映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第51回『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』
『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』
▶ゆるく笑えてじんわり心に残る映画を探している人、クセ強キャラを探している人におすすめ
放課後映画度100
放課後。
それは、授業の終わりのチャイムとともに訪れる、高校生にとっての1日の第二章。
本来なら自由なはずの時間なのに、どこか憂鬱の影が差す。
その理由は単純ではない。
帰り道の孤独、アルバイトに部活、人間関係の余韻、そして未来へのぼんやりとした見えなさ。
放課後の憂鬱とは、ただの退屈とはちょっと違う。
「子ども」と「大人」の境目に立たされる時間。
だからこそ、その憂鬱は後になって愛おしく思える。
自由な時間であると同時に、“自由すぎて自分が試される時間”でもあるんですよね。
そんな高校生の放課後にフォーカスされた映画が生まれました。これは新しい切り口なんじゃないでしょうか。

あらすじ
『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』は、ちょっと天然で生真面目な男子高校生・代々木ジョニーが主人公の青春群像劇です。マイペースな放課後を過ごしていたジョニーですが、スカッシュ部に熱血新人部員が入部し、バイト先で出会ったワケあり女子と惹かれ合うことで、恋愛、友情、部活の日常が少しずつ変化していきます。最終的にはスカッシュ部の団体戦の日が近づき、ジョニーの周りの出来事が大きく動き出します。
主人公・代々木ジョニーは、ちょっと不思議で天然っぽい。けれどどこか真面目で、マイペース。そんな彼とクセの強い仲間たちが集まって織りなすにぎやかでちょっと笑えて、でも心の奥にじんわり残る青春群像劇です。
二十年前、放課後をなんとなくダラダラ過ごしていた自分。何かが足りない気がして、何をするわけでないけれど人に会いに行ってしまうあの時間。
あったなぁ、私にもジョニーだった日々。

本作の大きな魅力のひとつは“オフビートな会話劇”です。
木村監督ならではの、核心をついているようでついてない、いや、でも語られていることもなんだかわかる感じもする!
そんなやり取りが次々と繰り出されて、つい笑ってしまう。
たとえばこの映画は冒頭から代々木ジョニーが付き合ってる熱子ちゃんに別れを切り出すシーンから始まりますが、
「好きなのに、別れたいの?」と女子から詰め寄られると「好きにもいろいろ種類がある」とジョニーくんは説明します。
納得できない彼女は「彼女じゃなくて友達として好きなのか」と問いただすと、
「どちらかというと僕が熱子ちゃん(彼女)を好きというのは日本史が好きとかそういうのと同じ種類の好きだと思う」と返します。
もちろん、熱子ちゃんは自分が日本史と同じにされている理由をジョニーに問いただします。
するとこんな感じの長台詞が始まるわけです。
「日本史と同じにされてるっていうか
僕は普段好きな科目はなんですかって
聞かれたら日本史って言うふうに答えるんだけど
それはその前に大前提として僕がそもそも勉強が好きなのかわからないわけで
そういう大枠を無視してというか
そもそも人のことを好きになるというのが全然わかってない人間に、その先の枝葉の部分の好き嫌いを言われてもというか(つづく)」
普通、恋愛感情の「好き」と「日本史が好き」は別物として扱われるべきですがそれを同列に置いて話してしまうって、「日本史が好き」というのと「君が好き」というのを同種の感情として扱うところが、なんだかズレていて面白い。
女性としては当然「は?」となるところですが、男性は真面目に言ってるので、そのギャップが笑いを生んでいます。

