映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第57回『トランジット・イン・フラミンゴ』
『トランジット・イン・フラミンゴ』
▶無理をしない人間関係を求めている人におすすめ
人と人の距離を、少しだけ優しく考え直したいと思っている人へのおすすめ度100
私たちはすこしだけ真面目すぎるのかもしれない。
期待に応えようとし、空気を読み、誰かにとっての「正解」でいようとする。
だから現代では、頑張ることよりも「無理をしないこと」の方が、ずっと難しかったりする。そして、その見えない緊張感に、正直疲れてしまう瞬間がある。
そんな、肩に力が入ってしまった心をふっと解きほぐしてくれるのが、堀内友貴監督の映画『トランジット・イン・フラミンゴ』だ。

私が堀内友貴監督を知ったのは、『お祭りの日』(2024)という作品だった。
どこか伊坂幸太郎の小説のように、個性的で愛すべき人物たちと、おかしみのある会話が連なり、ばらばらに見えた出来事が少しずつ繋がっていく物語は、遠足の前日の夜のような胸の高鳴りがあった。“お祭りの夜”に街の温度がゆっくりと上がっていくような高揚感を思い出させてくれる作品だった。

今回の作品も同様に堀内監督は、人の気持ちがほんの少しだけ日常からはみ出す、その瞬間をすくい取るのがうまいなぁと唸った。
今作は亡くなった友人の残した「ほぼ正方形の冷蔵庫の真実をさがす」ことをきっかけに、三人の若者が奇妙な旅に出る。
主人公の小絵(山下リオ)と、ひょんなことから出会う二人の仲間(細川岳、祷キララ)。
彼らはその冷蔵庫を抱えながら、“フラミンゴを探す”という少し不可思議な目的のもと、あてもなく旅を続けていく。
道中では、思いがけない出会いや、とりとめのない会話が積み重なり、やがて彼らの間にある距離や、亡き友人への想いが少しずつ浮かび上がってくる。
ばらばらに見えた出来事や感情が、静かに繋がっていくなかで、三人はそれぞれの心の中にある“答えのようなもの”に近づいていく。
どこかシュールでユーモラスな旅の中で、日常の風景が少しずつ違って見えてくる。そんな小さな変化を描いた、静かで温かなロードムービーです。

スクリーンには、点々とピンク色が映り込む。
モヤつく女性が羽織るピンクのカーディガン、想像の中で見る桜、そしてピンク色のパジャマ。
まるで彼らが少しずつ、フラミンゴという得体の知れない真実に近づいていくかのようだ。
潰れたトマトで汚れ、血がついたようにも見える作業服。
そして、ほぼ正方形の冷蔵庫をリュックサックのように背負うシュールな光景。
それでも不思議と「本当にこんな人たちがいるのかもしれない」と思えてしまうのは、山下リオ、細川岳、祷キララという三人の演技が、呼吸が合いすぎないまま、しかし確実に響き合っているからだろう。
劇中では、フラミンゴについての興味深い会話が出てくる。
フラミンゴは、助走がないと飛べないこと。
そして、生で見ると意外とよごれていて汚いこと。
私も初めて知った!
そして同時に遠くから見れば、片足の奇跡的なバランスで立ち続ける静かな芸術のようだが、近くで見るとどこかユーモラスで、少し泥臭い。その神秘性と不格好さが共存しているところこそが、フラミンゴの最大の魅力なのだと気づかされる。人間にも完璧な人がいないように・・・。

劇中で、フラミンゴは思いもよらない場所で見つかる。もし彼らがフラミンゴを探す旅に出ていなかったら、その瞬間はきっと見過ごされていたはずだ。
人は何かを探しているときにこそ、これまでただの風景だったものに意味を見つける。
そう考えると、この奇妙な旅は、日常の中に潜む大切なものに気づくための物語でもあるのかもしれない。
そしてこれは、そのまま私たちの人間関係にも言えるのではないか。
遠くからは完璧に見える人も、近づけば不器用で、飛び立つためには長い助走が必要だったりする。
この映画の三人組が無理をしていないように見えるのは、互いの「助走」を急かさず、近くで見る「泥臭さ」をそのまま受け入れているからだ。

近すぎず、遠すぎない。
相手の領域に土足で踏み込むことはしないけれど、重たい冷蔵庫は一緒に持ってくれそうな気がする。
そんな絶妙な距離感が、たまらなく心地よい。
遠くから眺めるだけの、美しい関係性じゃなくていい。
時には片足でふらつきながら、少し泥をつけて、それでも隣で歩いてくれる人がいる。
「無理をしない距離感」のお手本のような彼らの姿を見ていると、少しだけ自分の呼吸が深くなるのを感じる。
「真実を知ったとしても、誰かにとっての魅力は変わらない」
そう確信させてくれる本作は、人間関係に少し疲れてしまった人や、自分らしくありたいと願うすべての世代に届いてほしい一本だ。

◆キャスト:山下リオ、細川岳、祷キララ、三浦誠己、田中隆三、古川琴音(声の出演)
◆監督:堀内友貴
◆エグゼクティブプロデューサー:河瀨直美
◆プロデューサー:吉岡フローレス亜衣子
◆撮影:春木康輔 ◆照明:髙﨑 信 ◆録音:森 英司 ◆美術:塩川節子、藤原達昭 ◆音楽:工藤祐次郎 ◆編集:岡﨑正弥 ◆スタイリスト:飯田恵理子 ◆ヘアメイク:南辻光宏、中野泰子 ◆助監督:内田知樹 ◆制作担当:濱本敏治 ◆企画・製作:なら国際映画祭 ◆助成:奈良県、宇陀市
© 2024 ”Transit in Flamingo” NARA INTERNATIONAL FILM FESTIVAL
HP:https://www.transitinflamingo.com/
X:https://x.com/Transit_movie
『トランジット・イン・フラミンゴ』
2026年5月15日(金)新宿武蔵野館、Strangerほか全国順次公開







