映像2026.07.15

「僕は人に恵まれている」上坂龍之介監督作品『レンタル家族』が異例のヒットを記録!

Vol.89
映画『レンタル家族』監督
Ryunosuke Kosaka
上坂 龍之介

初監督作品『レンタル家族』で中之島映画祭グランプリを受賞し、2025年12月に行われた単館上映では連日満席を記録した上坂龍之介監督。レンタル家族というユニークな題材を通して、“これからの人間関係の肯定”を描いたヒューマンドラマは、多くの観客の共感を呼んだ。
本作は、レンタル家族というサービスを通じて出会った人々が、“家族を演じる”ことで時間を共有する中で、本当の家族とは何か、人と人とのつながりとは何かを見つめ直していく物語。血縁や肩書きでは語れない関係性を通して、孤独を抱える現代人の心の機微を丁寧に描き出している。
大学時代に着想を得てから約10年間温め続けた企画に込めた思いや、人との縁に支えられた映画づくりの裏側、そして映画監督を目指す原点となった祖父とのエピソードまで、上坂監督に話を聞いた。

10年間温めていた“人間関係の肯定”をテーマに描きたかった

レンタル家族が題材ですが、思いついたきっかけを教えてください。

大学で映画学科に通っていたときに短編映画を撮るという授業で考えた企画です。当時、本来仲良くできたり、愛し愛される関係なのに、年齢や地位、性別といった社会的な見え方が邪魔をして本当は一緒にいたいのに一緒にいられない人が多いと感じていて。そのような外的要因により引き起こされる人間関係の否定とこれからの人間関係の肯定をテーマにしたいと思い、企画しました。当時はあまり真面目に学校に行くタイプではなかったので、作品として撮るというところまで行かなかったのですが、この10年ほど温めていて、今回一つの形にできればと思いました。

大学卒業後、留学をされたり社会人を経験し、 “人間関係の肯定”というテーマには惹かれる部分はありましたか?

出会い方、年齢、性別、国籍など、自分が置かれている立場みたいなものが本来の人間関係を邪魔していると感じることがありました。例えばマッチングアプリで知り合って結婚するというのは少し昔だと恥ずかしいという感覚があった人も多かったと思うんですよ。今では普通な気がしますし、本人たちがきちんと心を通わせていれば出会い方なんて関係ないと思います。そのような小さな積み重ねみたいなのを感じる瞬間は常にありました。

共同脚本の土井涼介さんとはどのような話をしながら脚本を作っていったのですか?

大枠は僕が作りました。登場人物は僕がイメージしやすいように実際に自分の周りにいる方を当てはめているんです。例えば主人公の父親は忠勝といいますが、これは僕の亡くなった祖父の名前で、母親の千恵子は祖母の名前、洋子は母の友達の名前で、レンタル夫の豪は僕の友達の名前…。このようにして作っていると、登場人物の行動で悩んだときは、あの人ならどうするかと答え合わせがしやすく、人格がブレにくいです。そして細かい脚本は土井さんに仕上げていただき、一緒に話し合いながら修正して作りあげていきました。土井さんは大学時代のバイトの先輩で、最寄り駅もたまたま一緒だったりして打ち合わせもとてもしやすい環境でした。土井さんは人間性も素晴らしい方なんです。

初めてだからこそ自分の感覚を信じて演出した

初めての演出はいかがでしたか?

良くも悪くも初めてだったので演出の“当たり前”がなかったですし、演出には明確な正解はないと思っているので、あまり深く考えず、俳優さんには思ったことをそのままお伝えしました。荻野さんに言われて印象に残っているのは、僕はシーンの最初のセリフからすぐに撮るのではなく、20秒くらい前の会話をアドリブでしてもらいそこからカメラを回して後は俳優さんのタイミングでセリフを言ってもらうようにしているのですが、それが珍しいと。この演出方法が良いのか悪いのかは、ぜひ映画を観ていただいてご判断いただければと思います。実際にアドリブ部分を使ったり、セリフだけを使ったりとさまざまですが、これは演技の基礎がないと成立しない演出なので本当に皆さんに助けられたと思いました。

