHOシネマズでは一足先に20日上映終了となりました。
どんな作品がどんな形で残るのか、先の読めない状況となっています。春映画でいうと、思わぬ伏兵となった『プラダを着た悪魔2』のようなロングランもありました。

夏は特に『映画ちいかわ』『実写映画 モアナと伝説の海』などファミリー層に向けた作品や『スパイダーマン』の新作のように根強いファンダムを持った作品層もあり、ここから、どうスケジュールを立てるか映画館側の裁量が図られそうですね。

……と、ふと涌くのが「映画のスケジュールって誰が決めているの?」という素朴な疑問。今回はその映画の編成について、一般的な流れと、観客側もして予想できることをまとめてみようと思います。

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飲食店の席をうまく埋めるように、映画館も座席を埋めることで利益を出すビジネスです。 劇場に来てもらい、チケットを買ってもらって(そこに付随するパンフレットや飲食の売り上げもありますが)、初めて劇場側の儲けになります。 しかし、映画作品は配給会社により買い付けられ、それを劇場側が上映している仕組みです。

「ならばすぐ分かるのでは? スケジュールなんて簡単に決まるのではないの?」
そう思うかもしれません。
しかし、そう簡単な問題でもないのです。 「上映開始時間や上映回数は配給会社と劇場の協議によって決まる」ということ、また「実際に上映してみないと客足の動向が読めない」ことが大きな理由です。

現在、主要な映画館は基本的に「金・土曜日からの1週間」のスケジュールを、毎週火・水曜日あたりに順次公開し、ざっくり3日前にはチケットも買える……というシステムで動いています。 具体例を挙げますと、TOHOシネマズは火曜日、イオンシネマや松竹は火曜ないし水曜、109シネマズやユナイテッド・シネマも火曜……それぞれスケジュールがHPに掲載されます。 しかし、どれも基本は「1週間」単位(【金曜~翌木曜】ないし【土曜〜金曜】)です。

スケジュール発表になぜ火曜日が多いかというと、週末の興行成績(動員数)を見て、翌週の新作との兼ね合いを考えてジャッジする日が月曜日だからです。 映画館はどうしても週末が売り上げのピークになるため、週末の人気をベースに考えていくことになります。上映間隔については、ざっくり20~30分ほど清掃と入れ替えの時間を取り、営業時間の間に「何回回せるか」で1日の回数が決まっていきます。 シネコンに限らず、人気があれば何度でも上映しますので、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のように、そして今回の『映画ちいかわ』(初日41回上映)のように、驚異的なスケジュールを組まれることもあります。スクリーンについても同じ場所で1日何十回と……まるで過密ダイヤの電車のごとくかかることもあれば、別の作品と交互にかけることもあります。人気が落ちてきたら朝・夜のどちらか1回に絞ったりしていくというような流れで流動的に組まれていくのが映画の「編成」です。

シネコンの場合、特に配給も自社で兼ねているケース(松竹系なら松竹作品、TOHOなら東宝配給作品)は、当然その作品の比率が大きくなります。それ以外については、配給会社との取り決めがものを言います。 早ければ「最低2週間」と言われていますが、「動員に関わらず最低これくらいは上映する」という取り決めがあらかじめされている場合がほとんどです。前述した回数についても「1日最低○回はかける」と約束しているケースもあります。 同じように配給会社との兼ね合いで、公開初週については、その後の動向を決める大切な時期ということもあり、「メイン館(一番大きなスクリーン=収容人数が多い場所)で上映する」という約束事をする場合もあるようです。

これらの約束をベースに「では実際、どの作品をどれくらいかけるのか」を決めるのが、支配人や本部の担当者(編成担当)になります。
ちなみに単館系・ミニシアターの場合は、編成担当・支配人が決めるケースがほとんどです。中には、例えばシネマートの野村さんや、池袋シネマ・ロサの矢川さん・勝村さんのように、尖った編成で表に出て周知されている方もいます(※ロサはインディーズ向けの特別イベント、シネマートは「のむコレ」という野村さんの独断と偏見で選ぶ特別企画があります)。とはいえ、基本的には、表には出ず淡々と最も重要な役割を担っている編成。劇場にとっては、ただ作品のスケジュールを組むだけでなく、売店の売り上げ(混雑緩和)を考え、できるだけ上映開始時間を被らせたくないなど……細かい事情も踏まえたうえで、日々の推移を見て「どう売るか」をコントロールする大切なお仕事です。

そんな編成において、翌週のスケジュールを決めるためにファンの推移をチェックするポイントとしてよく聞くのが「最初の3日間」と「水曜日」です。 見込み客が多いと予想される話題作や人気シリーズ、人気キャストの作品であっても、最終的には初週の動員数がものを言います。大きなシアターの枠はあらかじめ決まっていることも多いため、「絶対に観たい映画がある人は初週を狙っていくのがおすすめ」というのが映画マニアの共通認識です。最近は“推し活”として興行収入に貢献するためにチケットを取る人もいますが、舞台挨拶付きの上映回で舞台挨拶だけ見て帰ってしまうという問題が出たりと、人気があったらあったで悩みも多いようです。

