映像2026.09.09

重岡大毅演じる航の“人間らしさ”を追求し、近藤亮太監督がAIサスペンスを人間ドラマへ昇華

Vol.91
映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』監督
Ryota Kondo
近藤 亮太

AIに完全犯罪の方法を尋ねた兄妹が予想外の事件に巻き込まれていくサスペンス『5秒で完全犯罪を生成する方法』。殺人を犯してしまった妹・幸来(原菜乃華)を守るため、兄・航(重岡大毅)は生成AIの指示に従い事件の隠蔽を図る。しかし、その選択は思いもよらない事態を招いていく。
メガホンを取ったのは、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025)で国内外から注目を集めた近藤亮太監督。本作で意識した演出やホラー作品で培った手法、そしてAI時代だからこそ考える映画づくりについて語ってもらった。

岡田道尚の脚本を“人間ドラマ”として描いた

脚本は岡田道尚さんが担当されていますが、最初に読んだ感想を教えてください。

私自身、脚本を書くこともあるのですが、自分では絶対に書けないタイプの脚本だと思いました。岡田さんがこれまでワクワクする脚本をたくさん書かれてきているのが納得できるというか。さすがという印象ですね。そしてこの脚本を信じて監督をするのは面白そうだと思いました。

自分では書けないと思われた理由を教えてください。

物語をどう盛り上げていくかなど、話のうねらせ方みたいな部分です。自分だったらここまでダイナミックで大胆にできないと感じる部分もたくさんあって。物語の中で何度もどんでん返しが起こるのですが、それも思ってもいなかった方向から来るなど、本当にあらゆる手を使って面白がらせてくるところです。もう面白さに貪欲なんですよ。とにかく次から次へといろんなことが起きるので。

サスペンスでありながら人間ドラマとしての側面もある映画ですよね。

各キャラクターが抱えているバックグラウンドはとても緻密に考えられている脚本だと思いました。その中で自分が関わるのは、演出の領域でどこまで人間ドラマとして表現できるかということは常に考えていました。脚本に書かれているキャラクターをどう魅力的に見せて、俳優たちとのやり取りでリアルに面白くしていくかが、自分が本作に携わる意味というか。なので、岡田さんはもちろん、皆さんと話し合ってキャラクターの描写は決めていったところもあります。

日常を丁寧に描くからこそ、人間らしさが生まれる

初海航(はつうみわたる)を演じた主演の重岡さんとはどのような話をされたのですか?

重岡くん自身も役についてノートにすごく書いていたらしく、自分なりにとても考えてきてくれていました。その上で話したのは、「どんな人物も矢印は一方向ではなく人によって接し方も見方も変わる」ということです。これは自分なりの人間らしさの表現の一つで、どの作品でも変えないようにしていることで。例えば、“航は妹のことをとても大切に思っている”ことは第一に表現すべきことだけど、同時に彼には妹以外の生活もあるんですよ。妹だけが彼の人生の全てではない。それはどのキャラクターも同じで。悪人ではあるけどある人から見ればいい人だったり、最終的にはかなり悪いことをするけど実は悲しい過去を持っていて同情できる…など、良い面もあれば悪い面もある、それが人間かなと。このことについては本作でも大事にしました。あと、殺害後、どのように日常を過ごしたのかとかも話し合いましたね。たとえ後ろめたいことやミスがあって、いつか誰かから怒られると思っていたとしても、いったんは普通にご飯を食べたりできるじゃないですか。人間ってそんなものなので、その感じを自然で演じられたらと。

そのようなことを話された上で重岡さんのお芝居はいかがでしたか?

納得してくれて丁寧に組み立ててくれました。人間らしく表現できていた気がします。それは原さんも同じで。過度に軽くする必要はないけど、ずっと深刻な表情であり続ける必要はないと。日常は日常として流れていくことを気配として出そうとしました。どんなことがあってもご飯は食べるし、日常は続いていくので。

どんなことがあっても変わらない人間らしさのようなことを大切にしているのは、これまで監督がホラーを撮っていたことと関係しますか?

あると思います。特にJホラー*といわれる幽霊などを扱う作品のときは、ある種のリアリティーがとても大事なんですよ。自分たちの日常の中にこういうことが起きるかもしれないと感じさせることなので。だから日常をさらっと描くようにしています。それはこの作品を作る上でも反映されていたような気がします。

*日本の文化や怪談をベースにした、目に見えない恐怖やじわじわと迫る心理的描写を特徴とするホラー作品。主な作品『リング』『呪怨』

日常とかけ離れたシーンで、七希(田中みな実)が生成AIであるモリアーティ(石丸幹二)と話す場面が印象的でしたが、逆にこのようなシーンはどのようなことを意識されたのですか?