予算も日数も少ない中で作られたとのことですが。

僕からしたら大金だったんですが、制作費は約400万、チラシやホームページを作ったり映画祭に出品したりしてかかった費用は約200万の合計600万ほどで作っています。そして撮影スケジュールは大体10日間。本当に朝から晩まで撮って、俳優さん含めスタッフのみんなはよくやってくれたと思います。お金も時間もない環境で、いい雰囲気のまま撮影を進められたのは、人間的に素晴らしい方が多かったおかげだと思います。だから撮影期間中はとても楽しくて。逆にここまでした作品なので、結果が出なかったらどうしようという不安は公開前までありました。昨年12月に行われた一週間限定公開中も、お客様の意見が気になりすぎて、どちらかというと公開時期の方が精神的にしんどかったです。

現場で人間関係をよくするために行っていたことはありますか?

実はスタッフは、日頃から一緒にやっているメンバーなんですよ。映画をやるからといって映画のスタッフを呼んでイチから作ったのではなく、すでにチームワークができているスタッフで。だから一致団結していてよかったと思います。脚本の土井さんもスタッフもみんないろんな巡り合わせがあって出会うことができて今があるので。配給会社さんも共通の知り合いにご紹介いただいたり、本当に僕は人に恵まれているというのは非常に感じますね。だから余計、初めての作品である『レンタル家族』は今このタイミングだからこそできた作品でもあります。

本作は中之島映画祭でグランプリを獲得し、昨年12月に単館映画館で1週間の限定公開がされると予約が殺到して話題を呼びましたが、反響は届いていましたか?

もちろんです。中之島映画祭は中之島(大阪)のお祭りに紐付いた映画祭なので、無料で映画が見られてお客さま投票でグランプリが決まるんですよ。一般のお客様に面白いと思っていただいてグランプリを獲れたのはうれしかったです。そしてそのご縁で劇場公開が決まって。できるだけたくさんの人に見ていただきたい気持ちでチラシ配りなども地道に頑張りました。で、蓋を開けて見ると全日満員で。本当にありがたいとしか言いようがなかったです。そしてチラシを配った方から映画についての感想などを教えてもらったんですよ。映画はお客さんに見てもらって初めて映画になるので、本当にありがたかったです。

祖父への後悔が映画監督を目指す原点になった

子どものころから監督になりたかったのですか?

映画業界に入りたいと思ったきっかけは、小学生の頃に見た『ラストサムライ』(2003年)です。当時の僕は、映画好きの父親の影響もあり、TSUTAYAに行って旧作を借りるのがルーティーンでした。ただ父親は洋画しか見ない人だったので、映画は海外のものというイメージで、海外の人しか出られないし作れないと思っていました。それが『ラストサムライ』を見たら、渡辺謙さんが出ていて、日本人でも出られるんだ、作れるんだ!と知り、それなら自分も映画業界に入りたいと漠然と思うようになりました。

映画監督を職業にしようと思ったのはいつなんですか?

映画監督になりたくて、18歳で映画が学べる大学に進学するため東京に来て、大学を卒業した後は、1年間制作会社でバラエティー番組やスポーツの生中継のADをしました。その後、海外で挑戦したいと彼女(今の妻)と共に留学したのですが、向こうに行って3カ月で妊娠が分かり帰国。その後は映像プロダクションを立ち上げて営業プロデューサーのような形で映像制作に携わってきました。ただ、28歳のとき、祖父が亡くなり地元に帰って祖父と対面したとき、自分でも驚くほど涙が出たんです。そのときに胸の中にあったのは、祖父に映画を見せられなかったという後悔で。映画監督になりたくて東京に行ったのに、いろんなことを理由にして自分の夢を追うのを忘れていたんです。そこからは監督になりに東京に行ったんだから映画監督になろうと改めて思うようになりました。そして映画監督になるにはいろんな選択肢がありますが、僕の当時の状況から、撮って映画祭に出品しようと思い、『レンタル家族』を作りました。

ご家族は本作をご覧になりましたか?