他にも、2週目などで爆発的な口コミ(バズ)が起きてヒットした場合、予想外にキャパシティが足りなくなるものの、他作品との兼ね合いで回数を増やせないケースもあります。
例えば『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』のように4DXで口コミが広がり、都心部で満席状態が続いたケースでも、あらかじめ初週枠として組まれていた他作品の上映スケジュールやプロモーションとの兼ね合いから、すぐには4DXの枠を拡張できないという編成上のジレンマが発生します。配給との事前約束(特に公開初週のメイン枠確保)を考えると簡単にスケジュールを動かせないため、ブームに乗って売れるところで売りたい映画館側としても非常にもどかしい部分です。(※ただ、こうした反響を受けて上映期間の延長や枠の再調整に動く劇場が出てくるのも、編成の面白さと言えます)

また人気作品ほど普段映画館に来ない客層が増えるため、マナーのトラブルや、隣を空けて座りたいからと2席購入して直前にキャンセルする人が出るなど、別の問題も発生します。かといって「週末の回数を増やしても平日はガラガラ」という状況も起こりえるため、本当にこのあたりの「塩梅」は大変だなと感じます。

最近はIMAXやDolby Cinema、4DXなど「上映規格」のパターンも増えているため予想がますます複雑化しており、1週間ごとのスケジュール更新ですらギリギリの選択なのだと分かります。その一方で、普段映画館に行かない方にとっては「なぜ早くスケジュールが出ないのか」不思議に思うのは当然で……このあたりで感情のすれ違いが起きるケースも見受けられます。

そんな週末に対して「水曜日」は、各社割引の効くサービスデイであり、週のど真ん中でもあります。そのため、ここは上映回数を減らすジャッジを下す際の大きな目安になると伺ったことがあります。ここで人が入らない作品は「週末のみの稼働」へ移行する……つまり、1週間通しての全体的な売り上げはこれ以上伸びないと判断されることになります。

これらの情報を総合的に考えると、おのずと、「上映がいつまで続きそうか?」の予測がつくようになります。

見解は様々ですが、まず「2週間は上映される」前提で考えた上で、1日の上映回数を見るのがおすすめです。 1日4回以上維持されている場合は、これまでの傾向としてあと2週間(公開から計1ヶ月前後)ほど上映が続くケースが多く見られます。2回(朝・夜)の場合、次の週には終了するか、朝のみ・夜のみに減枠されます。この際、レイトショーに大人が来る作品は「夜」に残りやすく、高齢者層に人気の時代劇・往年のスターが出る邦画・ミニシアター系洋画などは「朝型」にシフトしやすい印象です。反対に、デートムービーやアクション、幅広い年齢層にファンのいるアニメは「夜」に残りやすい傾向があります。(※劇場の立地や、その街の昼夜人口の分布によります)

また「字幕」と「吹替」は、場所によって得意とする映画館が分かれています。都心において両方の版がある場合、どちらを多く上映するかは明確な傾向があります。 例えばTOHOシネマズの場合、日比谷や日本橋は比較的に「字幕版」が多く、新宿や渋谷はバランスを取りつつも、ライト層が多いため「吹替版」の回数が多く設定される傾向にあります。この傾向は上映期間が終盤に入ったときに可視化されやすく、日比谷・日本橋では最後に「字幕版」が1回だけ残りやすいのに対し、新宿では最後に「吹替版」が残る……といったパターンが見られます。

なお、1日3回程度の上映数の場合は急に終了することもありますが、IMAXなどの特殊規格との兼ね合いで「特殊上映だけが生き残る」ケースもあります。観客側からは読みにくく、仮に「朝1回」で残ったとしても仕事などの時間を考えると実質見に行けないケースも増えるため、3回に減った時点で「観たい場合はすぐ見に行く」のが安全な予測ラインです。

ちなみに、シネコン以外の単館(ミニシアター)は支配人や編成の判断で期間を延ばせるケースも多く、1日1回でも長く残してくれることが多いです。その代わり毎週時間帯が変わったり、平日と土日で上映時間が異なったりするので、こまめなチェックが必要です。

ここまで細かくチェックするのは映画ファンくらいかもしれませんが、「映画館に行きたいけれど、いつの間にか終わってしまう」「あとどれくらい上映しているの?」と気になっている方は、ぜひこれらのポイントを参考にしてみてください。

特に公開最初の週は、都心の大型館を避けて少し場所をずらした劇場を狙ったり、混雑する週末は遅めの時間を狙ったりするのも賢い方法です。ニュースサイトやSNSで興行収入の動向を見て「今週はまだ残りそうだな」と予測を立ててみるのも、映画をより楽しむ一つの手かもしれません。

プロフィール
映像ディレクター/取材ライター
野辺五月
散らかった状況から「伝える形」にも手をつくす、取材・企画ディレクター。 ゲームのシナリオ執筆からキャリアを始め、「書いて、宣伝する」仕事へ。なぜか昔から、現場がバタバタしていたり、責任者がいなくなったりする“隙間”にすっぽりはまりがち。気づけば締切内に全体の構造を立て直す係を引き受けるうちに、今に至ります。VFX好き(SW命)。現在、メディア記事の企画・取材・構成、企業映像の台本制作・ディレクションをメインに活動。 ものを作る現場と広告の現場、双方の経験から「心を動かす設計」を重視しています。 得意ジャンル: アジア映画・ドラマ(タイ・華・台)、カルチャー全般、みんなで動くチームプレイ 特技: ひとり脳内会議 ➔ 徹底裏取り調査 ➔ 構造化・実働! ツール・AI: Pr / Ae / InDesign / PowerPoint / AIは現場でとっかえひっかえ実験中 スタンス: ロケ地より先に打ち上げの店を抑えるタイプ。

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