映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第46回『6人ぼっち』
『6⼈ぼっち』
▶修学旅行の思い出をおもいだしたい人におすすめ
キラキラしてるだけじゃない。青春の核心に迫る映画度100

心の痛みすらも、いつか輝きに変わる——それが青春の魔法なのだろう。
その輝きをもう一度味わいたくて、私は大人になっても青春映画を観続けているのかもしれない。
学生時代というだけでも特別な時間なのに、その中でもさらに貴重な「修学旅行」に焦点を当てたこの映画は、大人になった今でも懐かしい時間旅行へと連れていってくれる、とても素敵な作品でした。

<STORY>
クラスに友達が一人もいない“ぼっち”の加山糸は、修学旅行前の班決めで同じく“ぼっち”の5人と一緒の班にされ、さらに強制的に班長を任されてしまう。
そのメンバーとは、自己中心的で周囲から距離を置かれているTikTokerの馬場すみれ、真面目すぎて近寄りがたい新川琴、自慢話が多くてウザがられている五十嵐大輔、気が弱くて自分の意見を言えない山田ちえ、そして、ある理由で不登校になっていた飯島祐太郎。どの生徒も、一癖も二癖もある“ぼっち”たちだった。
修学旅行の行き先は「広島」。
「友達でもないんだし」と、各自で別々に行動しようと提案され、ギクシャクした空気のまま自由行動がスタートする。加山はなんとか班長としての役割を果たそうと奮闘し、メンバーも渋々ながらそれに従う。
それぞれが行きたい場所を順番に巡ることになるが、修学旅行というよりは、バッティングセンターや“SNS映え”のカフェ巡りといった、予想外の展開に。だがその中で、少しずつ仲間意識のようなものが芽生え始める。
しかし、ある出来事をきっかけに、誰も予想していなかった事態が起こる——
性格も趣味もバラバラな6人の“ぼっち”たちに訪れる、高校生活で一度きりの修学旅行。その行方は…?

とにかく、心に沁みました!
約90分という限られた時間の中で、6人全員がそれぞれの一歩を踏み出していく。
初夏にぴったりの、爽やかな余韻を残してくれる作品でした。
修学旅行の班決めであぶれてしまった高校生たちが、トラブルに見舞われながらも少しずつ友情を育んでいく姿は、予想していた以上に心に響きました。
悩みや傷さえも、自分を輝かせる光になるのが青春。
つまずいた経験すらも、未来を照らす糧となる——そんな時間を、この映画は追体験させてくれます。
また、6人それぞれの「行きたい場所」を順番に巡るという設定もとても良かった。
行き先にはそれぞれの個性が表れていて、広島巡りとしても視覚的な楽しさがあります。
映えスポットのカフェ、広島城、街を一望できる景色——
そして、広島という場所が私たちに「決して忘れてはならないこと」をそっと指し示してくれる。

大人になると、限られた時間と休日の中で、自分と価値観の合う人としか会わなくなる。
結婚や出産をすれば、その傾向はさらに強まる。
それは決して悪いことではないし、とても心地よいライフスタイルでもあります。
でも、この作品は、他人と足並みを揃えて行動する難しさや、人間関係における摩擦を描きながらも、「それでも一緒にいる」ことを選ぶ姿に、純粋な羨ましさを感じさせてくれました。
誰かと共に生きるということは、時に大変だけれど、やっぱり豊かなんだと。
この映画のおかげで、人との関わりにもう少し前向きになれた気がします。
照れくさくて言えなかった本音。ちょっとした誤解。
そんなつもりじゃなかったのに、傷つけてしまった言動。気づいてしまった心の闇——。
全体を通してリアルな演出が光っていて、自分の青春時代の記憶と重ね合わせながら観ることができました。

そして、映画の後半で明かされていく“ある秘密”。
キラキラだけじゃない、青春ならではの切実さが、沈んでいく夕日を背景に浮かび上がってくる。
でも彼らはその痛みを、輝きに変えていく。
その姿を見ていたら、自分の中の、誰にも言えなかった痛みが少しだけ成仏されたような気がしました。
もし、高校生の頃の、あの漠然とした不安や心配に押しつぶされそうになっていた自分がこの映画に出会えていたら、きっと救われていただろうな、と。
そんなふうに、過去の自分を優しく抱きしめるような時間でした。

最後に、どうしても伝えたいのがラストシーンの素晴らしさ。ネタバレではないので、少し言及させていただきます。
私はSNSを使っていて、毎日何かしらを記録している。
何も撮らなかった日は、ここ数年おそらく一日もない。
でも、この映画に出てくるあるシーンを観たとき、思い出したのが、ベン・スティラー主演の映画『LIFE!/ライフ』(2014)に登場する雪豹のシーン。
主人公ウォルター・ミティが、写真家ショーン・オコンネルを探し、アフガニスタンのヒマラヤ山脈にたどり着く場面。ショーンは希少な雪豹を撮るためにじっと待っているのに、ついにその姿が現れても、カメラのシャッターを切らずにただ見つめるだけなんです。
その理由を問うと、彼はこう答えます。
「美しいものは、自ら注目を求めたりしない」
(Beautiful things don’t ask for attention)
彼は雪豹を“ゴーストキャット”と呼び、その言葉と共に、このシーンは映画全体のテーマを象徴する名場面となっています。
この作品でも、同じように「撮影すること」へのこだわりを持つTikToker・すみれ(三原羽衣さん)が、旅の思い出をどう“昇華”させていくのか。
ぜひその姿に注目して観てほしいです。
飛び立つように新たな一歩を踏み出す6人の姿は、観ている私にも力をくれた。
6人に贈る拍手は、どこか自分自身にも向けられていた気がする。
過去を鏡のように映し出してくれる、素敵な時間でした。

『6人ぼっち』
5⽉2⽇(⾦)新宿ピカデリーほか全国順次公開

キャスト:
野村 康太 吉田 晴登 三原 羽衣 松尾 潤 鈴木 美羽 中山 ひなの 小西詠斗 賀屋壮也(かが屋)
Sora 八条院 蔵人 雪見 みと 溝口 奈菜 伊吹(伊吹とよへ) 篠崎 彩奈 倉本 琉平 河本 景 下野 由貴 黒江 こはる 神志那 結衣 桜木 那智
●監督/ 宗綱 弟 ●企画・脚本 / 政池 洋佑 ●エグゼクティブプロデューサー / 野田 爽介
●プロデューサー / 熊田 泰祐 ●音楽 / 坂本 秀一 ●編集 / 上野 聡一 ●製作幹事 / FOR YOU ●制作プロダクション / isai ●配給 / ギグリーボックス ●配給協力 / フューレック
©2025『6人ぼっち』製作委員会
2025年作品/カラー/上映時間:85分/シネスコサイズ
公式サイト:https://6ninbocchi.com/
公式SNS X・Instagram:@6ninbocchi