中之島映画祭に両親や祖母、叔父叔母などたくさんの親戚が見に来てくれました。母と祖母は泣いて喜んでくれて。舞台あいさつで千人近くいる人の前に立ったのですが、自然と泣いている祖母が目に入ってきたんですよ。それは不思議な光景でした。本当に作ってよかったなと思いました。

自分の目標を定め、そこに向かってまずは行動してみる

次の作品など構想はありますか?

ありがたいことに、オファーをいろいろいただいて。俳優・荒井啓志さんとタッグを組んで短編映画を作ったり、商業デビュー作が控えたり、ドラマの監督もやらせていただくことになっています。これら全て、脚本の土井さんから他のスタッフまでほとんど同じメンバーで一緒にやっているので力強いです。みんな大変だと思いますが、せっかくチャンスが来たならやるしかないということで力を合わせることにしました。それと同時に、僕の中にはいくつかやってみたい企画があって渋滞している状態です。機をみて徐々に実現していけたらよいですね。

改めてクリエイターとして大事な事は何だと思いますか?

矛盾するかもしれないですが、“人の意見をしっかり聞きつつ、人の言うことを聞かない”こと。僕も周りが見えなくなってしまうことがあるので、やはり人の意見はしっかりと聞かないといけない。ただ一方で、みんながこれがいいと言っていても違うと感じたなら自分の感覚を信じて押し通すことも必要だと思っています。少し空気が悪くなっても自分の正解を突き通さないと、それは監督としての誠意というか。その瞬間はイヤな人になっても自分が納得するものを撮るべきだと思います。あと自分の目標を決めて、その目標に向かうためにはどうすればいいかを判断すること。そして“行動力”も必要。頭で考えていても形にはならないし、いざやってみると全然想像と違ったりするものなので、まずはやってみることがとても大事だと思います。

取材日:2026年5月25日 ライター:玉置 晴子 スチール:中村 美海 動画撮影:指田 泰地 動画編集:鈴木 夏美 

©KOHSAKA Pro

『レンタル家族』
7月31日(金)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

監督:上坂龍之介
脚本:土井涼介、上坂龍之介

出演:荻野友里、駒塚由衣、黒岩徹、龍輝、中本りな、松林慎司、中村芽生、田崎礼奈、田中壮太郎、鈴木浩文、小野孝弘、保田賢也、白木博子、小野翔平、荒岡龍星

89分/日本/16:9/カラー/5.1ch
配給:ラビットハウス
ⒸKOHSAKA Pro

公式HP:https://rental-kazoku.com

ストーリー

東京の会社に勤務する洋⼦は仕事で多忙な毎⽇を過ごす傍ら、定期的に実家へ帰省をし、⽗・忠勝とともに認知症の⺟・千恵⼦のケアをしている。千恵⼦の症状は近頃進⾏が早く、洋⼦が数年前に離婚したことさえ忘れ、帰省の度に元夫と娘について聞くのであった。ある⽇、洋⼦は取引先の担当者から、「レンタル家族」というサービスを紹介され、体験レンタルを強く勧められる。⽿馴染みのないサービスに⼾惑ってはいたが、断りきれない洋⼦はレンタル夫を家事代⾏として⾃宅に呼ぶ。派遣されたレンタル夫の松下豪と⾺が合った洋⼦は、松下に千恵⼦のことを相談。すると松下は、⾃分を夫、知り合いの⼦役・安⽥朱⾥を娘として、家族を演じることを提案する…。⽇々進⾏していく千恵⼦の認知症、不器⽤ながら千恵⼦を⽀えようと奮闘する忠勝、複雑な事情を抱えながらレンタル家族を担う松下と朱⾥。洋⼦は、⾃分を取り巻く“家族たち”と月日を重ね、新たな幸せのかたちに触れていく。

プロフィール
映画『レンタル家族』監督
上坂 龍之介
1995年1月30日生まれ、兵庫県出身。2025年に初監督した自主映画『レンタル家族」を発表。第23回中之島映画祭グランプリ、ハンブルグ日本映画祭ノミネート(ドイツ)など国内外の多数の映画祭で評価を受ける。2025年12月に新宿ケイズシネマにて1週間限定で上映され、全日満員御礼を記録した。2026年7月31日から新宿ケイズシネマにて本公開。

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