「鉄さび」からあふれ出る “自然”と“生”の幽玄 YASUKA.M 個展 浪漫〜花鳥風月〜

Vol.3 大阪府茨木市
編集・ライター
Rust Friend
うみねこ1120

山深い森と木々の豊かな恵みを楽しむ動物たち、果てしない宇宙と星空を見上げる人々の吐息。YASUKA.Mさんは、無機物である金属からきこえる静かな声に神経を研ぎすませ、酸化鉄、いわゆる“鉄さび”を用いて幾重もの色調を使い分け、ときにリアルに、ときにファンタジックに、“自然”と“生”のひびき合いを描く日本随一の「さび師」である。

「美大(彫刻専攻)卒業後、しばらく作品が手につかない時期がありました。たとえば、木材ひとつ取っても、樹液や水滴がしみ出し、コケがむす。伐採されてもなお完ぺきな生命のあり様をみて、人間の欲望で手を加えることが耐えがたくなった。悩んだ末、ふと、高温・危険な作業場での基礎実習で、在学中の苦々しい思い出ばかり残る金属が頭をよぎり、“自然的”な美との関係性を着想したことが “さび” という素材との出会いです。」

自然から下賜を受け、自然と共存した古(いにしえ)の文明の結晶 ——— 島根県・奥出雲町に興った たたら製鉄の歴史をひもとき、その繁栄の礎となった刀剣のもつ鋭く稠密な金属美をあえて丸く型取って表現した現役たたら師との共同作品「たたらと玉鋼」(17年)から、YASUKAさんの金属作品の物語は花開いた。

奥出雲たたらブランドにも認証された円刀「たたらと玉鋼」 白刃と朝日のイメージを重ね合わせる

渋谷・表参道の展示会で玉鋼と彼女に出会って以来、絵画、栞(しおり)、ポストカード、衣服と表現の舞台を広げていく驚異的なスピードの裏側を、ファンのひとりとして直接本人にうかがった。

「真っ白なキャンバスから全てを創造する通常の絵画と異なり、“さびる”という自然現象を利用して描画するため、流れ作業のように同時に複数の制作に取りかかることができますし、マチエール(絵肌・質感)も連想しやすい。デジタル・ツールも使いつつ、下書きをある程度まで整えたら、後はさびに誘導され、さびが私の下書きを包み込むかのように彩を与えていく。文字通り、“錬金術”とも言えるさびの造形術に救われています。また、無機質なさびも意識を持っています。彼らの主張を汲みつつ、私の主張も彼らに受け入れてもらいながら、作品を仕上げていきます。」

個展初日には毎回多くのファンがYASUKAさんの相方と同じぬいぐるみ「ヤシカ」を並べて記念撮影

 

山の頂を描いた初期作品:「『赤さび』は時間をかけて広がるため遠近感を強く表現できる」とのこと

時の流れをこれ以上象徴する素材はないと語る YASUKAさん。鉄板に塗るさびと道具を丹念に選ぶのと同じく、ひとりの表現者として、鉄さびと将来への思いを余すこと無く伝えようとする彼女の言葉の選択は精緻を極め、その表情は引きしまる。

「 “身から出たさび” などと言われマイナスな印象を与えられがちですが、酸化(さび)とは “老い”の本質であり、すなわち物質のみならず人の生や人物ともシンクロするものです。さびの演出、自然の経過に身を委ねることで、人間(自分)の生のイメージに作品を引き寄せ、ときにそのイメージも大きく上回る  “管” のある作品が生まれます。

また、鉄さび画は、(自然や物からも)広く精神性を見出す点において、既存の日本の伝統芸術とも通底するものがあり、新たな伝統芸術として成長するポテンシャルがあると自負しています。作品に取りかかる前に関連する資料を読み深めながら、様々なタッチ・アングルに対応できる表現力と、対象物の特質をとらえる描写力をこれからも磨いていくつもりです。」

「浪漫 〜花鳥風月〜」と命名した “自然と人”  “宇宙と個(梵我)” の融合する個展は、信州の雄大な浅間連山のふもと、日本有数の景勝地・軽井沢において、2024年2月29日まで開かれている。

個展・フェアの詳細はこちら(https://store.tsite.jp/karuizawa-cg/event/magazine/37355-1126021122.htm

プロフィール
編集・ライター
うみねこ1120
横浜市出身。クリエイティブの原点は、学生時代に所属したメディアサークルでの新聞・雑誌・Web活動。 資源・エネルギー企業、法律系出版社、私立大学で法務(契約、商事、知財、訴訟etc)全般にたずさわり、現在は総合電機メーカーの情報法担当。かたわら、法律・特許事務所や業界団体の取材、記事執筆および企業案件のリーガル・コンテンツ作成など。

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