《インタビュー》東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門上映、『白の花実』の坂本悠花里監督、「どうしたら映画になるんだろうって、今でもずっとチャレンジしています」
東京国際映画祭(2025.10.27~11.5)の「Nippon Cinema Now」部門は、日本映画の新作を上映する部門として「海外に紹介されるべき日本映画」という観点を重視して選ばれた8作品が選ばれた。今後の日本映画を担う才能ある監督たちの中から、『白の花実』の坂本悠花里監督にインタビューしました。

――今回、東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門に選ばれた時の気持ちをお聞かせください。
自分自身も今、東京に住んでいるので、アジアンプレミアという形でこの映画祭に選ばれて、光栄に思うし、すごく嬉しいなという気持ちでした。

――タイトルにもありますが、映像の中でも白い花は象徴的によく使われていました。白い花が意味しているものとは?
白っていう色のイメージが、ちょっとイノセントなイメージもありつつ、なんかこうおばけ的な怖いイメージもあったり、空っぽなイメージもあったり、何にもそまらないっていうイメージもあったり。結構好奇心や想像力を掻き立てる色だなというのは思っていて、そういうイメージが少女たちの心にすごく似てるんじゃないかなと思いました。そして作中ではお花を象徴的に使っているという感じですね。

©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
――山に行くシーンにも白い花があったり、キャンパスの中庭でも白い花がありましたよね。
はい。美術の中條芙美さんが結構そこに対してこだわってくれて。私はあまりそこまでディレクションで細かく言ってないんですけど、ところどころポンポンポンと「白」を入れてくれて、それが効いてよかったなと思ってます!
――美術で言えば、宿舎のベッドカバーやファブリック、学校の制服がすごく可愛かったです!
ありがとうございます。中條さんが私と同じ年ぐらいの女性だったので、女の子の部屋ってこういう雰囲気だよね、と何も言わなくてもわかってくれていて、どんどんみんながつくって提案してくれました。
――制服があまり見ないタイプですよね。黄色いタイツとか。外に出る時はピンクのタイツだったり。その辺のこだわりもお聞かせください。
そうですね。衣装に関しては、普通の制服って考えもあったんですけども、普通の制服にしちゃうと、いわゆる女子中学生みたいにアイコン化されちゃったり、若干生々しさを私が感じちゃったりするなと。そっちで行くよりは、もう極端に言えば私服とか見たことがない制服にしちゃう方が、彼女たちの内面性だったり、人間性みたいなものに逆に入り込んでいけるんじゃないかなと思ったので、プロデューサーと相談して、雑誌のスタイリングをされてる「CLUEL」編集長・竹本さんがいいんじゃないかって。それであの形が出来上がっていきました。

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――ところで、物語の中に出てきますが、監督自身は霊感のような感覚はお持ちですか?
あ、実はなくて(笑)。ただホラーっていうのかな。いわゆるああいうちょっとファンタジーっぽいものだったりは、私の世代的にハリーポッターとかロードオブザリングとかが流行ってたんですよ。ああいう目に見えないものを信じるっていうような、小さい頃からそういうフィクションを見ていたので、なんかいいなあと考えていました。
――あ!だからなんですか。さっき上映後の質疑応答の時に監督が「おばけ」という言葉を使っていて、なんかそれがちょっと意外な感じがしていたんです。霊魂じゃなくて、おばけって言葉を使ってたので。今イメージが繋がりました。
そうなんです。どっちかっていうとファンタジーっぽい感じで捉えてたっていうのがあるかもしれません。

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――今回監督は、ティーンの女の子たちのどういった部分を特に描きたかったのでしょうか?
役者さんたちは、本当にリアルなティーンたちなんです。自分もそうだったんですが、すごくティーンの時って他人からの影響を受けやすい部分もあるし、でも逆にすっごく頑固な部分があったり。柔らかさと堅くなさみたいなものが両立しちゃってる年齢かなって思ってて。複雑な年齢だな、そういう部分を見せたいなっていうのがありました。
――実際、ティーンの子たちを撮影しながら、彼女たちの発言や行動で、印象に残っていることはありますか?
半年くらいダンスのワークショップや、脚本を読み込む演技のワークショップをやっていたので、 撮影に入る段階ではお互いに言いやすい環境になるように工夫していました。でも、やっぱり撮影が始まると緊張しちゃったり、私自身も緊張していたりとかで、大丈夫かなとは思ってたんですが。印象的だったのが杏菜さんと莉花さんのシーンで、2人の空気感が大事だけど、なかなかその空気感を出すのが難しくて。撮影時間の制限もある中で、どうやって声をかけたら、もうちょっとリラックスしてもらえるんだろうって思っていたら、2人が自分たちでなんとかしようという感じで、先に現場に入っていた杏菜さんが莉花さんに「大丈夫だよ」みたいな感じの雰囲気を出してあげて、莉花さんも「そうだよね」みたいな感じで打ち解けていって、いつの間にか雰囲気を作ってくれていた時に、自発的にやってくれている!2人に任せても大丈夫だな、と思って嬉しかったです。
――3人のメインの女の子がいますが、監督自身は3人の中で誰と一番近い部分を感じますか?
結構3人みんなに似てるんですけど、誰が一番近いんだろう・・・。栞ちゃんかな。ちょっと引いた部分で見ているっていうところで言うと、栞ちゃんが自分と結構近いのかなって思います。
――映画の中のシーンで、女の子たちのダンスチームが静止画のように動きは止まったまま話してるシーンが2回くらいありましたが、すごく印象的で、ガス・ヴァン・サントの作品が浮かびました。
ありがとうございます!ガス・ヴァン・サントが好きで、ガス・ヴァン・サントの撮るティーンがすごい好きなんですよね。

