映像2026.05.26

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第59回『死神バーバー』

Vol.59
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美
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『死神バーバー』

▶学生の企画が原案!アイデアの種を探しているクリエイターさんや学生さんにおすすめ

泣きたい気分だけれど、重苦しいのは苦手な方へ!笑って前を向ける度100

映画における「死神」の存在は、決して単なる恐怖や終焉の象徴ではありません。
ある映画では人間の愛や営みに惹かれていく姿を、またとある映画では人間界でエージェントとして淡々と業務をこなす姿など、形は違えど彼らは人間とは異なる視点から「限りある命の尊さ」や「生きる意味」を浮き彫りにしてきました。
本作『死神バーバー』もまたその系譜に連なる作品ですが、「死神」と「美容室」を掛け合わせた点に、極めて秀逸でユニークな発明があります。悲しいはずの死の淵を、笑いと温もりで包み込んだ珠玉のヒューマンファンタジーでした。

あらすじ
仕事もプライベートもうまくいかず、苛立ちと閉塞感を抱えていた美容師の佐伯美帆(桜井日奈子)。ある日、階段で足を滑らせた彼女が目を覚ますと、目の前にいた新米の死神・サクマに、怪しい美容室「冥供愛富(メイクアップ)」に連れてこられました。そこは、死神美容師たちが亡くなった人にお色直しを施し、現世の家族や大切な人と1日だけ繋いで「最期の別れ」を手助けする場所です。しかし、美帆の本当の死は数日後であり、サクマの早とちりであったことが判明します。手違いから本当の死を迎えるまでの5日間の猶予を与えられた美帆は、死神美容室「冥供愛富(メイクアップ)」で過ごしながら、訪れる死者たちの様々な出会いと別れを見届けることになります。

死者を美しく送り出す映画表現といえば、『おくりびと』(2008)や『ほどなく、お別れです』(2026)などで描かれた「死化粧」の素晴らしいシーンが記憶に新しいところです。しかし、本作がフォーカスしているのは「髪型」です。

そもそも美容室という場所は、「何か変わりたい」「今より少しでも良くしたい」という前向きな願望や、ある種の決断が詰まった生のエネルギーに満ちた空間です。その場所を、「死を司る死神」が運営しているというギャップが、絶妙な効果を生んでいます。前を向くための場所で最期のお色直しを施されるからこそ、本作で死に向かう人たちは皆、残された者が幸せになるような温かい言葉を残して去っていくのです。

この作品の死神たちはお役所的なエージェントではなく、「人生の最終幕を前向きに整える、不器用で優しい裏方」として機能しています。

そして驚くべきは、本作は日本大学藝術学部の授業で提出された企画書を原案としています。

この学生(原案:梅木陽一)ならではの瑞々しく自由なアイデアを、見事な手腕で一本の映画へとまとめ上げているのが、いまおかしんじ監督です。

オムニバス形式で次々と展開されるいくつものエピソードをテンポ良く繋ぎ合わせ、笑いの中に一匙の寂しさを織り交ぜるバランス感覚は絶妙です。ファンタジー色の強い奇想天外な設定でありながらも、登場人物たちの細やかな感情の揺れをすくい取り、それぞれの人生に現実味を持たせている演出が素晴らしいです。

物語は、5日後に死を迎える主人公・美帆の視点を通して進みます。ここで光るのが、桜井日奈子のナチュラルな演技です。全編に「死のタイムリミット」という重いテーマが横たわっているにもかかわらず、彼女がコメディエンヌとしての軸を一切ブラさないため、決して湿っぽくなりすぎません。

「ずっと悲しい話なのに笑える」という奇跡的なバランスが成立し、観る者をスッと物語へ引き込んでいきます。美容室を訪れた死者たちの多様な別れを見届けるうちに、本作はいつしか観客自身を映す「鏡」となります。「自分なら誰に会いたいだろうか」「どんな風に最後の言葉を交わそうか」と、スクリーンを見つめながら自然と自問自答を促される構成が見事です。

この物語に欠かせないのが、日穏(KANON)演じる新米死神の存在です。

彼は生と死の境を分ける重要な役割を担いながらも、どこかおっちょこちょいで不器用なキャラクターです。その愛すべき姿は、1946年製作の伝説的名作『素晴らしき哉、人生!』の二級天使クラレンスを彷彿とさせます。

生と死の狭間で命の重さに直面し葛藤する新米死神。そんな彼らでさえ迷い、思い悩むのだから、現世を生きる私たちが毎日「どう生きるべきか」と葛藤するのはごく当たり前のことなのだと、深い肯定と納得を与えてくれます。

死神と美容室という奇抜な設定を入り口に、生と死、人と人との繋がりの機微をユーモアたっぷりに描き出した本作。

悲しみの中に確かな笑いと前向きな決断があり、観終わった後に自分自身の人生を優しく見つめ直させてくれる、愛すべき映画です。

『死神バーバー』
2026年6月26日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開!

◆出演:桜井日奈子、日穏/岡部 大、平井亜門、猪塚健太、佐久間祥朗/河屋秀俊、武田 暁、山脇辰哉、細井じゅん/坂巻有紗、日高七海、光嶌なづな、荒井啓志、佐々木ほのか/山下敦弘、川上さわ、守屋文雄、森蔭晨之介、西山真来/工藤 遥、宇野祥平 / 美保 純
◆監督:いまおかしんじ ◆原案:梅木陽一 ◆脚本:谷口恒平
◆主題歌:Furui Riho「太陽になれたら」(LOA MUSIC / PONY CANYON)
◆音楽:大槻美奈 ◆撮影:達富航平 ◆照明:及川凱世 ◆録音・整音:三門優介 ◆美術:貝原クリス亮 ◆編集:蛭田智子
◆ヘアメイク:仙波夏海 ◆スタイリスト:伊里瑞稀 ◆助監督:伊藤一平 ◆制作担当:鈴木英生 ◆スチール:フジムラヒヨリ ◆音響効果:佐藤恵太
◆製作:直井卓俊 菊池貞和 石田 誠 吉原 豊 Michael Carrier 川本じゅんき 久保和明
◆企画・キャスティング:直井卓俊 ◆プロデューサー:久保和明 ◆アソシエイトプロデューサー:寺田ケニー
◆宣伝美術:寺澤圭太郎 ◆宣伝プロデューサー:川崎 楓 ◆宣伝:菱木まい ◆製作:『死神バーバー』製作委員会 ◆制作プロダクション:レオーネ
◆製作幹事:SPOTTED PRODUCTIONS ポニーキャニオン ◆配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
カラー ◆ヨーロピアンビスタ ◆5.1ch ◆102min

©︎『死神バーバー』製作委員会

公式HP:https://shinigami-bb.com/

X / Instagram

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。
X(旧Twitter):@sayumisaaaan /Instagram:@higashisayumi

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