映像2026.04.28

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第58回『チェイサーゲームW 水魚の交わり』

Vol.58
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『チェイサーゲームW 水魚の交わり』

▶日常の忙しさの中で、パートナーへの「思いやり」を見失いかけている人におすすめ

ただ美しいだけではない。生活の泥臭さが際立たせる、純度100

テレ東の深夜枠から始まり、日本初「復讐×愛憎のGL(ガールズラブ)」としてアジア圏を中心に熱狂的な旋風を巻き起こしたドラマ『チェイサーゲームW』シリーズ。
その待望の映画化となる本作は、単なる胸キュン映画でも、ガールズラブを特別視したファンタジーでもない。

かつて修羅場をくぐり抜けた春本樹と林冬雨が、愛し合い、家庭を持ち、成長した娘を育てる「その先の日常」を極めてリアルに、そして圧倒的に美しく描き出したヒューマンドラマだ。

あらすじ(公式サイトより)
ドラマ「チェイサーゲームW2 美しき天女たち」から7年後──。樹と冬雨は、中学生になった娘・月とともに、静岡県・伊東市で暮らしている。家事や子育て、仕事に追われる日々の中で、共に過ごす時間はいつしか「当たり前」になっていく。
7年という歳月の中で、ふたりの関係は“恋人”から“家族”へと変わり、少しずつすれ違いを見せ始めるー 。
お互いの何気ない言葉や態度に心を乱されながらも、表向きは穏やかな家庭を保ち続けるふたり。しかし娘の月は、両親の間に漂う違和感を敏感に感じ取っていた。
ある日、トラブルに巻き込まれた月は、タクシードライバーの梢に助けられる。その出会いをきっかけに、樹と冬雨は初めて互いの本音と向き合い、すれ違っていた“愛”のかたちを見つめ直していく。

家族として、そしてパートナーとして、変化してしまった「愛」を見つめ直し、再び歩み寄ろうとするふたりの姿を描いた、大人のガールズラブストーリー。

さてさて、まず最初に語りたいのは「チェイサーゲーム」シリーズの強み、実在のゲーム会社が監修を務めることによる「業界のリアル」の解像度の高さである。

このビジネス×サスペンス要素もまた、物語への興味を大きく引きつける要素だし、働く人たちにとっては、共感できる友人のような作品でもある。

ドラマ版では、巨大資本を前にしたパワーバランスの非対称性や、中間管理職の悲哀が容赦なく描かれた。
あまりにもひどい人事や手のひら返しな出来事に驚いたこともあったが、それが成功のためのリアルであったりもする。
毎度会社で起きる事件にも目が離せなかった。

今回の映画版でもその手腕は健在!
女性の活躍推進を声高に謳いながらも、その実現のために女性自身が背負わされる社内の根回しやしがらみといった、現代企業の組織的課題がシビアな視点で描かれている。

しかし、本作が映画として最も素晴らしいのは、そうした社会の荒波の先に待つ「パートナーシップの現在地」への容赦ないまなざし。

スクリーンには、主演の二人が織りなす甘美で息を呑むほど美しい世界観が確かに広がっている。
最初から二人が美しくて今回は特に度肝を抜かれる!ここは楽しみにしていてほしい。

しかし本作はただ綺麗なだけの映画ではない。

他者と暮らすのは誰であっても難しい。
共に暮らすということは細部にトラブルが宿るもの。

過ごしやすい部屋の温度設定での揉め事、「言っておいたことをやっていない」という日常の些細な不満など。
同じ家に暮らす者同士がすれ違う理由や、生活に伴うドロドロとしたリアルが、細部に至るまでしっかりと組み込まれているのである。

この生々しい生活の描写は、『マリッジ・ストーリー』(2019)や近作の『佐藤さんと佐藤さん』(2025)といった、夫婦やパートナーのすれ違いを描いた名作群を強く彷彿とさせる。

人間関係のリアル、他者と共に暮らすことの面倒くささから決して逃げずに描いているからこそ、二人が互いを見つめ直し、深く結ばれる瞬間の美しさが鮮烈なコントラストとなって浮かび上がるのだ。
この生活の泥臭さと愛の美しさの高低差、物語の圧倒的な緩急が見事に機能していた。

このリアリティと美しさの共存を可能にしているのが、主演を務める菅井友香と中村ゆりかの芝居である。
芯のある真っ直ぐな眼差しで「自分も夢を叶えたかった」と等身大の葛藤を体現し、心の機微を完全に映し出した表現を魅せた菅井さん。社会での完璧な仮面を家では脱ぎ捨て、脆さを隠さずに見せる中村さん。
二人とも、生活者の顔をしっかりみせてくれている。

そして対照的な二人が、セリフ以上に「間」や「視線」で激しく感情を交錯させる姿は映画でも変わらず、スクリーンから目が離せなくなるほどの引力を放つ。
今回は特にある種、人間関係がマンネリ化した状態だからこその諦めや失望の表情などもあり、これまでよりも豊かなお芝居を見られた気がします。

また思春期の娘を育てる親としての難しさも描かれ、とにかく「生活」の生々しさがしっかり描かれています。

しかし、やはり同時に、正直チェイサーゲームは美しくあってほしい。
そんな願いを叶えるごとく愛と憎しみを乗り越えた先の愛の尊さを、極めて純度の高い映画体験として昇華させてくれる。

ただ「綺麗な二人」だけではない、痛みと愛おしさが同居する「超リアルなパートナー映画」として、映画館の暗闇と大きなスクリーンでこそ目撃すべきかもしれない。

私たちはどうやって家族になるんだろう、そんなふうに思うすべての人に届けたい優しくて可愛くて、
どこまでもリアルなのに、小高い海の見える家に住む3人がまるでファンタジーのような愛しい映画だった。

『チェイサーゲームW 水魚の交わり』
2026年5月15日(金)より新宿バルト9ほか全国公開!

◆出演:菅井友香 中村ゆりか 岡本望来 黒谷友香 / 伊藤歩
◆原作:「チェイサーゲーム」 ◆漫画原作:松山洋 ◆漫画:松島幸太朗 
◆脚本:アサダアツシ ◆監督:太田 勇
◆製作幹事:株式会社サイバーコネクトツー
◆製作プロダクション:ダブ
◆配給:NAKACHIKA PICTURES

©2026映画『チェイサーゲームW 水魚の交わり』製作委員会

公式HP:https://chasergamew-movie.jp/

X / Instagram

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。
X(旧Twitter):@sayumisaaaan /Instagram:@higashisayumi

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