高度な舞台表現と多彩な音楽で魅了、ミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
※写真:ミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の一場面。野中万寿夫(左)と立崇なおと(撮影:阿部章仁)
未来へ行くはずが1955年という過去に行ってしまう、過去で若き日の父母の出会いの機会を妨げてしまう…。さまざまな予定外が重なってバタバタする1985年の「現代っ子」マーティが大奮闘する様をコミカルに、そしてヒューマンに描いた映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がミュージカルになった。しかもエンターテインメントに徹した作品を創ることで定評のある劇団四季がオリジナルのクリエイティブチームと共に創り出した日本版のミュ―ジカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が今年2025年4月からロングラン上演され、連日万雷の拍手を浴びている。見どころはタイムマシンのデロリアン?1950年代の若者文化?それとも歴史改変によるタイムパラドックス(過去の事象を改変すると、既に確定している未来の事象と矛盾すること)をめぐるハラハラドキドキ? とても一つには絞り切れない興味深い要素が連射砲のように襲ってくる。劇場はさまざまな楽しみが雨あられと降るアミューズメントパークと化している。
ご承知のように、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は1985年に北米地区で公開されたロバート・ゼメキス監督の映画で、マーティを演じたマイケル・J・フォックスと科学者のドクを演じたクリストファー・ロイドの演技が高く評価され、2人を一気に映画界のトップスターに押し上げた。日本でも最終的に60億円を超える興行収入を上げる超大ヒットとなった。続編を2本も製作・公開し、三部作のシリーズとなった。
ミュージカル化は2014年にゼメキス監督と映画でタッグを組んだボブ・ゲイルの脚本での実現が発表され、2021年にロンドンの劇場街ウエストエンドで開幕。劇団四季の今回の日本公演は英語圏以外で初の上演となる。
実はミュージカル化には、大きな期待と少しばかりの不安があった。
期待は、マーティが運ばれてしまう1955年という時代背景。ダンスパーティーやプロムなど現代に続く北米の若者文化が背景になっていることと、ロックンロールの流れが始まった1950年代の半ばが舞台になっていること。
懐かしいと思う人も自分たちと同じ文化と思う人もいてさまざまだが、米国人が世代を超えて心をひとつにできる「出会い」や「互いの想いの深化」のシチュエーションだ。
ロックンロールはロックやソウル、R&B、ヒップホップにもつながる米国音楽近代化の源流。ミュージカルの重要な要素として、ダンスなどと共にふんだんに使われ、心を躍らせる。
図らずもパーティーの壇上に立たされたマーティが1985年の演奏テクニックや新しい音楽感性で過去の世界と「交流」するのもご愛敬だ。
ミュージカルの道具立てとしてこれほどの要素があるのは頼もしい限り。
映画版で音楽の基礎を築いたアラン・シルヴェストリにミュージカル版からはゼメキス監督の盟友、グレン・バラードも加わり、さらにライブ感のある舞台仕様の音楽が躍動している。
一方でちょっとした不安は、映画では架空の設定で組み立てられたSF的世界をさまざまな映像的テクニック(ただし、CG=コンピューターグラフィックスやVFXは使用されていない)で見せているものが多く、ミュージカルという実存の舞台でそれが実現できるのかというところにある。
しかし、舞台表現はものすごいスピードで進化している。複雑で立体的な照明に加え、プロジェクションマッピング、コンピューターで高度に同期された映像効果などで、デロリアンの疾走感、「時の壁」を超える越境感などを表現、最前列にいる観客にも異質感やつくりもの感を感じさせずに見せることに成功している。
何より、ミュージカルにはこれらの要素が音楽や歌、演技、アクションと一体となって完成する芸術としての一体感があり、心強いことこの上ない。
ミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は2025年4月6日から東京・浜松町のJR東日本四季劇場「秋」でロングラン上演中。チケットは2026年3月29日分まで発売中。