絶対に現実世界ではないと信じさせないといけないと考えました。そのためにはゼロから空間を作り出す必要があるんですが、その際に参考にしたのが、デイヴィッド・リンチ*の世界観です。自分の引き出しの中にある面白い空間として彼の映画に出てくる世界があったので、そのイメージを伝えていました。実は私、結構デイヴィッド・リンチを参考にすることが多いんですよ。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』のときは、夜の森を撮る際のライティングを参考にしたり。かなり大胆なことをしている監督なので参考になりますし、勇気づけられることも多いです。デイヴィッド・リンチでさえこういう撮り方をしているんだから、これくらい大胆にやっていいんだって。

*デイヴィッド・リンチ(1946~2025)アメリカ合衆国モンタナ州出身の映画監督、脚本家、プロデューサー、ミュージシャン、アーティスト、俳優。 主な作品に『イレイザーヘッド』『エレファント・マン』『ブルーベルベット』『ツイン・ピークス』など

任せることで再確認した現場の大切さ

スリリングなシーンなど、ワンカットを多用していたのも印象的でした。

これは時間がないという物理的な理由が大きいです。もちろん、デビュー作の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』と比べたら予算も上がっていますし、撮影日数も倍以上あるのでかなり恵まれているのですが、実際に現場に入ってしまうと、こんなに時間がないんだと思いました。なので、的確に撮っていくことが大事で、自分のやり方としてはカット数を多くせずに撮るのがいいなと。なるべく一連で撮っていく方が自分としても撮りやすく、俳優の方々が演じる上でもリアリティーを感じやすいと思いますし。なので、演出上とタイムパフォーマンスとして考えた結果、ワンカットが多かったです。

今回、編集は監督がされたのですか?

撮影と公開までの時間があまりなかったということもあり、初めて編集のプロにお願いしました。最初につないだものを見せてもらったときは、感動しましたね。きちんと一本の映画になっているなと思って。もちろんその後、私やプロデューサーなどいろんな人の意見を聞きながら最終的に仕上げていったのですが、初見の時点で面白いと思えたのはうれしかったです。自分で編集をするとどうしても冗長になったり一連でやったことを見せたくなるのですが、バッサリ切ったり、思ってもいなかったところにこのカットを持ってくるか…!みたいな発見がたくさんあって。プロの編集のテクニックがふんだんに使われていました。最初撮っているときは130分くらいになるかと思っていたら107分になっていて、さすがだなと思いました。

現場ではいろんなポジションの方と話し合いながら作っていったのですか?

私もそうですが、特に重岡くんがとにかくいろんな人と積極的にコミュニケーションを取る人で。共演者の方はもちろんですが、私や助監督などありとあらゆるスタッフの人と話していて。それが座長としてはもちろん、俳優としてすごく良い面で素晴らしいところだと思いました。コミュニケーションをとることで、それぞれが何を目指しているのかクリアになっていきますから。すごくやりやすい現場でした。

何でも面白がることが創作につながる

映画に興味を持ち始めたのはいつごろからですか?

映画を観るようになったのは小学6年生のころです。もともと怖いもの好きだったのでホラー映画を見ようと親にレンタルビデオショップに連れていってもらって。そのとき見つけたのが『スクリーム』(1996)。パッケージが面白そうで借りたら、冒頭で『13日の金曜日』(1980)に関するクイズが出てくるんですよ。当時、見たことがなかったのですが、なんだかキーワードだけ知ったことで見た気になってしまって。自分の中で勝手な想像が膨らんでいき、ある日、夢でものすごく恐ろしい『13日の金曜日』を見て。それがあまりにも怖かったのでどんどんホラー作品を借りて観るようになっていきました。それからはサスペンスなどホラーに近似したジャンルに手を出していき……。あとは中学生のころ、映画好きという話をすると「この作品が面白いよ」みたいな情報交換が行われたりして、どんどん映画を観るようになっていきました。

監督を目指すきっかけは何かあったのですか?

