AI制作楽曲はどう扱うべきか、豪ではヒットチャートから排除決定

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから音楽鑑賞はやめられない
阪 清和

あなたはAI(人工知能)で創られた曲や歌詞を許せますか? いや、この質問はきちんと条件や前提を付けないと答えにくいだろうから、こういう聞き方にしよう。あなたは、AIで創られた歌をヒットチャートの対象とすることを許せますか?
はい(許せる)と答える人は、「いい歌を届けてくれるなら、生まれた過程はどうでもいい」と考える心が広い人。そして、いいえ(許せない)と答える人は「創作」という作団体「オーストラリアレコード産業協会(ARIA)」が新ガイドラインを設定し、AIで制作された楽曲をオーストラリアの主要音楽チャートから除外すると発表した。文学や絵画の賞では、既にAI創作の作品への授賞を排除する動きが日本を含む世界中で進んでいるが、音楽チャートからの排除はまだ聞き慣れないニュース。音楽が隆盛し、AIの開発が世界で最も進んでいる米国では具体的なAI創作物の排除はまだ議論の段階。今回のオーストラリアのいち早い決定に世界の音楽界が追従するかどうかが注目される。

業の尊さを何よりも重視し、「機械が創った歌を、人間が創った歌と同じ土俵に乗せるべきではない」と考える、きっと、そう正義感の強い人だ。

今年2026年8月末、オーストラリアの音楽業界

オーストラリアでは7月に、マドンナの「ライク・ア・プレイヤー」のカバー曲がオーストラリアのチャートで首位となったが、ボーカルやドラムにAIで生成した音楽の要素が使用されていたことが判明して波紋を呼ぶという出来事があり、業界が判断を迫られていた背景がある。
AIの進化にともなって、エンターテインメントの各ジャンルへのAIの導入も進み、これまで人間だけが担っていた「創作」の部分にも押し寄せているのが現状だ。 アマチュアのミュージシャンが楽曲を洗練させるためや、プロでも楽曲を受け入れられやすくする「ひと工夫」のために、AIを使用することには世間も目くじらは立てないだろう。

問題は、AIの使用によってキャッチ―なメロディーを生んだり、斬新なリズムアレンジなどが施されたりした楽曲になることによって、ヒットチャートの上位に入ったり、賞を受けたりする結果を生むことが非難されるべき部分なのだろう。
つまり、「不公平だ」と感じるからだ。本来は、聴いたこともないメロディーの展開やグッとくる歌詞フレーズを生み出すアーティストやクリエイターの音楽的・文学的センスがファンを惹きつけるものなのであって、古今東西の音楽やすべてのヒットチャート楽曲をディープラーニング(学習)させたAIが「最適解」として生み出す楽曲とではまともな勝負にはならないということだ。つまり「ずるい」のだ。

ある大手音楽配信企業の幹部が自社の配信サービスに新しくアップロードされる楽曲の3分の1以上が完全にAIによって作成されたものだと証言したとの記事が欧米では報じられているし、米の著名ヒットチャートでは昨年既に、AIで生成された楽曲がチャートインしている。人間とAIの共作によって生み出された楽曲も増えており、境界線は日々あいまいになりつつある。

こうした状況を受け音楽業界側もこの問題には神経質になっており、音楽配信大手のスポティファイは今年9月中旬から一部のプロフィールに「AIペルソナ」バッジの表示を開始すると8月11日に発表した。リスナーが、関心を持った楽曲の制作者が実在の人物であるかどうかについて判断できるようにするためだ。このバッジを⁠アーティストプロフィールのバナーや「About」セクションに加えるほか、検索画面やプレイリスト内の楽曲一覧にも表示する予定としている。
さらにアップルミュージック(Apple Music)が今年後半よりリスナーに対して、AIで生成された楽曲を識別する「Made With AI」ラベルを表示すると発表したと8月末に報じられた。ラベルが付与されるのは、楽曲、作曲、ミュージックビデオ、またはアートワークの実質的な部分の制作にAIが使用された場合となる。

進歩が目覚ましいAIをひとつのツールと考える人が増えれば、やがてはグラミー賞など主要音楽賞にもAI制作楽曲だけの部門はできるだろう。しかし、それでも人間が生み出すということに神秘性を感じて、主要賞からAI制作楽曲を排除して最後の「聖域」を守りたいと考える人たちがまだまだ多数派であることも事実だ。

ただすべては、近い将来のリスナーたちの決断にかかっている。

AIの代表格であるChatGTPが、「チャッピー」と呼ばれて若者の最も身近な相談相手になりつつある日本でも、聖域を手放す日が近付いているのかもしれない。
賞を与えるのはだめだけど、ヒットチャートに並ぶことは拒めない、という中間的な同意もあるだろう。

あなたも、そうした議論にできるだけ積極的に参加して意見を言ってほしい。当事者としてこの問題にかかわってほしいのだ。

写真は音楽とAIのイメージ

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、編集者として独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)や優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞、ATPテレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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