映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第56回『生きているんだ友達なんだ』
『生きているんだ友達なんだ』
▶うまく終われなかった人間関係を抱えている人におすすめ
昔の友達をふと思い出す度100
いなくなってから、あの時間がまぶしくなることがある。
友情は永遠だけが正解なのだろうか?
一生ものの友達。何十年と続く関係。
もちろん、それは美しい。でも、もしも「ずっと」じゃなくても、友情は輝く。
「あのとき、私たち、めちゃくちゃ仲良かったよね」
そう言える時間を抱えて生きていくことも、同じくらい尊いことなのではないか。

舞台は、とある田舎町。
働かない母親に代わり、パチンコ店で働き家計を支えながら暮らす優実。
不幸でも、かといって幸せでもない。
同じことが繰り返される、どこにも行けないような日々。
そんな優実には、石井という年の離れた友達がいる。
変わり者で、いい加減で、無責任。
1分1秒をノリで生きているような女。
正直、思い出しても「いいところ」はあまり浮かばない。
けれど、なぜか気が合った。
ある日、石井は「私たちは人生に問いかけられている」というメモを残して、突然いなくなる。
答えはくれない。
問いだけを残して。
その言葉に導かれるように、優実は母のもとを離れる。
そして5年後。
都会で華やかな生活を送る優実は、あの退屈だった日々を思い出している。
あの時間は、本当に退屈だったのだろうか、と。

本作は、ドラマ「初恋、ざらり」「彼女がそれも愛と呼ぶなら」「じゃあ、あんたが作ってみろよ」などを手がけてきた上野詩織の監督デビュー作。
自身の実体験をもとに、「今隣にいる人と、これから先も当たり前に会えるとは限らない」という思いから生まれた脚本は、第19回伊参スタジオ映画祭でシナリオ大賞を受賞。
大阪アジアン映画祭やTAMA NEW WAVEでも上映され、出会いと別れの記憶を静かに揺さぶる一作となった。

例えば石井さんが読んでいるのは、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』。
いわずと知れた名著だ。しかも彼女は、その本を二冊持っているという。
「そんなに好きなんですか?」と優実が尋ねると、
石井さんはあっけらかんとこう返す。
「それしか知らんだけ。」
立ち飲みを奢ると言って連れていかれた先は、洒落た店ではなく自販機。
買ったドリンクを片手に、地べたに座って飲む。
きっと優実は思っていたはずだ。こんな日常が、なんとなくずっと続いていくのだと。
「マスダの人生は、きっとまだまだこれからやで。」
そんな言葉を残して、石井は突然いなくなる。
二人乗りの自転車。
見つめ合わなくても、同じ方角を見ているふたり。
見つめ合わなくても、同じ方を。
あの距離感こそ、この映画の友情の正体だ。
この同じ方角を見ている演出は、後にまた効いてくる。

この映画が特別なのは、友情を美化しないところだ。
石井は決して“理想の友達”ではない。無責任で、勝手で、突然いなくなる。それでも、友達だった。
多くの作品が友情を救済や成長の物語にする中で、本作は答えを与えない。ただ問いだけを残す。その問いが、時間を越えて優実の中で生き続ける。
だからこの友情は、永遠ではないのに、終わらない。
名作『スタンド・バイ・ミー』(1987)や、私が心から感動した、昨年日本でも公開したタイ映画『親友かよ』(2025)が教えてくれたのは“永遠の友”よりも胸に残る時間の存在だった。
本作もまた、大切だったけれど、いろんな理由で永遠にはならなかった関係を、まるごと肯定する物語だ。それだけで、私は救われる。

石井というキャラクターの魅力も大きい。
幼稚園児のまま大きくなったような、飾らない自然体。
停滞した世界に風穴を開けるのは、石井を演じたアサヌマ理紗の存在感。
そして永瀬未留が演じる優実の“不幸でも幸せでもない”温度を保ったリアリティ。
このふたりのバランスが、この物語を成立させている。
石井は優実の人生を劇的に変えるわけではない。
けれど、何気ないノリと笑い、くだらない時間の共有が、確実に優実の心を支えていた。

この映画が描くのは、一緒にいた「長さ」ではなく、同じ瞬間を共有した「濃さ」。
ラストカットのことは詳しく書けない。
ただひとつ言えるのは、きっと私も優実と同じ行動をとるだろうということ。
追いかけない。それでも、確かに友達だった。
タイトルはエンドロールのあと、じわりと沁みる。
生きているんだ 友達なんだ。
36分。終わらない友情について、こんなにも静かに、深く、考えさせてくれる時間だった。

『生きているんだ友達なんだ』
2026年3月27日(金)全国順次ロードショー!

◆キャスト:永瀬未留 アサヌマ理紗 ジン・デヨン 笛木優子 じゅんいちダビッドソン
◆脚本・監督:上野詩織
◆主題歌:「Blurred」mabanua(origami PRODUCTIONS)
◆撮影:工藤雄太 ◆照明:中川翔平 ◆美術:浅田崇 ◆録音:吉田篤史 ◆スタイリスト:綾部秀美 ◆ヘアメイク:亀島チカ ◆助監督:冨田智 ◆編集:岩間徳裕 ◆カラリスト:小林亮太 ◆MA:須田有希 ◆劇中音楽:いいくぼさおり ◆スチール:umami
◆制作:株式会社 Lieetz. ◆プロデューサー:山田咲季、宮沢一道◆企画協力:中村弦己 ◆協力:伊参スタジオ映画祭、群馬県中之条町
◆配給:フリック
2026 年/日本映画/39分/ビスタサイズ/ステレオ
Ⓒ2025『生きているんだ友達なんだ』製作委員会