昔から好きなものができるとやってみたくなるタイプで。漫画を読むようになったら漫画家になりたくなったり、小説家になりたくなったり……。なので映画を撮りたいと思うのも割と自然なことでありました。それが現実味を帯びたのは、『呪怨』(2003)を映画館に観に行ってパンフレットを買った時で。清水崇監督の通っていた学校として映画美学校という名前が出てきたんですよ。そこでこんな学校があるんだということを知りました。その後、黒沢清監督の作品を観るようになって黒沢監督について調べていたら、映画美学校の講師をやっていると出てきて、自分の中で映画美学校に行くというのが人生の中の一つ目標になっていきました。

監督を続けられる原動力は何だと思われますか?

映画はやっぱり面白いですよ。人と関わることが多いですが、一緒に何かを作る楽しさもありますし。頭の中で思い描いていた面白いことが形になる楽しさがありますから。もちろん、漫画や小説にもありますが自分だけ作るものではない。というのが大きい気がします。

クリエイターとして大事にしていることを教えてください。

私はなるべく何でも面白がろうと思っています。映画作品でも批評家っぽく感想を言っていた時期もありましたが、特に自分が映画を撮るようになってからは、「なんかつまらない」と批評する意味はあまりない気がしていて。基本的に映画は、誰かが面白いと思ったからつくられているわけで、もし失敗しているのならどこかでそれが伝わらなくなっているんですよ。なら、誰かが面白いと思ったところはどこなのかを探して面白がるほうがいいと思っています。そのためには面白いと感じ取れる引き出しは多めに持っておいた方がいい気がするんですよね。自分にとってあまり引っかかることではないにしても誰かにとっては面白いわけですし。面白がる感性を大切にした方が人生が豊かになると思います。

いろんな作品を観た経験なども引き出しに入っていくんですね。

あと意外と全くやっていなかったことなどもやってみると参考になることもあります。こういう人いるよなとか、こういうシチュエーション面白いなっていう発見もありますから。作品に直接つながらなかったとしても参考になることは多いです。

今回AIがテーマでしたが、AIにはできない、クリエイターだからこそできることは何だと思いますか?

AIは精巧にできていて、スピードも速いし、役に立つこともたくさんありますが、おそらく、唯一できないことは「決定」だと思います。決定するときは、その人の思いやこだわり、思考が絶対に入ってくるものなので。自分はこういうことをしたいという理屈じゃない思いはAIには取って変われない部分だと思います。思考することこそ、その人の個性ですから。それはどれだけAIが浸透してもあまり変わらないような気がします。

取材日:2026年8月5日 ライター:玉置 晴子 動画編集:鈴木 夏美

©2026「5秒で完全犯罪を生成する方法」製作委員会

『5秒で完全犯罪を生成する方法』
2026年9月11日(金)全国公開

出演:重岡大毅/原菜乃華/田中みな実/伊藤 歩/黒田大輔/森岡 龍/九十九黄助/石丸幹二
原案・脚本・プロデュース:岡田道尚
監督:近藤亮太
音楽:Teje
制作:小竹里美/中村浩子
企画・プロデュース:松下剛/島本講太
制作幹事:ギャガ/ストームレーベルズ
配給:ギャガ
制作プロダクション:アークエンタテインメント
製作:「5秒で完全犯罪を生成する方法」製作委員会
公式HP:https://gaga.ne.jp/5byodeseisei/
公式X:https://x.com/5byodeseisei

ストーリー
重岡大毅(WEST.)主演、原菜乃華共演のクライムサスペンス。岡田道尚によるオリジナル脚本で、妹・幸来から助けを求める電話を受けた航は、部活顧問の教師の遺体を目にする。意図せず教師を殺してしまったという妹を守るため、航が頼ったのは生成AIだった。「完全犯罪を成立させる方法」を問いかけるが、予期せぬ事態が次々と発生。さらに謎の女・七希が現れ、兄妹は事件に巻き込まれ、窮地へと追い込まれていく。

プロフィール
映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』監督
近藤 亮太
1988年6月28日生まれ、北海道出身。高橋洋監督の『霊的ボリシェヴィキ』(2018年)や、三宅唱監督によるNetflixシリーズ『呪怨:呪いの家』(2020年)などで助監督を務める。自主制作でも頭角を現し、2021年、第1回日本ホラー映画大賞にて『その音がきこえたら』がMOVIE WALKER PRESS賞を受賞。2022年には、短編『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025)で第2回日本ホラー映画大賞の大賞を受賞。同作を長編化し、2025年に商業映画監督デビューを果たす。モキュメンタリー番組「TXQ FICTION」(テレビ東京)の「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」などの演出も手掛ける。

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