このシーンが文章で説明する以上に、役者の芝居によって立ち上がっていて、俳優陣の自然体なお芝居があるからこそこう書いてみると伝わりにくいのですが聞いてる側からすれば「そんな回り道してる場合か」とツッコミたくなるおもしろさがありますよね。
一例を出してみましたが木村監督の会話劇はずっとこのような絶妙なテンションなんです!(笑)
これを「木村流の軽やかな迷走」とわたしは名付けてます(笑)
核心を突いているのか、ずらしているのか分からない微妙なズレが、逆に人物の輪郭を浮かび上がらせます。
笑えて、でもどこか切なくて、聞いているこちらの人間観察欲もくすぐられるのです。
そして、おかしみ溢れるキャラクターたちを通して「ひと」自体が好きになる。
また、本作には木村聡志シネマティック・ユニバース(KCU)と呼ばれてる、木村監督の作品同士の緩やかなつながりも感じられます。
例えば、『違う惑星の変な恋人』(2024)のモー君役 綱啓永、ベンジー役の中島歩、
『階段の先には踊り場がある』(2022)の平井亜門、
「あのキャラは?」と、クスっとなるつながりをみつけるのもプチ宝探し的楽しい時間に。
そして、この映画の企画のもととなったミスマガジン出身の女優さんたちの個性に富んだ可愛らしさにも惹かれました。

最後に、主演の日穏さんが非常に魅力的!
代々木ジョニーって、本当に存在してるよね?と思わせられます。
ジョニーの表情は「困り顔」でも「達成感」でもない。どこか憂鬱で、それはまさに「一生懸命の一歩手前」。
その曖昧な落ち着かなさが青春の質感を体現していて、自分の若かった日々と照らし合わせちゃいました。
この等身大の存在感をものすごく自然に演じていて。ジョニーが存在してるんだと思わせる説得力がありました。
誰かを否定するわけでもなく、その時その時をちょっとだけ頑張って生きる。
決して全力ではないけれど。
そんなジョニーの柳のようなしなやかな存在感に見ているだけで、肩の荷が降りる。
観る人に心地よい解放感をもたらしてくれる、ある種の筋膜リリースみたいな存在感でした!稀有!
私もなんだか疲れが取れました。
ああ、最近妙に緊張しながら、何かに追われながら、生きていたのかもしれない。
そんな自分からの「解放」!
とまでの強いニュアンスではないけれど、緩やかな脱却を生んでくれたジョニーに感謝!
随所随所に挟まれた笑いもその効果をアップさせてくれてるんだろうな。
高校生の放課後に差し込む憂鬱をやわらげるのは、大きな事件ではなく、小さな居場所や誰かとの何気ない会話なのかもしれないと。
それで十分な学生時代なんだよと、
高校生の私に言い聞かせてあげたくなりました。
『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』
2025年10月24日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

出演: 日穏 今森茉耶 松田実桜 西尾希美 一ノ瀬瑠菜 加藤綾乃 吉井しえる 高橋璃央 瑚々 根矢涼香 平井亜門 綱啓永 中島歩 前田旺志郎 安藤聖 / マキタスポーツ
監督・脚本・編集:木村聡志
主題歌:カネヨリマサル「君の恋人になれますように」(Getting Better/Victor Entertainment)
製作:石田誠、直井卓俊、藤本款、久保和明、吉原豊、マイケル・キャリア|企画・キャスティング:直井卓俊|協力プロデューサー:秋山智則、三上真弘、山口幸彦|音楽:入江陽|撮影・照明・カラコレ:中村元彦|グレーディング:稲川実希|録音・整音・効果:堀内萌絵子|サウンドデザイン:山本タカアキ|美術:小泉剛|スタイリスト監修:手塚勇|スタイリスト:柴田真菜美|ヘアメイク:仙波夏海|助監督:中村幸貴|スチール:澤田もえ子 稲原怜奈|スカッシュ指導:西村佳子 坂田日葵|協力:ミスマガジン事務局、キングレコード|宣伝美術:寺澤圭太郎|宣伝協力:平井万里子|製作:「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」製作委員会(E&E・SPOTTED PRODUCTIONS・クロックワークス・レオーネ・ニューセレクト・TOWER5)
製作幹事:クロックワークス|制作プロダクション:レオーネ
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2025|日本|DCP|カラー|シネマスコープ|5.1ch|108min|G
公式サイト:yojoni.com|X:@yoyogi_johnny
©︎2025「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」製作委員会

X(旧Twitter):@sayumisaaaan /Instagram:@higashisayumi