――それでは、この作品を通して監督が一番伝えたかったことはどんなことでしょうか?
これは結構企画の最初の段階から話していることなんですけど、ティーンエイジャーであったり、まあそうじゃなくても、自ら命を絶ってしまうということに対して、原因を探すことは必要な面もあるんですけど、それがちょっと過剰に行き過ぎて、世間がゴシップ的にこういう理由なんじゃないか、ああいう理由なんじゃないかってなっているのが、自分の中では、それってどうなんだろうと疑問を持っていました。
それぞれの人にいろんな思いがあって、命を絶つことを肯定するわけではないけど、やっぱりその人の思いの中で起きたことだから、その人が亡くなったとしても、死者の尊厳を守るという意味で、あんまり過剰に他の人がああだこうだっていうのって失礼なんじゃないかなってすごい思って。そういう部分は伝えたいことかなと思います。
――ところで監督自身は、どういうタイプの映画を観ますか?
結構幅広く観てるんですけど、監督のこだわりがある映画だったり、技術というか技法の中でチャレンジしよう!みたいな、今までとはちょっと違うことをやってみようという作品。あと、常識的なものじゃないかもしれないけど、言いたいことを言ってみようというような、チャレンジングな映画が好きです。
――初めて映画を観た記憶は?
アニメですかね。多分ジブリから始まってると思うんですけど、最初は両親に連れていってもらって、でも物心ついた状態だとなんだったのかなあ・・・。是枝監督の『誰も知らない』が、まさに自分がティーンの時に初めて観て、ちょっと普通の映画じゃない感触だなって思ったのは、一番最初かもしれない。
――監督になりたいと思ったのはいつ頃ですか?
高校生ぐらいですかね。それ以外に趣味がなかったので。音楽を聴くか映画を観るかみたいな感じでした。 ビデオを借りてきて、家で夜中ずっと映画を観て、内容がわかってるのかわかってないのかも全然覚えてないんですけど、その時間がすごく好きだったんです。
――観る側から撮る側では全然違いますよね。実際撮るようになってみて感じたことは?
そうですね。映画をつくるのって難しいなと思っています。私は最初から映画の制作の勉強をして映画の世界に入ったんじゃなくて、全然違うことを勉強して、自主映画で見よう見まねで始めていったので、何のカットが必要で、どういうものがあれば映画になるのか全然わからなくて、最初つくったものとか、本当にもう目も当てられないみたいな感じだったんです(笑)。でもなんか大変だけどこうやってつくっていくのって楽しいかもとか、編集って面白いな、とかっていう気持ちがずっと続いたまま、もうこの感じになっていて。でもまだ映画ってどうしたら映画になるんだろうっていうのは、今でも、ずっとチャレンジしていく感じなのかなって。

――それでは最後の質問になりますが、クリエイターズステーションはクリエイターを目指している人たちを応援するサイトです。その中には将来監督になりたいとか、映画業界で働きたいっていう人、いっぱいいます。目指している人たちにメッセージをお願いします。
諦めないこと。続けていれば必ず何かにつながるものがあるから、自分がやろうと思ったことを諦めないで、ピュアにずっとそれを持ち続けて、研究し続けて、企画を持ち続けていれば、多分どこかで必ず何かと出会えるので、本当に諦めないことかなと思います。私も企画書をいろいろなコンペティションに出して落ちて、やっとここに来てるっていうのはあるので、他の人にノーって言われても、違う誰かにはOKだったり、その人の価値観によって全然違うので、諦めないで、出会えるまで頑張って、ちゃんと自分を信じることが大切だと思います。
(text:Kiyori Matsumoto / photo:Mimi Nakamura)
坂本悠花里
東京藝術大学大学院映画専攻にて編集を学び、2019年に短編オムニバス映画『21世紀の女の子』の一篇『reborn』を監督。その後、中編『レイのために』(19)や短編『木が呼んでいる』(20)が国内で数々の映画賞を受賞。本作で鮮烈な長編デビューを飾る。

白の花実
2025年12月26日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
<作品解説>
周囲に馴染めず、転校を繰り返す杏菜が、新たな寄宿学校で出会ったのは、美しく完璧な少女・莉花。しかし、莉花は突然、屋上から飛び降りて命を絶ってしまう。残されたのは一冊の《日記》。ページをめくるたび、莉花の苦悩や怒り、痛み――そして、言葉にできなかった“ある秘密”が浮かび上がる。やがて日記から青白く揺れる“鬼火”のような魂が現れ、杏菜の心に静かに入り込み…杏菜は予想もつかない行動へと踏み出す――。
<キャスト>
美絽
池端杏慈
蒼戸虹子
河井青葉
岩瀬 亮
山村崇子
永野宗典
田中佐季
伊藤歩
吉原光夫
門脇 麦
<スタッフ>
監督/脚本/編集:坂本悠花里
プロデューサー:山本晃久
撮影監督:渡邉寿岳
美術:中條芙美
©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO






